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受賞企業・事業部レポート

コマツ 建設機械・車両事業

2011年度 第11回ポーター賞受賞 建設機械・車両製造販売業
サプライヤー・マネジメントからメインテナンス・サービスまでを貫く農耕型戦略

業界背景

世界の建設・鉱山機械業界は、米キャタピラー社とコマツが市場リーダーであり、これら2社が製品ライン、サービス展開、地域カバレッジを最も幅広く提供している。

鉱山機械市場は、高度な技術とグロ?バル・レベルで幅広いサービスの提供が求められるため、キャタピラーとコマツの2社に集中化が進んでいる。

建設機械市場は、より分散している。キャタピラー、コマツ、日立建機、斗山(韓国)、ボルボ(スウェーデン)、現代(韓国)、コベルコ建機、ケース・ニューホランド(オランダ)、住友建機などが主たるプレイヤーである。また、中国においては、三一重工などのローカル・プレイヤーが成長してきている。

主たる製品は、油圧ショベル(クローラー式、ホイール式)、ホイールローダー、ブルドーザー、モーターグレーダー、ダンプトラック、アーティキュレートダンプトラックで、業界で主要7建機と呼ばれる。

概要

コマツは、製品のコモディティ化を防ぎ、製品のライフサイクル全般にわたって収益源とする戦略を確立した。その実行は、じっくり時間をかけて構築しなければならない活動によって支えられており、これら二つの特長を合わせて、農耕型戦略と表現できよう。
そのユニークな活動の主なものは、製品性能の鍵を握るキー・コンポーネントの自社開発と自社生産、供給業者とのダイナミックな関係性構築、製品と部品のグローバル標準化、コムトラックスの標準装備、中国などにおける地元起業家を時間をかけて販売店に育てる販売店政策である。これらの結果、技術差別化、低在庫、効果的・効率的なメインテナンス・サービスと売掛金管理、機械使用の効率化提案、下取り価格の改善が可能になっている。

コマツは、全社売上高1兆8431億円(222億ドル、2010年)、米キャタピラー社(同426億ドル)に次ぐ世界2位の建設機械メーカー。

ユニークな価値提供

コマツの製品価格は、キャタピラーと同程度、それ以外の競合他社よりも高いことが多い。故障の少なさに起因する維持管理費の低さや機械の稼働効率、再販価格の高さを考慮すると、製品ライフサイクル全体に対して所有者が負担する費用は、競合よりも低い場合が多く、実質的な価格競争力を有している。

コマツのターゲット顧客は、幅広い。鉱山機械のセグメントにおいては、天然資源を開発する世界の大企業が顧客である。建設機械のセグメントにおいては、大企業、中小・中堅企業、時には個人が顧客になる(中国においては個人顧客が多い)。ターゲット顧客の幅広さは、販売をより複雑にするが、建設機械は維持管理サービスの機会を伴うので、顧客獲得の初期投資がもたらすリターンは大きい。コマツは、一旦獲得した顧客との関係性を強化するための様々な方策を有している。(※1)

地理的には、コマツは、新興国市場、特に中国とアジアで市場シェア1位である。コマツは、中国、アジア、オセアニア、中南米、中近東、アフリカ、CIS(前ソビエト連邦の諸国)を「戦略市場」と分類しており、日米欧からなる「伝統市場」と区別している。2010年における同社の売上の67%が戦略市場からである。

コマツは顧客に対して、1)環境に配慮した製品とオペレーション、2)安全、3)独自のICTシステムから得られるデータに基づく新たな付加価値、を提供している。

コマツは、遠隔地から機械の稼働状況をモニタリングできるコムトラックス・システムを、建設機械に標準装備しており(※2 ) 、 コマツとそのディーラー、顧客は、一つ一つの機械がどこにあり、何時間稼働したのか、部品はいつ交換すべきなのか、などを知ることができる。コマツとそのディーラーは、機械のより効率的な利用方法について顧客にアドバイスしたり、維持管理サービスの適時提供、在庫管理に、データを活用している。

コマツは、これらの価値提供を通じて、「コマツなしでは事業が成り立たない。コマツと一緒に成長していきたい」と顧客に評価されることを目指している。世界初の実用化に成功した鉱山用無人ダンプトラック運行システムはその良い例で、顧客の事業を効率化し、また安全性を高めているため、これを採用している顧客にとっては、コマツはなくてはならない存在である。

