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受賞企業・事業レポート

キュービーネットホールディングス株式会社

2017年度 第17回ポーター賞受賞 ヘアカット事業

1000円、ヘアカットのみ、10分で終了できる迅速なサービスを、通行量が多い場所に出店した小規模店「QB HOUSE」で展開。圧倒的な利便性の向上で、昼休みや仕事帰りに髪を切るという消費行動が生まれた。模倣にさらされたが、スタイリストの自社育成を始めとする活動の内部化と改善によって模倣困難性を高め、競争優位を維持。海外事業も成長し、収益貢献している。

業界背景

img_2017_04_p.jpg日本では、髪を切る事業は、公衆衛生の観点から、厚生労働大臣が交付する免許証を持つ理容師又は美容師が行うことになっている。施設も、理容師法第1条の2に規定される理容所か、あるいは、美容師法第2条に規定される美容所のどちらかとして運営される必要があり、特に衛生管理の点において具体的な規則が制定されている。理容所は頭髪を中心とした容姿を整える場所、美容所は容姿を美しくする場所、との整理であり、理容師は剃刀を使ってよいがパーマは無条件で施術できない、美容師はパーマはかけられるが剃刀を無条件で使うことはできない、などのきまりがあった(※1)。しかし、理容所はアイロンパーマなど、規則に抵触しない方法でパーマサービスを提供し、実質的な境界はあいまいになっており、規則を実態に合わせる形で、2015年には理容所でパーマをかけること、美容所でカットをすることが正式に認められた(※2)。しかし、未だに一つの店舗に理容師と美容師が一緒に働くことはできず、美容所では剃刀の使用に条件がある。

理容業界の市場規模が縮小してきた原因はいくつかあるが、一つには、若者が好むスタイルを提供できる理容所が少なかったことから若者を中心に美容所を利用する男性が増えたことである。さらに、理容所の中心的な顧客であった中年以上の男性客も、1990年代中ごろにはバブル経済の崩壊による節約志向から、理容所を訪れる間隔が長くなったことも重なった。一方の美容所も、施設数は1986年度の約145,000件から漸減傾向にあり、2000年度以降140,000件台で推移してきたが、2007年度には、137,000件に減少した(※3)。市場規模は美容所が約1兆6000億円、理容所が約7000億円、合わせて2兆3000億円。不況の影響を受けにくく2008年のリーマンショックとそれに続く景気後退時にも大きな落ち込みを経験しなかったが、業界は低価格化と高付加価値化の二極化が進み、理美容業界合わせた売上は、ゆるやかに減少し続けている(※4)。

(※1)昭和53年12月5日環指第149号厚生省環境衛生局長通知
(※2)厚生労働省、平成27年7月17日、健発0717第2号「理容師法及び美容師法の運用について」http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10907000-Kenkoukyoku-Seikatsueiseika/0000091955.pdf
(※3)厚生労働省健康局生活衛生課『美容業の実態と経営改善の方策』平成24年3月、p38。http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/seikatsu-eisei/seikatsu-eisei22/dl/h22/riyou_housaku.pdf
(※4)株式会社矢野経済研究所『プレスリリース 理美容市場に関する調査を実施(2017年)』2017年4月21日、http://release.nikkei.co.jp/attach_file/0443205_01.pdf

企業概況

QB HOUSEは、ヘアカットだけ、「10分のみだしなみ」というコンセプトで、1996年11月1日、神田美土代町に第1号店をオープンし、忙しいビジネスマンをメインターゲットに、「お手軽さ」を提案した。それまで、日本の理容業界では、営業時間、定休日、料金などが組合を通じて業界でほぼ統一されており、サービスも、ヘアカットの前と後の洗髪、髭剃り、マッサージなどがセット料金で提供されていた。QB HOUSEによって、忙しいサラリーマンが昼休みや会社帰りに生まれた"ちょっとした時間"で駅の店で髪を切るという新しい習慣ができた。キュービーネットホールディングスは、2017年6月末現在、国内542店舗、海外117店舗を運営している。一店舗あたり平均席数は約3.5席。

ユニークな価値提供

QB HOUSEは、メインのターゲット顧客を忙しいビジネスマンとし、「5つのお手軽さ」を提供している。5つのお手軽さとは、1)低価格、2)短時間、3)高利便性(通行量の多い場所への立地)、4)ヘアカットのみ、5)予約なしだ。

1)低価格。QB HOUSEの登場によって美理容所では低価格化と高価格化の二極分化が進んだが、QB HOUSEが創業した当時は理容所の理髪料は平均3,000円を超えていた。

