受賞企業・事業レポート

株式会社シマノ バイシクルコンポーネンツ事業部

2003年度 第03回ポーター賞受賞 自転車部品製造業

自転車部品をシステム化。その後は、リードユーザーとバイクショップとの密接な結びつきによって継続的に先端ニーズを把握し、頻繁な新製品開発によって製品を高度化してきた。部品メーカーでありながらマウンテンバイクについては市場創造を行なった。ブランドへの信頼も高く、競合の追随を許していない。

企業概要

シマノは1921年創業。世界の自転車部品業界のリーダー。
競技用自転車部品の世界市場でシェア60から70%を有していると言われている。

ユニークな価値提供

 シマノは変速、制動、駆動など、自転車の操作性、安全性など重要な機能を決定する部品に特化し、それらをシステム化することによって、単独部品の組み合わせでは提供できない機能と使いやすさと快適性をエンドユーザーに提供している。例えばブレーキレバーとシフトレバーは別々のものだったがこれらを一つのレバーに一体化し、使いやすさを格段に向上させた。ロードレースのプロ選手は、手元での変速操作が容易になったことによって、変速のストレスから開放され、レースの駆け引きに集中できるようになった。また、マウンテンバイク市場の立ち上がり時期には泥や砂埃に強く耐久性があり、加えてハンドルから手を離さずに変速できる、といった全く新しい機能を提供してメンテナンスを簡素化し、より多くの人がより気軽にマウンテンバイクで遊べるようにした。
 ロードレースやマウンテンバイク市場で磨かれたシステム性能は、コンフォートバイクと呼ばれるレジャーバイクやシティーバイクといったより一般的なユーザーの市場にも展開され、より一般的なユーザーがより簡単に高度な機能を使うことができるようになっている。

独自のバリューチェーン

技術開発
 システム性能を重視し、個々の部品の開発担当者は、単品部品の性能の最大化ではなく、システムコンセプトの実現とシステムとしての性能発揮を第一要件として開発とテストを行う。
 ロードレースとマウンテンバイクのハイエンドセグメントに製品開発を集中化し、毎年新製品を導入し、機能、使いやすさ、快適性を改善し続ける。例えば、社外のマウンテンバイクのエリートライダーを組織。定期的にプロトタイプの実走テストを行う。
 エンドユーザーの要望や苦情の聞き取りは、直接、バイクショップ経由、の二つのルートで行われる。直接のルートには、チームスポンサー活動、「シマノ」を冠したレースやイベントの主催、レースメカニックの派遣がある。「シマノ鈴鹿ロードレース」は20年の歴史を持ち、マウンテンバイクイベントの「シマノバイカーズフェスティバル」は13年の歴史を有する。メカニックスタッフは勿論の事、レース審判から駐車場係りまでが社員によって運営され、多くの社員が自転車愛好者と直接触れ合ってニーズを理解する機会となっている。バイクショップ経由のルートには、バイクショップを社員が個別訪問する「ディーラーキャラバン」、バイクショップを招いて行う「新製品プレゼン」がある。これらの活動はマーケティング、セールス担当者に加えて開発担当、品質保証担当者も参加し、顧客からの要望や苦情を聞き取る。
 新しい自転車スタイルの方向性を探求し、他の部品メーカーや完成車メーカーとのコラボレーションによる「コンセプトバイク」提案活動を行なっている。既存の部品技術だけでは不可能であったような提案や、自転車のスタイルそのものを変えていくような提案を探している。

