週刊東洋経済(2001年12月22日/1月5日号掲載 P138-P141)


Key Person マイケル・E・ポーター ハーバード大学ビジネススクール教授
「戦略論の大家が説く日本企業再生」

日本企業には力が備わっている独自戦略構築で競争モデル革新を
聞き手・山縣裕一郎(本誌編集長)、リチャード・カッツ(NY支社特約記者)

 ポーター教授は、戦略論の大家として世界的に知られる。若くしてハーバード大学教授となり、日本でも「競争の戦略」「競争優位の戦略」(ダイヤモンド社刊)といった古典的な著書は広く読まれている。最近では「Can Japan Compete?」(邦訳は「日本の競争戦略」ダイヤモンド社刊)を共著で刊行するなど、日本企業、日本の競争力の問題にも強い関心を寄せている。
 本年から一橋大学大学院国際企業戦略研究科が主催で、ポーター賞が創設された。その授賞式に参加するために来日された(ポーター賞については本誌12月22日号で紹介)。戦略論の観点から、日本企業の現状をどう見るか、そして進むべき道を問うた。

 ――日本企業の競争力強化を目指して、日本で先生の名前を冠したポーター賞が創設されました。先生自身は、この賞について、どのように考えているのでしょうか。

 大変名誉なことだと思います。どのような賞にするのか、どう受賞企業を選定、評価するのか、といったプロセスに参加できたことはよかったと思います。ただ、私が受賞企業を選んだのではないことは、はっきりさせておきます。なぜその企業を選んだのかについては、報告を受けました。そしてその判断を強く支持しています。この賞での私の役割は、コーチでありアドバイザーになることです。
 日本企業の成功モデルはつい最近まで、世界から賞賛され、世界じゅうで研究対象ともなっていました。しかし1980年代末までに、そのモデルがガス欠になってきていたのです。この賞が日本企業の考え方を転換する機動力になってくれればと思います。

 ――日本企業はリストラを進めていますが、「戦略」の観点でどう見ていますか。

 日本は中国、韓国などと、コストの引き下げ競争では勝てません。企業戦略を新しい段階に進めなければならないのです。日本企業はリストラクチャリングが必要だと考えていますが、人員削減をして小さくなるだけでは、成功を導くことはできないでしょう。リストラは不利な点を減らすということであり、また優位な点を作り出すということでもあります。特徴ある製品によって独自戦略をとらねばなりません。
 日本株式会社という言葉がありますが、日本の企業は似たような商品を作り、似たようなマーケティングで、似たような流通チャネルで販売するから、そういわれるのです。もっと日本企業は特色を持たないとだめだと思いますが、それには何を選択し、そして何をやらないかということを、はっきりさせなければなりません。
 ポーター賞の第一の目的といえることは、日本企業やその経営者に対して、「戦略」を教育することです。戦略とはいったい何でしょうか。今回ポーター賞で受賞された会社は、手本になるはずです。例えば受賞された松井証券は自分のビジネス領域を見い出し、ミニ野村、ミニ大和になろうとしませんでした。来年はさらに日本で(独自の戦略構築に)立ち上がる会社が増えてくれることを願っています。戦略というものが考え方、マインドセットの変革の道具として機能してくれればと思います。
 私は日本の企業は、その技術、国際的な流通システム、マーケティングチャネル、それから従業員の自覚などを見て、どの点でも力があると思います。本当の問題点は、そのモデルにあるのです。競争モデルにこそ問題があり、ほかの点はそれほど問題ではない。日本企業は、リストラや物事の選択に当たって、「攻めの決定」をすることが、難しいようです。
 日本でうまくやっている企業を調べると、そこには強いリーダーがいます。そうしたリーダーはコンセンサスを取っていくタイプの人ではなく、自分で進むべき道を決めたいという人です。ただ、それは必ずしもノーマルなスタイルではありません、特に大企業にとっては。

日産ゴーン改革の示唆するものとは

 ――企業が自分自身でどう改革を進めるか、というポイントと、企業が改革を進めやすい環境がどう整備されるか、という二つがどうバランスされるかという問題があります。

 経済の構造改革がうまくいけば、企業は独自戦略を取りやすい環境になります。規制の緩和、技術革新、消費傾向の変化などが起これば、それは企業にとって、独自のポジションをとる機会が増えることになると思います。そういう意味では、ダイナミックな状況は重要です。
 日本企業は自分のドミナンスを、その産業のどこに築くのか、全力で考える必要があります。仮に経済全体の構造改革がなくとも、企業戦略を大きく向上させることはできるはずです。(企業そのものの行動と、そのマクロ環境との)両者のバランスが重要です。
 構造改革が日本で進めば進むほど、日本企業はより一層、独自戦略を取りやすくなると思います。