2)短時間。理美容所では、シャンプー、髭剃り、マッサージなどを含むフルサービスが提供されていたため、長い時間を要した。ヘアカットのみをオーダーしても、時間をかけてカウンセリングすることで付加価値を加え客単価を上げようとする動機が働いており、ヘアカットのみでも30分以上かかることが多かった。その一方で、QB HOUSEでは、髪が伸びた分だけ切る「調髪」という考え方を提案し、カウンセリングに必要な時間を短縮すると同時に、お客様の持つ仕上がりイメージとのギャップが生まれるリスクを削減し、さらに、顧客がより短いサイクルでサービスを利用するよう、促した。

3)高利便性(通行量の多い場所への立地)。QB HOUSEは駅ナカ、駅周辺、ショッピングセンター等、通行量が多くお客様にとって利便性が高い場所に出店している。QB HOUSEではシャンプーを提供しないため、大規模な水道設備が必要なく、立地の自由度が高い。席数を3から4席とし、省スペースの店舗設計であるため、駅の中にある狭いデッドスペース(使わなくなった駅長室や宿直室、倉庫等)を店舗区画として再利用することができる。お客様には普段から利用している駅の立地で利便性という価値を、鉄道会社には休眠不動産の収益化という価値を提供している。通行量の多い立地ゆえ、店舗がブランドの浸透に貢献もしており、広告宣伝費削減に貢献している。一方で、美容所は広い店舗を持とうとする傾向が強く、家賃との兼ね合いで、通行量の少し落ちた路面店や2階以上の空中店舗など、お客様の利便性をある程度犠牲にしなければならない場合も多い。

4)ヘアカットのみ。多くの理美容所は客単価を上げるため、フルサービスをセットにして販売するだけでなく、ヘアケア用品の販売、美容所ではネイルや着物の着付けのサービスを提供するなど、追加の収益機会を追求している。一方でQB HOUSEは、提供するサービスをヘアカットに限定しており、シャンプーは行わず、自社開発のエアーウォッシャー(吸引器)で毛屑を吸い取る。精算も、順番待ちと精算を同時に行う発券機で行い、スタイリストの時間をヘアカット業務以外に割くことを最小化している。

5)予約なし。多くの理美容所は、一人にかかる時間が長いため、予約なしではお客様を待たせる時間が長くなってしまう。そこで、機会損失を少なくするため、予約制をとることが多い。QB HOUSEでは短時間でサービスが可能なことから、待ち時間も短くすることができる。したがって、全く予約をとらないシステムにしても機会損失は少ない。お客様にとっては、事前に予定を拘束されないだけでなく、急にできた空き時間などを活用することができ、利便性が高い。QB HOUSEでは店舗毎に待ち時間を店外のシグナル(混雑告知灯)に表示することで、お客様の判断を助け、また、スマホアプリを通じて近隣のQB HOUSE店舗の混み具合がわかるようにすることで、機会損失を削減している。

独自のバリューチェーン

QB HOUSEのバリューチェーンは、「5つのお手軽さ」を実現している。

店舗開発
QB HOUSEは、駅ナカやショッピングセンターなど、消費者が日常生活の中で利用しやすい立地に出店する。店舗開発チームが、出店に適した立地を分析し、見つけ出す。さらに、デベロッパーとの交渉により、好立地、好条件を確保する。特に、使わなくなった駅長室や宿直室、倉庫など、駅の中にある狭いデッドスペースの店舗化は、鉄道会社も商業利用できると考えていないことが多く、QB HOUSEから提案型の店舗開発が行われる。各店舗は、地域特性や景観、店舗面積などに合わせて、最適な店舗設計と家具や設備の配置が行われる。QB HOUSEが1年間に業績不振により閉店する割合は既存店の1%未満と、非常に低い。

ヘアカットサービス
QB HOUSEでは短時間で、均一な品質のヘアカットサービスを提供している。顧客は事前に自動発券機で支払いを済ませ、順番を待つ。混み具合は店外のシグナルに表示されている他、スマホアプリで調べることもできる。髪が伸びた分だけ切る「調髪」、髪形を変える場合にはスマホアプリで10パターンが例示されており、それを参照するなど、短時間で効率的にどのようなヘアカットサービスを顧客が求めているかを、スタイリストが把握する。ヘアカット後にはシャンプー代わりにエアウォッシャーで毛屑を取り除く。

店舗管理
QB HOUSEは独自の店舗管理システムを構築しており、日次の売上、来店客数を中心に、時間帯別、年齢別、男女別、新規再来別、平均カット時間、平均待ち時間、席稼働率等の情報を収集し、分析している。また、第三者機関に覆面調査を依頼し、全店舗の顧客満足度を定期的に調査している。これらの情報を基に、店舗運営改善のPDCAサイクルを速く回している。駅の店舗は昼休み時間と帰宅途中の夕方が混雑するが、駅に隣接するショッピングビルの中の店は、午後が混雑する。QB HOUSEでは、混雑具合のデータに基づいて、かなり正確な混雑予想が可能になっており、近隣店舗の間を時間単位でスタイリストが移動し、繁閑に対応している。

