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受賞企業・事業部レポート

三菱レイヨン株式会社 MMA事業体

2011年度 第11回ポーター賞受賞 化学品製造販売業
規模・範囲の経済性と技術リーダーシップを併せ持つ日本発のグローバル・リーダー

概要

三菱レイヨンMMA事業体は、モノマーからポリマー、加工製品まで幅広く手掛けるグローバル・リーダー。

MMAモノマーでは、世界一の生産規模をもち、世界の生産拠点の中でも顧客の近くから供給することによるコスト優位性を獲得。3種類の主原料を利用できる製造技術を持ち、また、モノマーのポリマー生産への投入量を管理することで、市況の影響を緩和、製品供給における長期安定性と幅広い製品ラインを活かしたワンストップ・ショッピングの利便性を顧客価値として実現している。

MMAポリマーや加工製品の分野では、技術革新により、同社でなければ提供できない製品群を豊富に持ち、技術リーダーシップによる差別化戦略を実現している。

モノマー、ポリマー、加工製品を社内で開発製造し、また、モノマーの自家消費率を目標管理することで、成長を促進させるダイナミズムを内部に組み込んでいる。

ユニークな価値提供

三菱レイヨンMMA事業体(以下、三菱レイヨン)の製品ラインは、MMA業界の中で最も幅広い。同社は、モノマー、ポリマー、加工製品を製造販売している。モノマーには、MMA、メタクリル酸、メタクリル酸エステル類が含まれ、塗料、接着剤、樹脂改良剤などの原料になる。ポリマー(アクリル樹脂)には、成形材料、樹脂改良剤、樹脂板(LCDバックライトの導光板、LED照明用の導光板、携帯電話の小型LCDパネルの表面保護板)、樹脂フィルム(交通信号機、自動車の内装、建築材料などに貼ることで、外観向上、紫外線による劣化を防止して耐久性を改善)、コーティング材料(自動車や光ディスク表面に使用)などがある。加工製品には、光ファイバーやロッドレンズが含まれる。プラスチック製光ファイバーは、ガラス製のものよりも軽く柔軟で、取扱い性が良く、電磁ノイズの影響を受けないため、欧州車を中心に自動車内の情報通信に使われている。ロッドレンズは、ファクシミリや多機能プリンタ、スキャナの読取装置に使われており、ガラス製のものの置き換えを図っている。

これらの中には、三菱レイヨンが大きなシェアを獲得している製品が多い。プラスチック製光ファイバー、プラスチック製ロッドレンズ、極薄樹脂板(厚さ0.5ミリから1.2ミリ)、水族館水槽用の極厚樹脂板などである。

これら多様な製品群の間には、シナジー効果が働く。製造ノウハウを製品間で共有することができ、また、研究開発においても、たとえば、モノマーの知識が加工製品の技術開発に役立つ。

三菱レイヨンのターゲット顧客は、自動車、塗料、建設資材、情報通信、家電業界などの企業である。

三菱レイヨンのミッションは、顧客の成長を支えることである。MMAモノマーで最も大きな製造能力を持ち、最も幅広い製品ラインを有している。また、製造拠点を日米欧アジアの全てに持っているので、MMAに関連したものは、何でも、いつでも、どこからでも供給することができる。

三菱レイヨンが顧客に提供している価値は、ワンストップ・ショッピングの利便性、グローバルな安定供給体制、他社では提供できない製品の供給、MMAに関する技術知識を活かしたソリューションの提案力である。大手顧客は集中購買を進めており、ワンストップ・ショッピングの効用は大きい。また、大手顧客は、世界規模で生産拠点の統廃合に取り組む例が増えているが、グローバルな供給体制を有していることによって顧客の近くから供給することができる。また、幅広い製品ラインを有し、世界で生産していることで得られる原材料や製品の需要動向などに関する情報も提供することができる。

独自のバリューチェーン

三菱レイヨンには、二つの自律的なバリューチェーンがある。一つは、同社の伝統的な事業体であり、もう一つは、2008年に買収した英ルーサイト(Lucite)(※2)のバリューチェーンである。前者は「MMAブロック」、後者は「ルーサイト・ブロック」と呼ばれるが、両者ともモノマーからポリマーまで垂直統合されている。それぞれの内部に複数の事業ユニットがあるが、ある事業ユニットの製品が別の事業ユニットの原料となる、という様に、相互依存関係がある。三菱レイヨンは、MMAモノマーの社内消費率を50%とする目標を置いている。

