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受賞企業・事業部レポート

株式会社中川政七商店

2015年度 第15回ポーター賞受賞 工芸品をベースとした生活雑貨の企画・製造卸・小売業

工芸業界初のSPA業態

中川政七商店は、日本の各種工芸をベースとした生活雑貨に特化した直営小売店舗を運営するSPA業態を確立。自社製造の工芸品は、麻織物をはじめとした布製品を中心としている。

現在、基幹3ブランドで直営店43店舗を展開している。日本に古くから伝わる技術、素材、意匠を今の感覚に合わせた布製品を販売する「遊 中川」(2015年2月現在16店舗)、温故知新の想いを根底に、家や生活に根差した機能的で美しい暮らしの道具を販売する「中川政七商店」(同21店舗)ならびに、各地で生まれた工芸やその土地ならではのモチーフにこだわった土産物を扱う「日本市」(同6店舗)。

中川政七商店は、「日本の工芸を元気にする!」ことを志としている。同社のめざす「元気にする」とは、工芸品に関わるメーカーや産地が補助金に頼らず黒字経営をする経済的な自立と、工芸メーカーにものづくりの誇りを取り戻すことだ。その一環として、工芸メーカーへのコンサルティングによって工芸メーカーの経営力、企画力を高める活動も提供しており、この活動は、直営小売店の商品調達にも貢献している。「日本市プロジェクト」によって、地域の工芸品を地域の土産物店とつなぐ、工芸品の地産地消にも取り組んでいる。

日本の工芸品業界は、1990年には生産額5,000億円、企業数26,000社あったが、2005年には生産額1,900憶円、企業数13,000社まで減少した。

中川政七商店は1716年創業(1983年株式会社化)。売上高42億8000万円、従業員数305人(2015年2月期)。売上構成は、直営店7割、卸2割、通販1割。

ユニークな価値提供

中川政七商店の直営店で販売する商品は、日本の伝統的な工芸の技術や意匠を活かした、日本の工芸をベースとした生活雑貨が中心だ。代表的商品である「花ふきん」で蚊帳生地を使ってふきんを造ったように、また、波佐見焼によるマグカップなど、今日的な生活に違和感なく馴染む商品が多い。消費者は、工芸品特有の手間をかけたものの良さや、長く使えたり、使う程味わいが増す使う楽しみを得られる。店舗で働く社員は、商品知識が豊かで、幅広い背景情報を含めて顧客に説明できる。消費者には、商品の背景にある工芸品産地の歴史や技術の特徴、「日本の工芸を元気にする!」という中川政七商店の志も魅力となっている。多店舗展開する小売店を日本の工芸品だけで品揃えできるセレクトショップは、非常に少ない。百貨店などで販売される美術工芸品と比較して手ごろな価格帯で、女性を中心に、幅広い年齢層の顧客をターゲットに設定している。

中川政七商店のもう一つの顧客は、各地の工芸メーカーだ。「日本の工芸を元気にする!」という志の下、単発の商品開発支援に留まらない、長期的なコンサルティングを提供している(平均1年から2年)。具体的には、自社が製造小売業として培ったノウハウを活かし、経営指導、経営視点でのものづくり、業務改革などのコンサルティング・サービスを提供している。工芸メーカーの自立を目指しているため、中川政七商店がクライアント企業に商品を買い取る約束を最初からすることはないが、各ブランド・マネージャーが直営店に置くべき商品と判断すれば、小売りまでのチャネルを提供する。また、中川政七商店が主催する展示会「大日本市」にコンサル先の商品を出すことで、流通業者との出会いの場を設定している。中川政七商店のコンサルティングの結果、地域で一番元気のあるメーカーを創ることで、そのメーカーを中心に地域の二番手、三番手と、連鎖的に活性化する波及効果が期待できる。同社最初の成功事例である長崎県波佐見町の陶磁器メーカー、マルヒロは、その後、有田のメーカーとも協働し、産地の枠を超えても影響が広がっている。中川政七商店のコンサルティング料金は高くないが、直営店で販売した場合には小売りマージンを、大日本市でコンサルティング先のメーカーの商品が注文を取った場合には、流通サポート料を受け取る。