研究開発
QB HOUSEは、シャンプーの代用とした「エアウォッシャー」、混雑告知灯の「シグナル」など他の理美容所にはない設備や、エアウォッシャー、滅菌器、クローゼット、モニターなど、ヘアカットサービスに必要なものが全てスタイリストの手の届く場所に収納できる家具の他、独自のカット理論及び教育方法の開発、さらには、店舗運営マニュアルの改善などにより、店舗のサービス価値を向上させる活動をしている。主な担当部署は「事業推進室」。

人的資源管理
QB HOUSEの採用ターゲットは幅広く、ヘアカット経験が豊富な即戦力人材だけでなく、ヘアカット未経験者や結婚・出産、異業種就職などによりブランクがある人材も含む。幅広い層から採用し、育成することで、安定的な出店と売上成長を実現することができる。
スタイリストの教育と育成は、第一に、「ロジスカットスクール」で、スタイリストの経験と能力に応じて研修を行う。ロジスカットスクールは、東京、大阪、名古屋にあり、トレーナーと呼ばれる教育専門の指導者が個々の能力に合わせて丁寧に指導する。ヘアカット未経験者は6か月で必要な技術を習得でき、経験者は入社面談時のヘアカット技術の審査で明らかになった不足する技術を研修する。
QB HOUSEのスタイリストに定年はなく、離職率も低い。シーズンによる需要の波が小さく、さらに、指名制がないので収入が安定するうえ、育児中などの理由で柔軟な働き方を希望するスタイリストが働き続け易い。

活動間のフィット

QB HOUSEの「5つのお手軽」さは、互いに強め合っている。「ヘアカットのみ」だから「短時間」でサービスが可能であり、「低価格」にできる。「短時間」でサービスができ、「高利便性(立地)」で「低価格」だから来店頻度が高く、来店客数も多く、スタイリストと店の稼働率を高く維持できるので、「低価格」を維持できる。より具体的にこれらの「お手軽さ」を実現する活動を見ると、その多くが複数のお手軽さに貢献しており、フィットの高い活動システムになっている。(活動システム・マップを参照ください。)

戦略を可能にしたイノベーション

  • 低価格均一料金、10分、利便性の高い立地、ヘアカットのみ、予約なしという「5つのお手軽さ」を価値提供として実現。
  • エアウォッシャー。シャンプーの代用として開発、導入。
  • 先払いの券売機。スタッフのレジ対応を廃止。
  • ヘアカットサービスに必要な道具類をカット席周りに集約し、移動距離と時間を削減する家具(意匠登録済み)。
  • スマホアプリ「カットカルテ」を開発し、お客様の要望を理解する時間効率を改善。
  • 待ち時間を表示するシグナル。券売機で発券してからカット席につくまでの時間を自動で測定し、3段階で待ち時間を表示。
  • 駅の中の商業用でなかった場所にも立地。家賃を抑えつつ、通行量の多い場所に出店することで、ニーズを喚起しつつ、広告宣伝費も削減。
  • 出退店が半日で可能な組立キット型店舗「QBシェル型タイプ」の開発。
  • カット理論の開発。誰もが理解できる理論に基づいた独自のカット理論を開発。
  • スタイリスト育成の社内研修施設「ロジスカットスクール」創設。均一にサービスが提供できる人を6か月という短期間で大量に育てる仕組みを構築。
  • 店舗管理の基幹システムの開発。カット時間などのデータを蓄積し、人事評価や人事配置などに使用。

トレードオフ

  • お手軽さを求める顧客に訴求し、上質さを求める顧客には訴求しない。
  • フルサービス(シャンプー、カラー、パーマ、髭剃り、スタイリング等)を提供しない。特にシャンプーを提供しないことで、大規模な水道設備が不要となり、立地選択の自由度が増す、時間がかからない、水道費を大幅に削減できる、ドライヤーを使わないので光熱費を削減できる。
  • スタイリストのランクによる複数価格の設定をしない。
  • カット理論に基づく定型化された技術を提供し、スタイリスト個人の感覚に基づく職人技を奨励しない。
  • 店内の華美な装飾、必要以上に広い空間を提供しない。
  • スタイリストの指名制を採らない。
  • 事前予約をとらない。
  • レジ対応をしない。

