• ポーター賞とは
  • 受賞企業・事業部レポート
  • 授業式・セミナー
  • 募集対象
  • 審査方法
  • 応募方法

受賞企業・事業部レポート

株式会社カネカ カネカロン事業部 頭髪装飾商品事業

2015年度 第15回ポーター賞受賞 頭髪装飾商品向け合成繊維事業

アフリカの女性向け頭髪装飾商品市場を育成すると同時に高付加価値化した。頭髪装飾商品メーカー、卸、小売店や美容院など、バリューチェーンの各段階における付加価値創造を支援し、各プレイヤーが市場の成長を享受できる仕組みを構築した。

かつら(ウィッグ)やつけ毛(エクステ)などの頭髪装飾商品市場は、世界の合成繊維需要(数量ベース)の1%にも満たないが、カネカはこの分野で世界市場シェア40%、今後も成長が期待されるアフリカ市場で60%のシェアを有する。髪を長く伸ばすことが難しい毛質であることが多いアフリカの女性にとって、頭髪装飾商品は身近なおしゃれの手段で、2014年度、世界の頭髪装飾商品需要の50%がアフリカで消費された(カネカ調べ)。

繊維メーカーであるカネカは、自らは頭髪装飾商品を製造しない。しかし、世界の髪型の流行などをアフリカの美容院に広めたり、そのような製品の企画を頭髪装飾商品メーカーに提案することで、市場を育成してきた。

1960年代から70年代にかけて起きたかつらブームの際には多くの日本の繊維メーカーが素材を供給したが、かつらブームの終焉と共に各社撤退し、現在、頭髪装飾商品向けに繊維を提供している日本企業は2社のみ。主な競合は、韓国と中国の繊維メーカー。頭髪装飾商品に使用される繊維は、アクリル系、塩化ビニル、ポリエステル、ポリプロピレン等で、耐熱性、加工性、不燃性、コストなどの特徴によって使用される頭髪装飾商品が選ばれる。

ユニークな価値提供

カネカロンの事業理念は、「高い収益性で成長を持続し、文化を創造・発信して社会に貢献できる繊維事業となる」こと、事業ミッションは、「女性に安全で質の高い美を提供する」ことだ。

カネカロン事業は、頭髪装飾商品向け素材としての繊維の提供に留まらず、最終消費者に届くまでの業界バリューチェーン全体に対するソリューション提供を行っている。そのために同社は、頭髪装飾商品メーカー、卸、小売店、美容院など、バリューチェーンを構成する主要なプレイヤーに直接コンタクトし、彼らのニーズを把握、活動の付加価値を上げるよう支援している。

カネカは、人毛と非難燃性(安全性に懸念)の繊維を除き、最も多い種類の素材を提供している。女性消費者の基本的なニーズであるナチュラルな風合いを持つ外観や触感に加え、アクリル系カネカロンでは、汚れにくく、かつ速乾性の繊維を開発した。これは、中間所得層が増え、ライフスタイルが変化、泳ぐことをレジャーに取り入れる女性が増えたことに対応した商品だ。他にも、ヘアアイロンで作るスタイルが簡単に固着する難燃性耐熱ポリエステル系カネカロンを使った簡易ヘアスタイルセット法の提案によってTPOに合わせたおしゃれを普及させる、などの価値を最終消費者に提供している。

頭髪装飾商品メーカーには、海外で流行のスタイルと現地のニーズを検案して売れる商品の企画を提案。さらに、どの繊維をどのようにミックスするか、最適な加工条件、仕上げ方法を紹介し、新しいスタイルがアフリカ市場に浸透する支えとなってきた。

確かな品質の商品を安定して供給することも消費者に評価される差別化要因となると考え、工場の品質と生産性改善のために、頭髪装飾商品メーカーの生産現場の工程分析や環境整備を支援し、生産現場の社員への教育を提供している。さらに、リーダー候補のローカル社員を性別関係なく日本に招待して品質管理や繊維の基本を教育している。結果、頭髪装飾商品メーカーの品質と生産性は改善し、ローカル人材の登用も進んだ。

美容院には、セミナーを開催し、商品品質の見極め方、新しいスタイリング法等を教育したことで、美容院でしか受けられないサービスが生まれ、家族で装着し合っていた頭髪装飾商品を、美容院で装着する顧客の増加につなげた。2010年からは、美容師の技術向上のため、ナイジェリアでヘアーショーを主催している。ナイジェリア全土をブロック分けして各地区の美容師によるヘアスタイル・コンテストを実施、各地区優勝者による決勝戦を商都ラゴスで行っている。