マーケティング・セールス
 プロモーションはハイエンド市場に集中している。高機能自転車の主要市場である欧米では、プロロードレースのスポンサー、プロチームのスポンサー活動で高機能というブランド認知を確立した。「シマノ鈴鹿ロードレース」や「シマノバイカーズフェスティバル」といった国内の冠イベントもまた、自転車愛好者に同社のブランド認知を強める役割を果たしている。
 これらのイベントは市場を拡大し、あるいは創造する役割も果たしている。特に1980年代後半に現れたマウンテンバイクという遊び方は一部のユーザーが始めたものであったが、適した部品を供給すると同時に、完成車メーカーにも働きかけ、イベントも主催するなど、同社が積極的な働きかけによって市場拡大を促した。
 ハイエンドの顧客への販売ルートであるバイクショップへのサポートは充実している。1965年に早くも米国に販売子会社を設立するなど、自らの手で直接、現地のバイクショップをサポートしてきた。「ディーラーキャラバン」や「新製品プレゼン」で直接商品説明をしたり、修理技術を教育する機会を設けている他、選抜された社員が3ヶ月間、欧米のバイクショップで働く機会を設けており、バイクショップの仕事の理解と現地の自転車コミュニティの理解に努めている。これだけ手厚いサービスをバイクショップに提供している例はなく、バイクショップからの信頼を獲得している。

アフターセールス・サービス
 「ディーラーキャラバン」でバイクショップに商品機能と修理技術を教育。同社は毎年新製品を導入するので修理用部品の継続的な供給が課題となるが、自社のディストリビューションネットワークに加え、各地のバイクショップと「シマノサービスセンター」契約を結び、より迅速に、多くの修理部品をバイクショップに常に提供する。

活動間のフィット

 システムコンポーネントを鍵概念とする同社の機能差別化戦略にとって重要なのは、継続的な機能の向上であり、頻繁な新製品の導入である。同時に、その製品の価値を伝えるマーケティング活動と、新しい調整技術や修理技術の教育と交換部品の供給が求められる。イベントの主催やチームスポンサーなど、同社が持つエンドユーザーとの直接のコミュニケーションの場や、徹底したバイクショップへのサポート活動は、同社に開発のヒントを与え、同時に同社の商品の機能を伝えることを可能にしている。さらにイベント主催やチームスポンサー活動は、自転車スポーツ愛好者の裾野を広げるのに貢献すると同時に、同社のブランド確立に役立ってもいる。ロードレースとマウンテンバイクという二つの異なるリードマーケットへ商品を開発することは、相互に技術の共有と強化を可能にしている。たとえば、欧州のロードレースでは米国よりも路面や気候の条件が悪いことが多いので、マウンテンバイクの開発によって培った泥や誇りに強いシールの技術がロードレース用の商品に活かされた。
 エンドユーザーからのプルを目指してエンドユーザーのニーズ把握と対応を重視しており、完成車メーカーからの要望に対応する専用部品開発や特別生産は行わない。これは同時に、開発と生産にかかる負荷をコントロールするためである。単品の開発と違ってシステム開発は複雑性が飛躍的に増す。
(「活動システム・マップ」を参照ください。)

戦略を可能にしたイノベーション

  • 部品が物理的に独立し、インターフェースの業界標準が世界的に確立され、部品メーカーも各部品単位で専業であるのが常識であった自転車部品業界において、変速、制動、駆動などの部品を独自のインターフェースでシステム化した(システムコンポーネント化)。
  • マウンテンバイクという新しい市場を創造・育成した。

戦略の一貫性

 1973年にロードレース専用部品を発売して以来、高機能を要求される市場を技術開発のターゲットとした戦略を維持している。コンポーネントのシステム化の試みは1973年に始まり、その後一貫している。近年は変速システムを電気化・自動化する試みを続けているが、これも機能と使いやすさと快適性を追求する姿勢の一貫である。

トレードオフ

  • 部品単品の性能の最大化は追求しない
  • システム化することによって機能が向上しない部品、例えばサドルやタイヤは扱わない。
  • システム価値を消費者に提供するため、システムを構成する部品の個別の市場投入はしない。
  • 顧客のブランドを冠する専用製品は扱わない。
  • 自転車の完成車を扱わない。完成車メーカーは部品メーカーの同社にとって顧客である。
  • 製品の機能や取付・修理の説明を十分に行うため、商社頼みの製品説明は行わない。
  • マスマーケットへのマーケティング活動を単独では行わない。

収益性

 投下資本利益率、業界平均ともに一貫して自転車部品業界の平均を大幅に上回る。

活動システム・マップ

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第24回 ポーター賞 応募期間

2024年5月 7日(火)〜 6月 3日(月)
上記応募期間中に応募用紙をお送りください。
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