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受賞企業・事業部レポート

テルモ株式会社 心臓血管カンパニー カテーテルグループ

2010年度 第10回ポーター賞受賞 医療器具製造販売業
グローバルジャイアントの逆を行く

業界背景

心臓血管のカテーテル治療(開胸外科手術でなく、血管の内側から治す)では、シースイントロデューサーという器具を使って、血管にカテーテルの挿入口を確保する。そこから、ガイドワイヤーを入れて、検査用カテーテルとよばれる細いチューブを冠動脈の入り口まで進ませて、X線で血管を撮影し、問題個所を特定する。 次に、バルーンカテーテルとよばれる先端が風船のように膨らむカテーテルで、詰まった冠動脈を押し広げる。そこに、ステントとよばれる金属の筒を押し広げて置くことで、冠動脈が再び詰まらないようにする。

カテーテル市場は、心臓領域の他に、脳、下肢の3つの治療部位からなる。また、カテーテル市場は、その使われ方から、血管導入(シースイントロデューサーで血管にカテーテルの入り口をつくる)、病変アクセス(ガイドワイヤーで詰まった部分までの道筋を確保、ワイヤーに沿って挿入した検査用カテーテルで先端から造影剤を流して問題個所を特定する)、治療(先端が風船のように膨らみ、詰まった血管を押し広げるバルーンカテーテルや、押し広げた血管に留置し、再び血管が詰まらないようにするステントなどで詰まりを治す)と分類することもできる(テルモによる分類)。製品イノベーションは、薬剤が溶出するステントなど、治療用途の器具で盛んに行われており、血管導入や病変アクセス用途の器具に比べて、製品単価も高い。

カテーテル市場は、Boston Scientific, Johnson & Johnson, Medtronic, Abbot Laboratoriesの米大手企業が圧倒的に強く、合わせて市場シェア80%強を占めている。これら4社は、研究開発型ベンチャー企業の買収によって次々と新しい技術を獲得し、その強みである臨床開発力やグローバル販売網を活かして、その技術を迅速に世界展開している。製造は外部委託していることがある。これらグローバルリーダーの製品ラインは幅広く、3つの治療部位それぞれで満遍なく製品を揃えている。

カテーテルは、医薬品監督当局の認可を必要とする医療器具。日本他数カ国では政府によって価格が決められているが、米国をはじめとする多くの国では市場が価格を形成する。

概要

テルモは、業界リーダー4社に対して後発で、心臓領域に特化、同領域において市場シェア5位。特に、病変アクセスと血管導入に強く、検査用ガイドワイヤーのグローバル市場シェアは75%、シースイントロデューサーは40%(2009年、テルモ調べ)で、グローバルトップシェアを獲得している。

テルモが強みを持つこれらの製品は、医師にとって必需品であるが、製品イノベーションが終わった製品でもある。米大手企業が製品イノベーションに特化しているのに対して、テルモは、必需品を重視し、既存技術をさらに磨き、新しい使い方に展開している。この分野において、テルモは、世界でも優れた手技を持つ日本人医師達の持つ使い勝手へのこだわりに、独自技術の選択と継続的改善で応え、高品質、高機能の評価を確立している。独自技術とは、コーティング剤の開発力や常にワイヤー周囲に均一にコーティング剤を塗布する製造技術などである。

テルモは、さらに、これら必需品の競争優位を、新しい治療方法の普及による市場創造と、治療が難しい領域における競争力の強化に活かしている。その新しい治療法を可能にした必需品だけでなく、その治療法に使われる関連製品の売上も相乗的に向上。テルモの製品群と医師の技術が一つのシステムを形成し、競合による模倣を難しくしている。

テルモがカテーテル治療に参入したのは、1985年、病変アクセス用ガイドワイヤーであった。翌1986年、シースイントロデューサーを投入、1990年代半ば、バルーンカテーテルや治療用ガイドワイヤーなど治療用塗の製品を投入。現在は、心臓血管領域に幅広い製品を提供している。

ユニークな価値提供

テルモのターゲット顧客は、治療向上、患者救済への志が高いオピニオンリーダーの医師である。市場が価格を決定する国において、テルモのガイドワイヤーとシースイントロデューサーは、競合他社の製品に対して高い価格で販売されている。