第三の顧客は、各地の土産物店であり、その顧客である旅行者だ。中川政七商店は、日本市プロジェクトによって、現地の工芸メーカーに商品企画を提供し、製造依頼、完成品を全量買い取る。この商品の販売ノウハウを、現地の土産物屋に提供をする(中川政七商店は、これらの土産物店を、「仲間見世」と呼ぶ)。現地の工芸品メーカーは、在庫リスクを持たず、地元で自社の製造した商品が売られていくのを見ることができる。これは、モノづくりの誇りにつながるであろう。土産物屋は、より付加価値の高い商品を販売することによって、売り上げと利益の成長を享受でき、地域の工芸への誇りも取り戻すことができる。中川政七商店は、仲間見世から、小売コンサル料と、長期的に安定した売上を得ている。観光土産物市場の売上の8割は食品、2割がモノ。以前は食品とモノが半々だった。旅行土産物市場の規模は3兆5000億円と言われている。

独自のバリューチェーン

中川政七商店のバリューチェーンは、製造、小売り、卸、コンサルティング、それぞれに分析でき、さらに全てに共通の機能もあるが、ここでは、特徴的なものだけを挙げる。

製造
風合いなどにこだわり、手間を掛け、丁寧な工程を大事にし、少量生産、中量生産する。同社のロングセラー商品である「花ふきん」は昔ながらの、調整が難しいシャトル織機で織られ、一枚一枚手作業でミシン縫製することで、長く使い続けることができる、品質の高い仕上がりを実現している。

製造品の販売
中川政七商店は年3回、受注会を兼ねた「大日本市」という展示会を独自に開催している。同社が長年かけて開発した流通取引先が参加し、同社製品に加え、コンサル先工芸品メーカーの商品の販路ともなっている。これは、他のコンサルティング会社にはない、同社の特徴。

小売店の調達
直営小売店で販売する商品、あるいは、日本市プロジェクトで中川政七商店が商品企画した土産物の製造(OEM)に、コンサルティング先の工芸メーカーが貢献している。従事者の高齢化、市場の縮小などから日本の工芸品メーカーは速いペースで減少しており、工芸品に特化した直営店を営む同社にとって、安定して商品調達は重要。

小売店の全般管理
「遊 中川」「中川政七商店」「日本市」それぞれに、ブランドマネジャーを中心に商品企画、店舗づくり、経営管理を担当している。

販売・マーケティング
直営小売店では、志に共感する販売員が、同社のものづくりに対する想いや商品の背景を、お客様に伝える役割を担っている。

中川政七商店の取り組みを伝える中川淳社長による書籍の出版に加えて、中川政七商店のユニークな志と活動の結果、多くのメディア露出があり、広告を打たないながらも、知名度を上げる結果になっている。直営店が合計43店舗、全国の好立地にあり、これもブランド認知に貢献している。

研究開発
商品企画のノウハウは、仕組み化、ツール化することで、属人的なばらつきを抑え、会社全体のレベルを上げている。

人的資源管理
中川政七商店の給与水準は大手流通企業ほどは高くないが、「日本の工芸を元気にする!」という志に惹かれた人材を採用できている。他社のコンサルティング活動に従事することは、人材育成の効果もある。

活動間のフィット

中川政七商店の活動は、「日本の工芸を元気にする!」という企業理念の実現を目的として、コンサルティングと日本市プロジェクトからなる、工芸メーカー(ものづくり)を強化する活動と、直営店と展示会を軸とする流通に関する活動、それらを支える人材育成に関する活動が整合性の良いシステムを形成している。「日本市プロジェクト」は、同社による企画と買取による在庫リスク負担によって、地域の工芸メーカーの物づくりのスキルを活かしつつ、経営状態改善の支援となる。「コンサルティング」によって生まれた商品は、「直営店」の品揃え強化につながり、中川政七商店の直営店の競争力の一因となっている。「直営店」と展示会である「大日本市」は、コンサル先メーカーの販路開拓の助けとなる。直営店の売上の多くはオリジナル商品で構成されており、仕入依存の場合と比較して利益率が高い。(本セクション最後に掲載した(本セクション最後に掲載した「株式会社中川政七商店の活動システム・マップ」を参照ください。)