(※1)建設・鉱山機械の維持管理費は、累積すると、新製品購入価格の数倍に上ることが多い。
(※2)コマツは2001年からコムトラックスを建設機械に標準装備しており、2011年9月時点で、約70カ国24万台の機械に搭載されていた。現在、建設機械本体だけでなくその部品や、鉱山機械へと搭載が拡大している。

独自のバリューチェーン

研究開発
コマツの製品開発の方針は、「ダントツ商品」である。ダントツ商品とは、「いくつかの重要な性能やスペックで、競合メーカーが数年かかっても追いつけないような際立った特長を持ち、且つ利益率を大幅に改善した」商品と定義されている。ダントツ商品では、製品性能の間に優先順位をつけ、競争しない性能への投資を削減することによって、重視する性能の改善への投資を増やす。

研究開発における重点領域は、1)環境負荷の軽減、2)安全性向上、3)ICT活用である。環境負荷については、米国、欧州、日本などで、建設機械に排出ガス規制が課せられている。安全性は、顧客が最も重視することである。ICT活用については、上の価値提供の項目で既に述べたところだ。

製造
コマツは、主要部品の開発と製造を日本に集中しているが、最終組み立ては、主要市場の近くで行う。

コマツは、製品ごとに「マザー工場」を指定し、マザー工場は、開発機能を有し、「チャイルド工場」のオペレーション向上に責任を負っている。

コマツは、製品のグローバル標準化を進めており、世界の工場で部品リストを共通化している。その結果、世界の複数の工場で同時に新製品の生産を立ち上げることができる。また、ある工場から別の工場へ生産を移し、クロスソーシングすることが容易にでき、需要や為替レートの変動を吸収したり、工場の生産量を平準化することができる。

調達
コマツの、供給業者に対するマネジメントは、「ウィン・ウィン」と「セームボート」を基本方針としている。コマツは、生産計画を供給業者に開示したり、コマツ社内の人材育成プログラムへの参加を促したりしている。日本の供給業者は「みどり会」に組織され、相互交流が促される。同時に、供給業者間の競争も重視され、モデルチェンジの際に最も優れた提案を出した供給業者に発注が移動する。

アウトバウンド・ロジスティクス
コマツは、世界の販売店の小売情報を、リアルタイムで把握している。販売データは他のデータと統合されて、生産、工場在庫、現地代理店在庫、販売店在庫を含めた在庫数の低減に役だっている。これは、コマツがコムトラックスを標準装備にしたことで可能になった。コマツは既に、日本、中国、北米、インド、タイ、インドネシア、ブラジルにおいて販売店在庫ゼロを達成している。

マーケティング・販売
コマツは、製品ライフを通じて顧客をサポートするサービスに注力している。交換部品提供、再生部品販売、販売金融、製品レンタル、中古車販売なども充実しており、新製品にこれらを加えた幅広い選択肢を顧客に提供することによって差別化を実現し、新製品における価格競争を回避している。

中国においてコマツは、現地の起業家を販売店に育成した。販売店網を一から構築するには時間がかかるが、現地に根ざした販売店網には、地域の情報や事業機会に関する情報が入って来やすいという特長がある。

アフターセールス・サービス
コマツは、販売店によって提供されるアフターセールス・サービスを、新製品が売れ続けるための仕組みと位置づけている。

コマツの販売店は、コマツ建機に標準搭載されたコムトラックスを通じて得た情報に基づき、機械の有効利用の仕方について、顧客に提案を行う。また、個々の機械の情報に基づき、部品の交換時期のお知らせや、維持管理サービスを適時、提供できる。

コマツは、急成長する新興国市場における、サービス担当者の育成にも注力している。海外の代理店事務所に「サポートセンタ」を設置し、駐在する日本人サービス員が現地の販売店サービス員を支援・指導している。中国においては、山東交通学院という大学と提携して、サービス員を養成している。鉱山機械分野のサービスにおいては、24時間365日のサービス対応を提供しているが、2008年にフィリピンに人材開発センターを設立し、主に世界の鉱山現場で活躍するサービス員の育成に取り組んでいる。

