• ポーター賞とは
  • 受賞企業・事業部レポート
  • 授業式・セミナー
  • 募集対象
  • 審査方法
  • 応募方法

受賞企業・事業部レポート

キリンビール株式会社

2010年度 第10回ポーター賞受賞 酒類製造販売業
ゼロ・サム・ゲームからポジティブ・サムの競争へ戦略転換

業界背景

日本のビール市場は1994年にピークを記録して以来、縮小。特に2002年以降は著しく縮小してきた。1994年の規制緩和により地ビール・メーカーが新規参入したが、製造と販売・マーケティングに規模の経済が働く業界のため、キリン、アサヒ、サントリー、サッポロの4社による競争の構図は崩れず、現在に至っている。(近年、流通企業によるプライベート・ブランドが市場シェアを増加させている。)

キリンは、1980年代前半まで、酒販店チャネルに強みを持ち、「キリンラガービール」という主力商品を中心に60%の市場シェアを握る業界リーダーであった。1987年の「アサヒスーパードライ」の登場によって、キリンのシェアは50%に低下したが、1994年の規制緩和まで小康状態が続いた。規制緩和によって販売チャネルの主力が酒販店から量販店に移行、集客手段としてビールの値引き販売が行われ、ビール各社はリベートを多用した営業活動を行った。また、需要を刺激するために各社盛んに新製品を出したが、すぐに類似商品が投入されるなど、製品差別化は容易ではなく、新商品は次々に消えていった。ビールが盛んに値引き販売されることも、製品差別化を一層難しくした。こうした値引き販売と製品ライフサイクルの短期化により、メーカー、卸、小売りは収益性が悪化した。1994年に発泡酒が登場し、キリンも1997年に「麒麟淡麗」を発売して発泡酒市場1位を獲得したものの、キリンの市場シェアはさらに低下して40%を下回り、2001年にはついにアサヒに市場シェア1位の座を奪われた。同年、キリンは、原点である「お客様本位」、「品質本位」に立ち返ることを決め、「価格軸の競争」から「価値軸の競争」に舵を切った。2004年には第三のビール(あるいは新ジャンル)という新しい製品カテゴリーが登場、キリンも2005年に第三のビールである「キリンのどごし」を投入して販売数量を伸ばし、2009年、9年ぶりに市場シェア1位を僅差で獲得した。

*以下、「ビール」「発泡酒」「第三のビール(新ジャンル)」を総称して「ビール類」と表記する。

概要

キリンは、「価格営業」から「価値営業」への戦略転換によって、ゼロ・サム・ゲームから、ポジティブ・サムのゲームへと競争の質を変えた。キリンでは、「価値営業」を「価格によらない営業、価格でなく価値で商品を選択してもらえることを目指す営業」としている。「価値営業」は「営業」という言葉が使われているが、営業機能に限定した概念ではない。商品開発、製造、物流、マーケティングなど様々な機能が、この概念を中心に連携している。つまり、「価値営業」は戦略レベルの概念である。販売促進費の削減や売り場作りの提案などは、一見、当たり前のことのように思われるが、2つの点において評価された。まず、オープン価格の導入により複雑な価格体系を透明化し、自主ガイドラインを導入することによって、常態的な値引きや極端な廉売につながる販売促進費は大幅に減少した。また、幅広い商品ラインを使って量販店チャネルとの協働を積極的に進めるという、キリンにとって最も効果的な手法で行ったことが評価された。

ユニークな価値提供

キリンは提供価値を、「価格」から「価値」に変えた。消費者に対しては、酒類や食事を楽しむ方法を提案し、小売業者にはキリンの商品に留まらず、食品など他社製品も含む売り場づくりを提案した。消費者、小売業者にメリットのある売り場を作ることによって付加価値を創出し、自社の利益にもつなげている。

キリンのターゲット顧客は、"価格だけ"でビール類の銘柄を選択するのではなく、ビール類から得られる便益によって選択する人々である。ブランドの便益を高める活動により、高くても買ってもらえる構造を作ろうとしている。

また、キリンの製品ラインは幅広く、ビール、発泡酒、第3のビールの各カテゴリーにおいて、それぞれ売上1位や2位の商品を有している。ある程度の年をかけてブランドを確立した商品と、新商品で製品ポートフォリオを構成し、多様化したお客様の持つ価値観に対応している。

独自のバリューチェーン

製造
製品ラインが多品種化した中で、品質を落とさずに製造の効率化を進め、お客様の価値につながらないコストを削減している。

アウトバウンド・ロジスティクス
物流部門と営業部門が共同で、TCR(Total Cost Reform)活動を実施、パレット単位の受注や大型車両での配送による車両効率の向上、時間指定配送の分散化によるトラック回転率の向上などに成果を出してきた。また、物流部門と生産部門とのTCR活動では、より効率的な在庫管理方法を目指して取組みを行っている。