研究開発
三菱レイヨンのコア技術は、高分子合成技術、精密賦形技術(※3)、光学設計技術などである。化学業界の研究開発は技術プッシュ型が一般的であるが、同社の技術開発は、営業からの顧客ニーズ情報、特にコストダウンのニーズと特定の機能の要求から大いに刺激を受ける仕組みを有している。

調達
ルーサイトと調達を統合し、三菱レイヨンは調達費と物流費を大幅に削減した。2009年5月からの累積コスト削減は、7600万ドルに達する(同社推計)。追加で、6700万ドルのコスト削減が見込まれている。

製造
三菱レイヨンは、生産拠点を、日本、タイ、韓国、中国、インドネシア、米国、英国、シンガポールに有している。アジアにおいて最大の生産能力を有する。

販売・マーケティング
三菱レイヨンは、コーティング剤、樹脂改良剤、光学製品の分野において特に、ソリューション提案型の営業を行っている。

また、三菱レイヨンは、事業部制を敷いており、それぞれの事業部ごとに技術サービス部門を持ち、営業と技術サービス担当者がペアで顧客を訪問する。これは、化学業界で広く行われているが、三菱レイヨンは1970年代後半にこの活動を他社に先駆けて始め、社内に深く根付いている。営業と技術サービスのペアは、顧客から集めた情報をデータベースに登録、これに、研究者、技術サービス、営業、管理職などからアクセスすることができる。海外の拠点からも情報がインプットされ、本社の技術統括室が、これらの情報が有効活用されているか管理している。

全般管理
三菱レイヨンは、MRU(Management Responsibility Unit:経営責任単位)で経営管理を行っている。それぞれに財務諸表(P/L、B/S、CF/S)を持ち、4つのKPI(EVA、付加価値、ROCE、VAW(※4))で評価される。

三菱レイヨンは、MMA事業体として利益を最大化するため、生産性の低い工場から高い工場へ生産を移動したり、より収益性の高い製品の製造を増大したりする。多様な製品群間でのこのような調整によって、三菱レイヨンは、資源価格や需要の変動に対して、耐性の強い構造を作り上げている。
1999年より、三菱レイヨンは、「US - Unique and Specialty」化を進めてきた。これは、得意とする技術やノウハウをベースに独自性のある製品群を開発することや、事業展開において他社と異なる戦略を実践することを追求するものである。加えて、2002年より、オペレーションの効率を強化するため、工場の製造コストや物流費、在庫や運転資金の削減に取り組んできた(MMAブロックでは事業競争力強化活動(JK活動)、ルーサイト・ブロックではManufacturing Excellence活動)。

人材管理
個々のMRUはKPIで評価されるが、社員は、事業ユニットの業績と個々人の能力で評価され、MRUの業績で評価される割合は少ない。

三菱レイヨンでは、問題解決のために、ウエブミーティングやテレコンファレンスが、各国の拠点間で頻繁に行われている。また、国際的に活躍できる人材を育成するため、様々な階層の社員に向けて様々な教育プログラムを提供している。部長職以上が参加するグローバルリーダーシッププログラムでは、ルーサイトを含むグループ全社から集められた参加者が、5ヶ月間に及ぶ英語のプログラムを履修し、最終日に経営陣に対して実態に即した経営戦略あるいは事業戦略を英語で提案する。

(※2)三菱レイヨンは、2008年11月にイギリスに本社を置くMMA専業メーカー、Lucite International Group Limitedの買収を発表、2009年5月に統合作業を終えた。ルーサイトの前身はICIで、1993年にDuPontのアクリル事業と統合し、ルーサイトとなった。三菱レイヨンによる買収前、ルーサイトは、世界最大のMMAモノマー製造能力を有していた。
(※3)精密賦形技術とは、樹脂を溶かして何かの用途に適した形にする際に、寸法精度はもちろんのこと、目的の機能が発揮できる厳密な形に仕上げる技術。
(※4)KPIとは、重要業績評価指標。EVA - economic value added、ROCE - return on capital employed、VAW -value added over wage.

活動間のフィット

三菱レイヨンMMA事業体の活動システムは、高付加価値差別化商品、MMA関連製品の幅広い品揃え、アップストリームとダウンストリーム事業のバランス成長、生産拠点と販売網のグローバル展開、合理化、という戦略上コアとなる選択を中心に、これらを実現する活動によって支えられている。(「活動システム・マップ」を参照ください。)

