受賞企業・事業レポート

ブックオフコーポレーション株式会社

2006年度 第06回ポーター賞受賞 中古書籍販売業

書籍の中身でなく外観の状態によって価格を設定する新しい価格メカニズムと、シールによる在庫管理など簡易な店頭オペレーション、パート社員の能力を引き出す人事管理制度で、「普通の本」の中古市場を創造、中古書籍販売における新しい戦略を創出した。

業界背景

中古書籍販売業は、各店がニッチ市場にターゲットするのが成功モデルであると考えられてきた。具体的には、ある分野の研究者やマニアを惹きつけるために、店の品揃えに特徴を出すことが重要であると考えられてきた。そのためには希少性や文化的価値に基づいて書籍の価値を判断できる目利きが必要であり、その育成には少なくとも数年の経験が必要であると言われてきた。そのため、中古書籍販売業においてチェーン展開は難しいというのが業界で一般的な見方であった。

企業概況

ブックオフコーポレーションは、中古書店をチェーン展開したパイオニアである。ブックオフの品揃えはマニア向けというよりは、一般的に読まれる書籍が中心である。店は清潔で明るく、入りやすい。1990年5月に1号店を開店して依頼、2006年現在06年3月現在の店舗数は854店(直営291店、フランチャイズ563店)である。90年代半ば、日本経済が後退した時期に、他業種から参入が見られたが、在庫を十分に回転させることができず、その多くが撤退した。現在ブックオフは、中古書籍販売市場でシェア6割を超えるが、店舗数増加と既存店増収の結果、依然として成長基調にある。

ユニークな価値提供

ブックオフは、これまで自宅で死蔵されていた書籍、マンガ、CD、DVD、ゲームソフトに市場を与え、中古書籍の売り手としての一般的な消費者に、これらを簡単に売却することを可能にした。

さらに、買い手としての一般的な消費者顧客には、安価に、わかりやすいプロセスで中古書籍を提供している。ブックオフで販売されている中古書籍は状態によって価格が設定されている。外観の状態が良いものは定価の半額程度、汚れやヤケなど状態の程度によっては100円で販売されており、平均すると定価の20%である。日本の新刊書は再販制度によって値引き販売ができないために定価が守られているが、ブックオフによって多くの人々が安価に書籍を購入することができるようになった。

独自のバリューチェーン

購買
ブックオフは、一般消費者から広く仕入を行うことにより、書籍を安く調達することが可能になっている。買い取り価格は書籍の外観の状態で決まり、状態のいいものは定価の10%程度、状態の程度によっては最低10円で買い取られる。

買い取られた書籍は、表紙を磨き、小口を集塵機能付研磨機で削られる。

物流
ブックオフでは、買い取った店でその書籍を販売する。したがって、物流プロセスは非常に短い。買い取りの物流は、顧客が店に書籍を持参、ブックオフが顧客を訪問してピックアップ、あるいは、顧客がブックオフに書籍を送付することもできる。

店舗運営
ブックオフの店舗運営は非常に単純化されており、入社一年目の店長と7?8人のパートタイマーで運営することができる。書籍の買い取り、値付け、在庫管理は単純で、働き始めて3日目のパートタイマーでもこれを行うことができる。書籍は種類とサイズによって並べられており、補充作業も簡単である。例えば、ハードカバー、新書、子供向けマンガ、大人向けマンガなど。

単純な店舗オペレーションは、工夫の余地のない機械的なオペレーションだというわけではない。入り口に近い書棚にどういう書籍を並べるか、顧客の動線と商品の配置等をはじめとして、様々な局面で工夫の余地があり、従業員の創意工夫はこれらに向けられている。

在庫管理
ブックオフの在庫管理は単純である。4半期毎に違う色のシールが購入時に貼られ、大まかにいつ頃仕入れたものかがわかるようになっている。単品管理は行わない。
ブックオフは、在庫を売り切ることを目指して在庫管理をしている。そのために販売価格は、在庫期間が長くなると一気に引き下げられる。通常、外観の状態の良い書籍は定価の半額程度で売られているが、2シーズン前のシールがついている書籍は、一気に100円に値下げされる。また、同じ本で在庫が5冊を超えた分は100円にされる。音楽CDに関しては、本部から提供されるガイドラインを基に価格が決定される。