戦略を可能にしたイノベーション

  • 品質とデザイン性にこだわった工芸ベースの雑貨を揃えるセレクトショップ。
  • 工芸メーカーの自立と成長を助けるプラットフォームの創造。
  • 旅行土産物市場における工芸品の強化の取り組み(日本市プロジェクト)。

トレードオフ

日本の工芸を元気にするためのトレードオフ

  • 安易な販路開拓はしない。取引先と対等な関係を維持する。
  • 商品の委託販売をしない。中川政七商店が在庫リスクを負う。
  • 工芸メーカーや工房に対して、デザイン料なしでの限定商品の供給など、買いたたきをしない。
  • 大量生産をしない。そのための完全な機械化、自動化はしない。品質にこだわり、そのために必要な工程に対する努力を惜しまず、少量生産、中量生産する。

メーカーの独自性を守るためのトレードオフ

  • 少量生産しかできないものを全国流通させない。地域性を保つ。
  • コンサル先への出資をしない。
  • 単発で終わる助け方をしない。工芸メーカーの自立を目指す。
  • 中川政七商店のテイストを押し付けない。

生活雑貨小売業の中で独自のポジションを獲得するためのトレードオフ

  • 自社ブランドの商品以外の仕入商品(自社で製造しない商品)に頼りすぎない。仕入れ商品は選定から3か月ほどで店に商品を並べることができるが、仕入商品に頼ると、他の小売店と同質化する危険がある。中川政七商店の調達は、企画から生産まで9か月ほど必要。企画からのリードタイムが長いほど、予想外の気候変動など、外部環境変化に関わるリスクが高まる。
  • 取扱いアイテムの幅を狭くしない。仕入れ商品に頼らずに、幅広いアイテムを揃えるのは容易ではない。
  • 「洋」の生活雑貨を扱わない。「洋」の生活雑貨の方が市場規模が大きいが、競争が激しい。

戦略の一貫性

中川政七商店の現在の戦略の起点は、現在社長である中川淳が2002年の入社後、製造卸業から製造小売業に業態転換した時点にある。「もの売りからブランド作りへの脱却」と中川が表現するこの戦略転換は、当初から、自社ブランドの確立、拡大と直営店出店(当時は遊 中川のみ)を柱としていた。

2007年、「日本の工芸品を元気にする!」を企業理念に掲げ、2008年、中川淳が十三代社長就任。2009年より工芸メーカーの企業再生のための経営コンサルティングを開始。2010年6月に立ちあがった長崎県波佐見町の陶磁器メーカー、マルヒロの新ブランドHASAMIが成功。

2013年頃から本格的に、地産地消の土産物づくりを通じて、地域の土産物屋と小規模工芸メーカーをともに元気にするプロジェクト、「日本市プロジェクト」を開始。

収益性

営業利益率が5年間平均で業界を大幅に上回っている。この業界の営業利益率は分散が小さい。収益率順に競合を並べて上から25%のところにある企業の収益率と下から25%のところにある企業の収益率の差であるInterquartile rangeは0.7%Pでしかない。業界平均には、日用品雑貨の製造業、卸売業あるいは小売業を営む上場企業が含まれる。(業界平均との収益性比較は、PwC Japanの協力を得ている。)
未上場企業も含む経済産業省の調査では、2014年度の売上高営業利益率は織物・衣服・身の回り品小売業平均が4.6%、衣服・身の回り品卸売業平均が3.3%であった(平成25年企業活動基本調査速報?平成24年度実績?2)。中川政七商店の2014年度の売上高営業利益率は8.5%だった。

収益性

活動システム・マップ

活動システム・マップ

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