カネカは、頭髪装飾商品市場の高付加価値化に貢献しているのだが、その端的な例が三つ編みの付け毛、ブレード・セグメントで見られる。ブレードで使用される素材は、アクリル系カネカロンかポリプロピレンだが、ポリプロピレンは1個50セントと安価な代わりに非難燃性で燃えやすい。カネカは、料理の際に火が燃え移る危険性などを考慮して燃え易いポリプロピレンは提供せず、アクリル系カネカロンは装着時に美容師の指が傷つきにくい事、単価が高く、メーカー、卸、小売店あるいは美容院での利益率が高い事、熱可塑性が高いことからスタイリングし易い事などを訴求し、2000年代前半には30%だったアクリル系カネカロンのブレードにおける市場シェアを、70%に逆転した。

カネカロン製品の価格は、競合他社に比較して高い。たとえば、競合のポリプロピレン製ブレードが1パック50セントのところ、カネカロン製は1ドル。

独自のバリューチェーン

カネカロン事業は、最終消費者に届くまでの業界バリューチェーン全体に対するソリューション提供を行うため、ユニークなバリューチェーンを作り出しており、特に、マーケティング、研究開発、製造、人的資源管理に特徴がある。

マーケティング
世界の頭髪装飾商品市場シェア40%、アフリカ市場シェア60%の市場リーチを活かし、収集整理した、世界市場での頭髪装飾商品の需給バランスといったマクロ情報を持つ他、日々の業務活動の際に、両手にカウンターを持ち、頭髪装飾商品の装着率をスタイル別にカウントして集めたミクロ情報を解析、独自の市場分析を行い、戦略に反映させる。顧客である頭髪装飾商品メーカーよりも、美容院や消費者のニーズを理解している。

カネカロン事業部は、消費者のニーズを喚起して消費者から頭髪装飾品メーカーに訴求してもらうプルの市場創造に実績がある。アフリカ市場への参入当初は、米国の黒人の間で流行しているヘアスタイルや色の商品を、アフリカの美容師や消費者に紹介し、従来の商品よりも付加価値の高い商品として位置づけることに成功した。また、付け毛の一種であるウィービングに使われる塩化ビニル繊維については、カネカロンは後発だったが、アクリル系カネカロンと塩化ビニル系カネカロンをミックスして魅力的なスタイルや色の頭髪装飾商品をカネカ自身が試作、市場で紹介し、美容師や消費者から指定買いの動きが出た。この要望に対応して販売業者がカネカロンのウィービング商品を仕入れ、その結果、頭髪装飾商品メーカーは、カネカロンの塩化ビニル繊維を選択するようになった。現在、アフリカ市場における塩化ビニル繊維市場のシェアは50%にまで成長している。消費者の選択に影響力を持つ美容院を巻き込んだマーケティング手法として、2010年からナイジェリアでヘアーショーを開催、美容師はカネカロン商品を使用して技を競い合う。

研究開発
カネカは、アクリル系、塩化ビニル、難燃性ポリエステル、蛋白繊維という4つの素材を持つ。素材によって適する頭髪装飾商品が異なるため、幅広い素材を製品に持つことは、頭髪装飾商品メーカー向け商品提案の強みにつながっている。

カネカロン事業部の研究者は、現地を訪れ、頭髪装飾商品工場、美容院、消費者などから直接ニーズを理解し、繊維の開発に反映させている。

繊維開発の次の段階として、商品開発グループによる評価がある。商品開発グループは、社内で実際に頭髪装飾商品を製造し、その性能評価を行ない、顧客工場での量産時に課題が残されていないかを確認、さらに、頭髪装飾商品メーカーと合同で、最終商品を市場で評価し、繊維開発にフィードバックする。

製造
カネカロンの生産は、日本、中国、マレーシアにおいて行われている。

カネカロン事業部は、成長市場に起こりがちな、供給が需要に追い付かず競合の参入あるいは成長を許す事態を避けるため、バリューチェーン全体の需給バランスの調整に関与している。独自の分析から需要予測を行い、頭髪装飾商品メーカーによる生産量が少なければ増設を提案し、供給量が多ければ供給量が不足している周辺諸国への輸出を促す。

人的資源管理
産業バリューチェーン全体への貢献を実現するため、教育内容は幅広い。繊維特性、語学、マーケティングはもとより、頭髪装飾商品生産機器の構造、美容院や頭髪装飾商品工場での実習、市場観察のOJTなど。美容師もしくは美容業のキャリアを持つ人材を採用したり、社員に美容師免許取得を促してもいる。営業担当者は商品開発グループで最低1か月の研修を行い、最終的に頭髪装飾商品を自ら試作する。技術者もマーケティングの基礎知識を学ぶ。