戦略を可能にしたイノベーション

  • MMA事業体の中のMRUを「チェーン」と概念化し、個別に収益管理しつつも、これらの間のシナジーを創造した。
  • プロセスイノベーション1‐MMA樹脂板製造技術:連続製板技術を世界で初めて開発、工業化(1971年。1978年大河内記念生産賞受賞)。その後、代替プロセスとして標準的になってきた押し出し機による生産から、連続製板技術に経営資源を集中。同技術の進化によってコスト競争力が圧倒的に高まり、IT関連製品(液晶ディスプレイの導光板、携帯電話の窓板等)における高収益に貢献している。大サイズや極薄の樹脂板(0.5-1.2mm)など、同社にしか提供できない製品は、この技術に支えられている。
  • プロセスイノベーション2?MMA樹脂成形材料製造技術:連続塊状重合法を開発(1977年)。製造コスト低減と光学的品質の大幅な改善が可能になった。この技術もまた、光学関係の製品の競争力に貢献している。
  • プロセスイノベーション3?MMAモノマー製造技術:イソブチレンを原料とする直接酸化法を世界に先駆けて工業化した(1982年。1983年大河内記念生産特賞受賞)。従来のモノマー合成法(ACH法)は、アクリロニトリル合成時に副産物として生成される青酸を使用していたが、この技術により、青酸を使用せずに製造が可能になり、同時に、製造コストも大幅に低下した。
  • 製品イノベーション1:世界で初めて、連続塊状重合法と精密複合紡糸技術を組み合わせてMMA樹脂製の低損失光ファイバーを開発、商業化(発売開始1984年)。1985年日本化学学会化学技術賞受賞)。この技術によりプラスチック製光ファイバーの伝送距離が飛躍的に伸びた。三菱レイヨンは、プラスチック製光ファイバーにおいて約70%の世界シェアを有する。
  • 製品イノベーション2:世界で初めて、MMA樹脂製のロッドレンズを開発、商業化した(発売開始1989年)。三菱レイヨンは、プラスチック製ロッドレンズの唯一の製造企業であり、プラスチック製のロッドレンズは、ロッドレンズの世界シェアの約30%を有する。ロッドレンズは、ファックスや多機能プリンタなどの読み取り部分に広く利用されている。カラー化に対応して、低色収差ロッドレンズを開発し、工業化した(2010年日本光学学会光設計賞優秀賞受賞)。

戦略の一貫性

三菱レイヨンのMMA事業の歴史は1943年に始まるが、現在の戦略は、1990年代初頭、MMAモノマーを原料とする事業ユニット群を相互依存関係のある「事業チェーン」と構想し、まとまりの良い事業ユニットをMMA事業体としてグループ化したことに遡る。

国際展開は、1990年代にアジア市場でのプレゼンスを確立、1999年にはアジア・ナンバーワン体制の確立、2009年のルーサイト買収を経て現在の世界ナンバーワン体制の確立へと、進化してきた。

自社技術による新しい製造方法の開発によって、低コスト化、性能向上、新規商材の上市などを進める部分は、以前から一貫した三菱レイヨンの強みであり、差別化要素の一つである。

トレードオフ

  • 独自性と専門性の発揮できない領域で事業を行わない。1990年代後半から2000年頃にかけて、MMA樹脂板製造技術として業界で標準的になってきた押し出し機による生産から、独自技術である連続製板技術に経営資源を集中した。1995年には、アクリル酸エステルにおける三菱油化との合弁事業から撤退した。
  • 十分な規模が得られない場合には、事業を他地域に展開しない。日米欧アジアに製造基盤があるのは同社の強みではあるが、個々の製造事業に十分に競争力がなくてはならない。2002年、欧米での樹脂改質剤の合弁会社を解消し、アジア市場へ経営資源を集中させた。
  • 他社との協同を排除しない。同社は、自前の研究開発能力によって技術リーダーシップを構築してきたが、規模の経済が働く分野では、他社と協同する。例えば、MMAモノマーの海外生産においてタイのSiam Cementグループとの合弁会社ThaiMMA(1999年生産開始)、韓国の湖南石化との合弁会社大山MMA(2006年生産開始)を設立した。

収益性

投下資本利益率、営業利益率ともに業界平均を上回っている。

投下資本利益率(ROIC)   (単位:%P=パーセンテージ・ポイント)
5年間平均 単年度 業界平均との差異
業界平均との差異 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年
7.8%P 19.3%P 9.1%P -1.2%P 0.2%P 9.2%P
Inter quartile range (IQR) = 5.5%P
投下資本利益率=営業利益/平均投下資本

営業利益率(ROS)   (単位:%P=パーセンテージ・ポイント)
5年間平均 単年度 業界平均との差異
業界平均との差異 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年
7.4%P 15.7%P 7.7%P -0.6%P 2.3%P 9.7%P
IQR = 3.4%P
営業利益率=営業利益/売上高

活動システム・マップ

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