人材管理
海外11カ国にある生産事業体のうち7つのトップが現地出身の人材であり、これらの人材は、コマツで10年あるいは20年の経験を積み、コマツウェイを理解している。コマツは、工場で生産現場に頻繁に行くというようなリーダーの行動が、ものづくりの能力に不可欠だと考えているが、同時に、現地の人材のマインドセットを変え、行動を変えるのには時間がかかる、ということも経験している。

全般管理
コマツは、早くから、コスト管理の手法として、SVM(Standard Variable Margin)管理を取り入れてきた。この手法では、変動費に注目することによって、世界各地にある工場の生産性を比較する。

活動間のフィット

コマツの活動は、「コマツでなくては困る」関係性を高める顧客関係性のマネジメント、ダントツ商品を目指す製品開発活動、フレキシブルな生産体制、情報の見える化、を中心に、選択され、組み合わせられている。 これらの活動は、「コマツウェイ」の共有とチームワーク形成を促す活動によって支えられている。(「活動システム・マップ」を参照ください。)

戦略を可能にしたイノベーション

  • 「ダントツ」製品開発方針。
  • コムトラックスを建設機械・車両に標準装備にしたこと。
  • 価値連鎖を貫く徹底したコムトラックスなどICTシステムの利用。
  • コムトラックスを通じて得た情報を、自社の業務効率化に活かすだけでなく、顧客や販売店の業務効率化にも活かしている。コマツは競合に先駆けてこの利用法を実用化し、顧客の使い勝手を良くするため、顧客用のアクセス画面を提供している。
  • 製品イノベーション1:世界初のハイブリッド油圧ショベル(2008年)。
  • 製品イノベーション2:世界初の無人ダンプトラック運行システム(2008年)。

戦略の一貫性

コマツの戦略のコアは、供給業者や販売店とのウィン・ウィンの協業関係構築、技術革新と品質へのこだわり、海外への進出、である。また、これらの戦略の軸は、見える化と、人材育成への投資、によって支えられている。これらのうち、技術革新と品質へのこだわり、海外への進出、人材育成は、1921年の創業当時から経営理念として掲げられている。これらの基礎が、1990年代における中国、アジア地域への投資拡大、欧米でのM&Aを通じた事業拡大によってグローバルな事業機会の場を拡大し、一方で、1990年代後半におけるグローバルなICTシステムの統一や2001年からの製品ラインの整理を経て、グローバルな複雑性を吸収し、高利益率につながる体制への基礎となった。加えて、2001年のコムトラックス導入を活かし、一連の価値連鎖がより有機的に連結し、付加価値を生む結果となった。

トレードオフ

  • それなりに良い商品では満足しない。あらゆる商品で、ダントツ商品を目指す。
  • 強みの部分に資源を集中するために、顧客の細かな要望に沿った製品群を増やしすぎない。コマツは2001年、製品ラインを削減し、また、製品開発プロジェクトも半減した。
  • ローエンド・モデルや地域特化モデルの導入のために複数ブランドを持たない。
  • 工場で使用する部品表を全世界で統一している。これによって、グローバルなオペレーションの大幅な効率化が可能になっている。
  • ヘッドハンターに依存しない。自ら人材を育成する。
  • 市場シェアを追求しない。販売数量を伸ばすための値引きはしない。販売数量を伸ばすために、販売店に製品を押し付けない。
  • 独自技術で差別化できない領域に多角化しない。

収益性

投下資本利益率、営業利益率ともに業界平均を上回っている。
注:ここでコマツの収益性分析に利用した数字は、全社連結のものである。建設機械・車両事業は、同社の売上げの87.7%(2010年)を占める。建設機械・車両事業部門の収益性は、もう一つの部門である産業機械他を上回っているので、部門のみの収益性よりも低い数字を利用したこととなる。

投下資本利益率(ROIC)   (単位:%P=パーセンテージ・ポイント)
5年間平均 単年度 業界平均との差異
業界平均との差異 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年
7.8%P 6.7%P 13.4%P 2.2%P 7.8%P 9.9%P
Inter quartile range (IQR) = 6.7%P
投下資本利益率=営業利益/平均投下資本

営業利益率(ROS)   (単位:%P=パーセンテージ・ポイント)
5年間平均 単年度 業界平均との差異
業界平均との差異 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年
5.9%P 4.3%P 5.3%P 2.4%P 8.5%P 8.6%P
IQR = 7.2%P
営業利益率=営業利益/売上高

活動システム・マップ

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