マーケティング・販売
キリンは、お酒や食の楽しみを味わってもらうための提案や、地域の特性を活かしたきめ細かい店頭での売り場づくりなどを通じて、商品に魅力を付加すると同時に、売り場づくりを提案することによって、小売の集客・売上が改善することをめざしている。この提案型営業においては、市場リサーチ室という市場分析の専門家部隊もサポートし、基礎的なデモグラフィックの情報と需要予測を併せて分析を行う「商圏情報分析」をはじめとするデータに基づいた提案を行っている。提案を行うのは営業部隊であり、その提案を受けて、個々の店に合わせた売場を実際に作るのが、マーチャンダイジング機能の専門組織であるキリンマーチャンダイジング社(KMD)である。

また、市場リサーチ室とSP室が連携して、商品、販売促進策、広告、売場づくりを連動させる計画を策定している。市場リサーチ室が、商品の年間予測を行い、それに基づいて、マーケティング活動を調整する。

価格に頼らない営業を維持するために、キリンは、ビール類の拡売条件や販促活動に関して自主ガイドラインを定めている。キリンは、これを、業界全体の公正取引を目指すための活動と位置付け、営業担当者に徹底してきた。

研究開発
マーケティング部の中にある商品開発研究所で、研究・製造・商品コンセプト開発のエキスパートが協働して商品開発を行い、お客様にとって明確な価値を持った商品の開発を目指している。その過程で市場リサーチ室は、お客様や市場のデータ分析によって支援している。

人事管理
営業担当者のデータ分析や問題解決能力を引き上げるプログラムを実施している。

全般管理
「Kirinology」という情報システムに、価値営業の成功事例、店頭陳列の優れた事例が蓄積され、ノウハウが横展開されている。また、量販店向け提案支援システムにより、市場リサーチ室の分析専門家が直接関われないケースでも、営業担当者が提案書を作成するのを支援をしている。

2004年から「V10推進プロジェクト」と銘打った組織風土改革を実施。キリンにとっての「お客様本位」「品質本位」とは何かについての議論を様々な部門を横断して行うことで、「酒類事業の誓い」という企業理念と、「行動の原点」という行動指針を策定。これらを社内に伝える過程で、「価値営業」は、単なる方法論の転換ではなく、価値観の転換であることを明確にすることにより、営業部門以外にも「価値営業」の目的と意義の理解が浸透した。

活動間のフィット

キリンの活動は、価値営業、流通パートナーへの価値提供、お客様価値につながらないコストの削減を中心に、選択され、組み合わせられている。 (「活動システム・マップ」を参照ください。)

戦略を可能にしたイノベーション

  • 「価値営業」を単なる営業の手法ではなく、様々な機能をまたぎ、価値観の転換を必要とする競争戦略の転換と位置づけた
  • 公正取引委員会が定めた「酒類ガイドライン」に基づき、2002年に自主ガイドラインを構築し、2005年、業界に先駆けてオープン価格を採用した
  • 2002年、マーチャンダイジング専門子会社KMDを設立した。KMDは各地に拠点を持ち、地元の消費者、小売業者を理解した上で、キリンの営業部隊と共に買場づくりの提案を行った
  • KMD、営業部隊、市場リサーチ室が組織を超えてノウハウとベストプラクティスを共有する情報プラットフォーム「Kirinology」を構築した
  • 量販店への買場提案に、市場分析の専門家(市場リサーチ室)が参画した
  • 2009年に、世界初のアルコール0.00%のビール風味飲料「キリンフリー」を投入し、ノンアルコールビールおよびビール類市場に占めるノンアルコールビールのシェアは前年比約5倍、数量で2.5倍の規模に拡大した

戦略の一貫性

  • 「価値営業」への注力は、2001年に当時の荒蒔社長が発した「新キリン宣言」で、企業理念「お客様本位」「品質本位」への回帰が打ち出されたことに始まる。「価格から価値へ」という戦略の転換を社員が行動レベルにまで具体化することやパートナーである流通業者の理解を得ることに時間がかかったものの、価格営業への回帰は起こらず、試行錯誤しながらも価値営業実現に向けた取り組みが行われた。

トレードオフ

  • (商品価値の訴求は広く行うものの)ビール類を価格だけで選ぶ顧客はターゲットとしない
  • 低価格による販売促進を最低限に抑える。2002年に自主ガイドラインを設定後の2003年、販売促進費は、大幅に減少した
  • プライベート・ブランドに商品を供給しない(プライベート・ブランドは既に市場の5%)
  • ビール類6缶パックにつけていた景品を削減した

収益性

投下資本利益率、営業利益率ともに業界平均を5年平均で上回っている。

投下資本利益率(ROIC)   (単位:%P=パーセンテージ・ポイント)
5年間平均 単年度 業界平均との差異
業界平均との差異 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年
17.2%P -1.4%P -1.4%P -1.2%P 11.7%P 18.3%P
Inter quartile range (IQR) = 4.4%P
投下資本利益率=営業利益/平均投下資本

営業利益率(ROS)   (単位:%P=パーセンテージ・ポイント)
5年間平均 単年度 業界平均との差異
業界平均との差異 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年
4.6%P 2.8%P 3.5%P 5.9%P 5.1%P 4.0%P
IQR = 1.6%P
営業利益率=営業利益/売上高

活動システム・マップ

受賞企業・事業部 PDF

PAGETOP