カネカの人材育成は、産業バリューチェーンの川下にも及ぶ。現地の美容師に対しては、正しい品質の見極め方や新しいスタイリング方法の教育セミナー、スタイリングコンテストを開催している。頭髪装飾商品メーカーには、市場の分析方法、品質管理方法などを講義し、共同で試作品の市場評価を行っている。現場のリーダー候補者を日本に招き、品質管理など生産現場管理の基本や繊維特性の教育を行った。ケニアの工場では、1年間で生産性が24%向上、不良率は30%低減した。この工場は、頭髪装飾商品メーカーの模範工場として、同社の持つ他国の工場を指導している。特に近隣のウガンダやタンザニアの工場は、ケニア工場に刺激を受け、品質管理の向上に積極的に取り組んでいる。頭髪装飾商品メーカーの収益性が改善しただけでなく、カネカに対する信頼度が向上、より安定的な関係の構築に寄与している。

活動間のフィット

カネカロン事業部の活動は、「高い収益性で成長を持続し、文化を創造・発信して社会に貢献できる繊維事象となる」という事業理念、「女性に安全で質の高い美を提供する」という事業ミッションを軸として、「頭髪装飾商品市場のバリューチェーンに広く、深く関わる」という戦略の軸の下、「生産能力最適化」「人材育成」「研究開発」などの主な活動を中心に、整合性の高い活動がシステムとして機能している。(本セクション最後に掲載した「株式会社カネカ カネカロン事業部 頭髪装飾商品事業 の活動システム・マップ」を参照ください。)

戦略を可能にしたイノベーション

  • 頭髪装飾商品のアフリカ市場の開拓。カネカがアフリカ市場(セネガル)に注目、開拓したのは 1980 年代前半。アフリカ諸国はまだ独立後の混乱期にあり、多くの競合はアフリカを市場として認識していなかった。
  • アフリカ市場への浸透を可能にするサブライチェーンの創造。アメリカへの輸出を手掛けていた韓国系の頭髪装飾商品メーカーにアフリカでの現地生産を促し、さらには、アフリカに強いネットワークを持つレバノン系企業を頭髪装飾商品メーカーとして採用し、アフリカに頭髪装飾商品製造業を創出した。カネカロンを扱う頭髪装飾商品工場は、サブサハラ18か国でオペレーションするに至った。
  • 素材提供に留まらず、自社で繊維加工を行い、川下商品を提案できる商品開発グループ。設備投資を伴う負荷の大きい活動だが、カネカ製品の付加価値を向上させる活動として、社内の他の事業でも行われている。

トレードオフ

  • 安全性に懸念がある非難燃性の素材は扱わない。繊維を難燃性にするのは技術的難易度が高く、コストも高くなるが、全てのカネカロン製品は難燃性である。
  • 市場シェア拡大や販売量の拡大を求めて供給過多にしない。商品の付加価値を維持する為、供給をタイトなレベルで維持する。
  • ローエンドで数量を稼ごうとしない。むしろ市場をハイエンドにシフトさせるように働きかける。
  • 頭髪装飾商品メーカーの取引先を増やさない。新たな取引先を増やせば販売数量は増えるが、品質へのこだわりやスタイル提案による市場創造などの事業方針が共有できない先とは取引しない。

戦略の一貫性

カネカロン事業の戦略に一貫しているのは、第一に、商品の安全性へのこだわりである。カネカロン事業部は、市場で非難燃性の繊維が最も売れていた時でも、非難燃性繊維を扱ったことがない。次に、最終消費者のニーズが流通を動かすという洞察に基づいたマーケティング志向だ。ウィービング市場における後発での塩化ビニル繊維の投入時に、美容師と消費者のニーズを喚起し、プルマーケティングによって流通業者と頭髪装飾商品メーカーを動かしたことは、その端的な例である。次に、産業バリューチェーン全体への貢献とウイン・ウインの状態を作り出すことを重視する姿勢だ。カネカロン事業部は、価値観と事業戦略を共有する選ばれたビジネスパートナーの能力を高め、付加価値を高め、市場を拡大し、成長と高収益や雇用創出を互いに享受できる状態を創りだしてきた。最後に、価格競争を避け差別化された商品による高収益事業を創りだすことへのこだわりである。安価な製品が席巻していたブレード市場の高付加価値化は、その例である。

収益性

投下資本利益率、営業利益率ともに業界平均を大幅に上回っている。(業界平均との収益性比較は、PwC Japanの協力を得ている。)

収益性

活動システム・マップ

活動システム・マップ

受賞企業・事業部 PDF

第17回 ポーター賞 応募期間

2017年5月 8日(月)〜 6月 5日(月)
上記応募期間中に応募用紙をお送りください。
PAGETOP