テルモが提供している価値は、治療成績を向上させ、患者の精神的・身体的負担を低減することである。テルモのガイドワイヤーは優れたすべり性能と安定した操作性を持ち、曲がりくねった血管でもよく通り、詰まった場所までよく届く。その結果、それまでは外科手術をしなければならなかった状況のカテーテル治療を可能にしてきた。さらに、テルモは、新しい治療方法の普及に貢献することにおいては、競合他社と一線を画したレベルで取り組んでいる。具体的には、一般的に行われている足の付け根からカテーテルを挿入するのではなく、手首から挿入するTRI(Transradial Intervention=経撓骨動脈カテーテル術)や、冠動脈が完全に詰まったCTO(Chronic Total Occlusion=慢性完全閉塞)とよばれる症例へのカテーテル治療の適用など。TRIは、下肢からカテーテルを挿入する場合と比較して、術後すぐに歩けて患者の精神的・身体的負担が軽減でき、また、時に重症化することもある内出血の発生率を低減できる。CTOは海外では外科手術が行われることが多いが、カテーテル治療ができれば、患者の精神的・身体的負担を低減することができる。これらの治療方法には、優れたすべり性能と安定した操作性を持つテルモのガイドワイヤーが必要なだけでなく、医師のより高度な手技が必要であり、器具と医師の手技がシステムとして機能してはじめて可能となる。テルモはトレーニングの場を提供することなどを通じて、これを支援している。TRIは1990年代に始められ、現在では国内の心臓血管カテーテル治療の60から70%が、世界平均で30%程度がTRIで行われている。

テルモが提供している価値は、また、優れた医療経済性でもある。治療の失敗確率を低減し、患者の早期社会復帰まで含めたトータルの医療コストを削減する。近年、医療経済性に関心を払う医師が増えている。

独自のバリューチェーン

製造
ガイドワイヤーは、安定した操作性を実現するために、芯部はコーティングの中央にあり、コーティングは同じ厚さで施されなければならない。テルモは、ミクロン単位の製造、検査体制を整え、高品質の製品を安定的に製造し続けることを最重視している。親水性コートの特許は既に切れているが、製造技術の差によって性能に差が生じている。

マーケティング・販売
テルモの営業は、より良い医療、新しい治療方法に関心の高い、オピニオンリーダーの医師をターゲット顧客とし、TRIのような新しい治療法を医師とともに開発していく、ソリューション提案型である。新しい治療方法を普及させるために、医師に対する情報提供や訓練の場を提供することによる啓発活動にも、国内外で注力している。同社の施設、テルモメディカルプラネックスにおいて、TRIやCTOなど、新しい方法の訓練を受ける機会を提供し、その普及に努めるとともに、医師との信頼関係構築を行っている。また、米国においては、同社のウエブサイト「Transradial University」から、商品の最新情報やトレーニングプログラムの案内、ベテラン医師による使用上のアドバイスの動画配信、学術論文などを紹介している。これらの活動によって、先駆的な医師から一般的な医師への新しい治療方法の普及、TRI以外でのテルモ製品の採用増加、長期にわたってテルモ製品を愛用するファン層の拡大を実現してきた。

研究開発
テルモの研究開発活動の一つのコアが、コーティング技術であり、親水性コート、疎水性コートなどの技術が、事業部を超えて製品差別化を支えている。さらに、高度な性能評価技術の設備と器材が製品開発を支えている。

テルモは、コーティング技術や製造技術などのコア技術を社内で開発する方針であるが、自社技術とシナジー効果が見込める技術については、M&Aによって新しい技術を調達する。たとえば、テルモは膨潤性コート技術を持つMicroVention社を2006年に買収したが、テルモの製品と組み合わせることによって、元来使われていた脳動脈瘤の治療以外の領域にも応用展開されている。