戦略の一貫性

QB HOUSEは、1996年11月1日、神田美土代町に第1号店をオープンした。この店は、自分では行うことが難しいヘアカットサービスの提供に特化することで、「10分のみだしなみ」というコンセプトで消費者に「お手軽さ」を提案した。その後、お手軽な価値は、"5つのお手軽さ"として再定義され、立地戦略は進化していったが、消費者にとって利便性を高めることで稼働率を上げるという戦略のコアを維持している。

創業当初から10年は、都心で働く「忙しいサラリーマン層」をメインターゲットとし、「利便性の高い立地」に省スペースで店舗展開を行うことで知名度の向上、高い稼働率を目指した。駅などの不動産を管理する全国の鉄道会社の子会社とフランチャイズ契約を締結し、店舗運営については社員ではない外部の理美容師に業務委託することで、スピード感をもって「利便性の高い立地」を確保した。

2000年の半ば、大店立地法改正等もあり、大型モールが全国的に開発された。駅のQB HOUSEという認知が高まっていたが、成長を求めて「ショッピングセンター」へ直営店の出店を加速させた。3割以下だった直営店比率は徐々に増加し、2009年には7割を超え、その後も微増を続けている。利用層も、「男性サラリーマン」に加え、子供やシニアの男性へ広がり、平日の夕刻に集中していた収益機会が分散化した。2016年6月期実績によれば、平日は9時から20時まで来店客数(カットした人数)が全店平均で6人を下回らず、週末は9時から19時まで10人を下回らない。その結果、収益が増大すると同時に、店舗の利用率が高まり収益性も改善した。

一方で、理容業界では、オーナーの高齢化や顧客離れ、理容資格取得者の減少による人不足に起因する廃業が加速した。また、美容業界においても、消費者の節約志向の高まりによる来店周期の長期化や、女性の趣向の変化によってパーマやカラーのニーズが減少したことにより、市場の成長が鈍化し、競争の激化と低価格化が進んだ。そのような中、QB HOUSEは、女性の消費者に対して「使い分け」を訴求した。毎月同じ美容所で手入れするのでなく、カラーやパーマをかけるとき以外はヘアカット専門店で「調髪」するという価値観だ。QB HOUSEにおける女性のスタイリストの増加も相まって、2016年末時点では利用客全体の約2割が女性となっている。

また、「このビジネスに国境はない」という考えのもと、「人口密集度が高く経済発展している都市」をターゲットとして、海外展開を本格化させた。2002年「シンガポール」、2005年「香港」、2012年「台湾」、2017年「アメリカ合衆国(ニューヨーク)」へと店舗を広げた。それぞれの国や地域において提供しているサービスは、へアカットのみ、低価格、短時間という点で同じだ(価格は現地の物価や生活環境に合わせ、12シンガポールドル、60香港ドル、300台湾元、20米ドル)。しかし、海外市場という新たな文脈で事業展開したことによって、戦略のコアを維持しながら、より強固な事業に発展させることができた。たとえば、アジアの国々では理美容師は日本のように国家資格ではないため、習得すべき事柄の再定義を含め、教育制度も抜本的に見直すこととなり、2013年より開校しているスタイリスト育成研修施設「ロジスカットスクール」の、より分かりやすい育成カリキュラムの構築に繋がった。香港の家賃は東京より高いので、1席店舗の"QBシェル型店舗"を新たに開発して導入した。アジアの国々には、ヘアカットに特化した低価格、短時間の理髪店は多いので、省スペースながらも清潔でセンスのいい店舗、スタイリストの高い技術と気持ちの良い接客で差別化し、QB HOUSEは「おしゃれで接客技術の高い美容室」として認知されている。ニューヨークでは、低価格という「お手軽さ」の訴求は低品質と認識されかねないので、時間価値の高い忙しいビジネスマンへの利便性の高いサービス、という「お手軽さ」の価値提供を訴求した。今後、米国と欧州など、理美容業界が成熟し、かつ、忙しい高所得者が多い市場で活かされる予定だ。

収益性

投下資本利益率、営業利益率ともに5年間の業界平均を大幅に上回っている。

注意:キュービーネットホールディングス株式会社は、1995年に創業者によって設立されたキュービーネット株式会社を母体とするが、2010年にジャフコによるレバレッジド・バイアウト(LBO)によってオーナーが変わり、さらに、2014年にインテグラルがLBOによってオーナーとなった。したがって、キュービーネットホールディングス株式会社は、二度のLBOに関わる買収資金としての借入金と、買収時に発生したのれんをその財務諸表に含んでいる。しかし、ポーター賞は、事業そのものが利益を生む力を評価するため、これらLBOの影響を除外して収益性を測定した。
収益性

キュービーネットホールディングス株式会社の活動システム・マップ

活動システム・マップ

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