マーケティング
ブックオフのマーケティング活動は、中古書籍の買い取りをいかに拡大させるかに集中している。新聞の折込ちらし、看板、のぼりなどで、「売ります」ではなく、「お売りください」を強調している。これは中古業が、仕入れた量以上を売ることができない(一時流通のように、卸やメーカーから自由に仕入れられるわけではない)ことに起因している。

人事管理
ブックオフの人事管理の特徴は、店で働く全ての人々の能力を活かすことにある。ブックオフにおける昇進の基準として求められるのは、社員もパートタイマーも「仲間のパートアルバイトと一緒に、愚直に努力を続けられること」「周囲に気遣いができること」と明示されており、「人を育てた人を最も高く評価する」文化が定着しているため、新人のトレーニングなどは現場で率先して行われる。店長には大幅な権限委譲が行われており、パートタイマーの採用と昇進の権限が一任されている。

研修は本部、部門、研修能力のある店舗で行われる。各店舗のパートタイマーのリーダーは、毎年、海外研修に参加することができる。海外研修の目的は、直接的には、各店舗のノウハウの共有や、店舗における最新の問題点の収集と対策立案などであり、間接的には、視野を広げ、英気を養うことにある。

また、ブックオフは、パートタイマー、アルバイト全員に対して、店舗の業績と目標を開示、共有しており、経営目標実現に向けた彼ら彼女らの自発的な取り組みを促している。

活動間のフィット

 入社して3日目のパート、アルバイトでも本の買い取りや在庫管理ができるようなわかりやすい店舗オペレーションという概念、在庫回転率、パート・アルバイトのモチベーションという三つの概念を中心に、ブックオフの活動は選択され、調整されている。この概念は、本の外観の状態による値付けや、シールによる在庫管理、単品管理をしないこと、などの活動の中心にある。また、在庫回転率を高く維持するために、一定期間経ても売れない書籍や5冊目を超える在庫は一気に100円に値下げするなどの活動が行われている。さらに、パート、アルバイトのモチベーションを高く維持するために、経営課題の共有や、教育制度、明確な昇進基準などが設けられている。パート、アルバイトのモチベーションを高く維持することで、人件費は抑えながらも書籍の配置などの売り場の工夫を可能にし、在庫回転率が高く、お客様にとっても気持ちのいい店舗運営を可能にしている。 また、パート、アルバイトのモチベーションが低いと、仕事を楽にするために、持ち込まれた書籍を買い取らない、店頭の品揃えが変わらず店頭が活性化しない、販売が低下する、持ち込みも減り仕入れが減る、という悪循環に陥りやすい。パート、アルバイトのモチベーションを高く維持することによって、買い取りが活発になり、売上増加に結びつく。(活動システム・マップを参照ください。)

戦略を可能にしたイノベーション

  • 買い取り価格を、本の文化的価値でなく、外観の状態に基づいて決める
  • 販売価格も、本の文化的価値でなく、外観の状態と在庫期間で決める
  • 3ヶ月ごとに色を変えるシールによる在庫管理
  • 小口の研磨と表紙・背表紙の清拭サービス

戦略の一貫性

入社して3日目のパート、アルバイトでも本の買い取りや在庫管理ができるようなわかりやすい店舗オペレーションと在庫回転率を重視した運営は、1号店の開店時から、ブックオフの運営の基礎となっている。その後、取り扱い商品が書籍から、CD、DVD、ゲームソフトと広がり、新品の価格が需給バランスによって変動するこれらの商品では、外観による画一的な価格設定が有効ではないことが明らかになったが、価格設定の活動を本部からサポートすることで、店舗オペレーションを単純に維持することに成功している。

トレードオフ

  • 商品知識を備えた目利きを育成しない
  • 商品の単品管理(在庫管理)をしない
  • 品揃えによる店舗の独自性を追求したり、提案販売をしない
  • 書籍を長期間在庫しない

収益性

 投下資本利益率、営業利益率ともに中古書籍販売業界の平均(中央値)を上回っており、差は拡大傾向にある。

活動システム・マップ

計画達成のための4箇条

  1. 一つの店舗の店長・スタッフが全員、自分の店舗の目標を知っていること
  2. 店舗の数字がスタッフ全員に分担されていて、全員達成意欲を持っていること
  3. スタッフは自分の数字に責任を持っていること 店長は数字のチェックを日常的に行っていること
  4. 目標達成のために常にミーティングにより衆知を集めていること

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第24回 ポーター賞 応募期間

2023年5月 8日(月)〜 6月 5日(月)
上記応募期間中に応募用紙をお送りください。
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