テルモの製品開発担当者は、テルモメディカルプラネックスで行われる医師のトレーニングに立ち会い、医師からのフィードバックを得ている。

人的資源管理
テルモは創立85周年を記念して、2007年、『テルモのこころ』という冊子を社員に配布し、「医療を通じて社会に貢献する」という企業理念の浸透を図った。「一人ひとりの仕事の質が、『テルモの品質』をつくる」「テルモのお客様は患者さんと健康を願う全ての人たちです」などの価値観や行動規範が書かれており、朝礼等で読み合わせや内容についての議論が行われている。

国内では、全ての新入社員が、テルモメディカルプラネックスで、実際の医療現場に近い環境の中、自社製品を実際に使用するトレーニングを受ける。

活動間のフィット

テルモの活動システムは、「医療を通じて社会に貢献する」という企業理念に導かれ、製品ではなくソリューションの提供という鍵概念の下、コア技術の社内開発・蓄積、スピードでなくシナジー重視の買収、オピニオンリーダーの医師からの波及効果を中心とした販売マーケティング活動、新しい治療方法の開発・啓発、高度な性能評価技術に支えられた安定生産が、整合性の高いシステムを形成している(「活動システム・マップ」を参照ください。)

戦略を可能にしたイノベーション

  • 製品イノベーション:スプリング状のステンレスワイヤが一般的だったが、テルモは、親水性コーティングをほどこしたニッケルチタンのワイヤーを投入した
  • ビジネスモデルのイノベーション:テルモは自社の事業を、医療器具を販売するのでなく、よりよい治療方法を普及させることと位置付けている。これが医師の信頼を生み、結果としてテルモ製品の売上が増加している。
  • 治療方法におけるイノベーション:TRI,CTO
  • サービスにおけるイノベーション:テルモメディカルプラネックス

戦略の一貫性

テルモは、カテーテル事業参入初期から市場を独自のやり方で細分化し、心臓領域、中でも、血管導入、病変アクセスの分野に特化した。製品差別化の軸は、当初から、滑り性能と高い操作性であった。最初の製品であったガイドワイヤーの滑り性能を支えた親水性コーティング技術は、新しく参入した治療用カテーテル分野で、治療用ガイドワイヤーやバルーンカテーテルに使われ、ここでも製品差別化を支えている。

テルモの戦略は、後発企業の参入戦略の段階から、世界5位のプレーヤーのグローバル戦略の段階へと移行したが、これらのユニークさは維持されている。さらに、製品イノベーションから、システムイノベーションへと差別化のスコープを拡大することで、より強固な差別化戦略を実現している。

トレードオフ

  • 大型買収による規模の拡大を追わない。成長は自己成長(有機的成長)を中心におき、M&Aはテルモの差別化を強化する場合に限定する。たとえば技術優位性がはっきりしている先、獲得した技術とテルモの既存技術のシナジーが見込めるなど。
  • 買収した企業の技術だけを獲得して他の部分を解体するような買収後統合は行わない。その企業の組織文化を活かしつつ、徐々に組織融合を図り、技術基盤におけるシナジーの最大化を目指す。
  • コア技術・生産を外部に求めない。自社内で開発・生産することで、顧客ニーズに対応した改善改良を行う。
  • インセンティブに依存した営業部隊の動機づけを行わない。テルモはインセンティブ付与型の営業活動は最低限に抑えている。これは、「モノを売る」のではなく、より良い医療に対する「ソリューションを売る」ことにフォーカスするためである。
  • シェア獲得のための低価格販売はしない。
  • 価格や規模のために品質を犠牲にしない。

収益性

投下資本利益率と営業利益率ともに、業界平均を一貫して大幅に上回っている。

投下資本利益率(ROIC)   (単位:%P=パーセンテージ・ポイント)
5年間平均 単年度 業界平均との差異
業界平均との差異 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年
29.3%P 20.5%P 26.4%P 30.4%P 27.1%P 29.8%P
Inter quartile range (IQR) = 8.6%P
投下資本利益率=営業利益/平均投下資本

営業利益率(ROS)   (単位:%P=パーセンテージ・ポイント)
5年間平均 単年度 業界平均との差異
業界平均との差異 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年
21.5%P 20.3%P 22.7%P 20.9%P 17.9%P 19.5%P
IQR = 10.2%P
営業利益率=営業利益/売上高

活動システム・マップ

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