 ――先生が「Can Japan Compete?」を刊行されてから二年ほどが過ぎました。日本企業にその後、変化の兆しは感じられますか。

 ゆっくりとしたものですね。しかし、それはまた確かに起こってはいます。大胆な改革が進んでいるかと言えば、(全体としては)まだわずかで、臆病な感じを受けます。
 日産自動車のケースは興味が引かれます。大きな論議があるようですが、これは本物のかなり大胆な改革でしょう。新戦略なしに単純なリストラだけで、劇的な成果を上げることができるでしょうか。これまで日産はトヨタのようにやろうとして、トヨタが高級車をやれば、自分もやるというふうでした。日産が勇気を持って改革していることは、日本の企業がどうなれるかを示しています。日本企業がもっとずっと明確な戦略目標を持てば、前進できるといっているのです。

 ――日本企業の活動は、一般的に、長い間、停滞的な状態を続けています。先生はこの事態をどう見ていますか。

 日本について印象的なことは、経済に対して、中小規模のベンチャー企業が成長することによる影響があまり見られないことです。なぜ物事が柔軟に進まないのか、その理由の一つはそんなところにあるのではないでしょうか。こうしたベンチャー企業は、本来、大企業が縛られているものに縛られなくてもよいのです。
 日米の大企業を比較すると、米国の場合は、ボーイング、シティバンクなど、(事業の)焦点が絞られています。首尾一貫した事業の組み合わせを持っています。
 日本では人的な資源が分散してしまっています。生産品目を減らし、事業部を減らし、力点を絞り、限られた領域で勝負すべきです。
 たとえば、日本の半導体産業は、ほとんどの半導体製品をほとんどの会社が作ります。これはインテル、モトローラなどと全く違うやり方です。
 唯一の信頼に足る経営の指針は、その企業が本当に経済的な価値を生み出しているかです。それは資本に対するリターンで測った収益性だけです。売り上げやシェアではありません。

GEの事業領域は広がりすぎている

 ――日本企業のリストラが進むには、これからどのくらいの時間がかかると思われますか。

 通常、それは二、三年で大きく前進させるべきものです。今、日本の人々はいてついてしまっています。そこが問題です。米国でも多くの間違いがあり、ばかげたことも起こりました。たとえばインターネットに関して起こったことは、そのばかげた例です。しかしいったん、これはおかしいということになれば、プロセスチェンジは迅速に進みます。80年代後半に米国では銀行危機がありました。S&Lの危機です。ただ米国では危機を認識すると、ダイナミックに動きます。日本では危機に対症療法で接し、問題に立ち向かうことを避けるところがあります。

 ――ところでGEについてはどう評価されているのでしょうか。

 GEはプラスチックからジェットエンジンというように、数々の事業分野を持ち、それぞれの事業分野に大変な経営資源を擁していますが、私は事業領域が広すぎると思っています。一つのグループ会社として、そうした事業をすべて維持していくということに、経済的なロジックはないでしょう。ロジックからすると、やがてGEはもう一度、リストラせざるをえなくなると見ています。

 ――General ElectricではなくてSpecific Electricというわけですね。

 (笑)。幾つかの会社に改めてセットアップされてくると思いますよ。

小泉政権以外で改革はできない

 ――小泉政権は日本資本主義の非効率部分の改革を目指しています。こうした政策は日本企業が競争力を回復する上で、マクロ的によい環境を作り出し、プラスに働くと評価されますか。

 それには二つの答えがあると思います。
 一つは首相の進んでいる方向は正しいと思います。しかし成果を得ようとしても、難しいことが多いことです。
 小泉首相が臆病で、変革したくないという人ではないと思っています。自民党内での衝突、既得権益者との衝突など、すべての局面で、首相自らが奮闘しなければならないでしょう。(これまで)ロビーイングによって、実質的に日本の国策が決定されてきたという状況は、私には考えられないことです。
 日本の国民は、小泉改革を成功させなければならないと思います。それは彼以外に、この方向で代わりにやっていけるような人が見当たらないからです。
 改革が進まないようなら、首相は根本的な政治再編を決断するのではないでしょうか。彼が自民党システムの中で改革できないと判断するならば、それをあきらめて、違う人たちと手を組むということです。
 日本国民の小泉首相への支持率は依然高いものです。改革が遅いと批判するのは簡単ですが、日本人は変革が必要だと感じているのではないでしょうか。

インタビューを終えて

 東海岸のクールな大秀才のイメージの先生ですが、手ぶりを交え、戦略論の観点から、日本企業のあり方を、情熱的に語られていました。若いころには台湾に住んだ経験も持ち日本を含めたアジアには強い関心を寄せられていることも知りました。ポーター賞の創設を契機に、日本企業、日本についての発言が、一段と増えてくれれば面白いと思います。

プロフィール

マイケル・E・ポーター Michael E. Porter
 プリンストン大学工学部航空機械科卒業、ハーバード大学ビジネススクールでMBA、1973年同大学院で経済学博士号。82年最年少教授。現在に至る。