受賞企業・事業レポート

株式会社IBJ

2015年度 第15回ポーター賞受賞 婚活支援事業

合コンセッティングサービスや婚活サイトといった顧客にとって敷居の低い入り口から結婚相談所まで、切れ目ないサービスを提供、高い成婚率を実現。

企業概況

株式会社IBJは、独身者の出会いを創造し、カウンセリングなどのサービスによって成婚を支援することを事業にしている。

具体的には、オンラインに特化した婚活サイト「ブライダルネット」(総会員数123,384人、2014年)、出会いのリアルな場を提供する、イベント企画をメインとする合コンセッティングサービス「Rush」や、自社会場を主に利用するお見合いパーティ「PARTY☆PARTY」などを通じて、独身者の出会いを支援している(動員数285,742人、2014年)。これらの活動を通じて結婚への様々な準備が整ってきた会員には、直営の結婚相談所「IBJメンバーズ」が提供するカウンセリングなどのサービスが提供される。結婚相談所IBJメンバーズは高い成約率を誇る(会員数3,951名、成婚数803組、2014年)。これらサービスの総会員数32万人(2014年12月末)。この32万人の会員に対するオンライン広告事業も行っている。また、「日本結婚相談所連盟」サービスを通じて、全国の結婚相談所990社に各種インフラを提供している(2014年12月末)。

IBJの第一の特徴は、まだ結婚を強く意識していない世代の出会い支援から、結婚相談所による成婚支援まで、オンラインとリアルをまたいで幅広く手掛けている点にある。競合他社は、オンラインに特化したマッチングサイトやリアルの結婚相談所など、部分に特化していることが多い。

第二の特徴は、同社が「成婚主義」と表現する、成婚実現へのコミットメントであり、それが各サービスに反映されている点だ。たとえば合コンセッティングサービスなどの入り口に近いサービスは、会員の母集団形成の機能を果たしており、IBJのサービスを利用し続けてもらうために、サービスの質や満足度への投資が行われている。

2000年創業。2014年度売上高33億円(単体)。

※成婚率とは、退会者のうち、成婚を理由に退会する人の割合

ユニークな価値提供

IBJの経営理念は、「ご縁がある皆様を幸せにする」ことで、「国民的マリッジサービス(未婚の男女が結婚するためのお相手探しで当たり前のサービスだと広く認知される社会的インフラサービス)とライフデザインサービス(結婚前後の生活関連サービスに加えて、結婚という形式にとらわれず、独身であることをどう楽しむかの提案サービス)を創る」ことを目指している。

IBJのサービスは、成婚(結婚の約束)を支援することを目指しているので、ターゲット顧客には、交際相手のいない未婚男女にとどまらず、交際中の個人やカップルも含まれる。独身男女が結婚相手を探す活動(婚活)は、出会い、交際、成婚(結婚の約束)、結婚(法廷婚や事実婚)というステップを踏むことが多いが、IBJは、それぞれの段階に対応したサービスを提供している。

合コンセッティングサービスのRushは、結婚まで意識していないが出会いを求めている主に20歳代から30歳代の独身男女のグループをオンラインで集客し、事前に契約済みの飲食店から会場を選択、予約し、利用代金の精算を行う。事前プロフィールの登録アドバイスなど、合コンまでのサポートはブライダルネット(後述)のカウンセラー、当日できなかった連絡先の交換などのサポート(アフターサービス)はイベントの司会者が提供。出会いのきっかけづくりから連絡先の交換までのステージに対応する。本サービスは、全国の主要都市で提供されている。
より結婚を意識した顧客には、Party☆Party事業により、お見合いパーティを直営会場で提供し、出会いから連絡先の交換までのステージを支援する。スポーツ好き、など50種類以上の企画を軸としたパーティが開催される。顧客はグループではなく個人で参加し、集客はオンラインで行われる。一旦Party☆Partyに参加した顧客には、メルマガ配信を行うと共に、お見合いパーティの企画内容に合致する会員に案内が送られる。連絡先の交換は、カップリング(お見合いパーティで男女双方がお互いを気に入ってカップルになること)や司会者の仲介がないとできない。主に20歳代から40歳代の未婚男女が利用、直営会場は、関東、東海、関西の主要都市にあり、男女が一対一でゆっくり話せる個室型が中心。参加者の男女比バランスが整わなければ開催しない。参加費は業界比、高い。

ブライダルネットでは、趣味や考え方の共通点から、自分の好きな時間帯にオンラインで結婚相手を探すことができる。婚活イベントの司会者や結婚相談所事業のカウンセラー経験者がノウハウを活かして、コールセンターから24時間体制でアドバイスを提供(婚シェル)。出会いから連絡先の交換、交際の支援までを行う。会員には本人証明書の提出が義務付けられており、連絡先の交換にあえて即時性を廃する(出会いから連絡先の交換まで24時間以上経たなければならない)など、会員の質の維持が留意されている。趣味などの共通性の検索が可能なほか、「みんなの日記」や「みんなのマップ」機能によって、普段の生活を知ったり行動範囲が重なっている相手を探すこともできる。セミナーなど、一部活動はオフラインで提供。主に20歳代から40歳代の未婚男女が全国から利用。

IBJメンバーズでは、直営の結婚相談所で、出会い、連絡先の交換、交際、成婚まで、ひとり一人に専任でつくカウンセラーによるサービスを受けることができる。主に、20歳代から50歳代の未婚男女が利用。関東、東海、関西の主要都市で運営、2014年末時点で8店舗。施設は個室を中心にし、ラウンジ的な居心地の良さを重視している。IBJメンバーズの入会金は業界並み、月会費は業界並みの半分だが、活動サポート費は充実したカウンセリングを反映して業界並みを大幅に上回る。また、成婚による退会時に、成功報酬として定額の成婚料を課している。

日本結婚相談所連盟は、独立結婚相談所へ、お見合い管理システムを提供している。これによって、会員結婚相談所は、個人情報管理が改善。日本結婚相談所連盟は契約書の標準様式を提供、法令や個人情報保護に関する研修会を開催したり、定例会で成婚ノウハウや最新情報を提供する。24時間問い合わせ対応。会員になっている結婚相談所間では、他の相談所の会員の紹介も可能。

独自のバリューチェーン

IBJのバリューチェーンは、集客活動、会員の質を維持する管理活動、システムとサイトの開発、人材育成に特徴がある。

集客
IBJの会員は、IBJアカウントにより、プロフィールを都度登録し直す必要なく、複数のサービスを利用することができる。したがって、あるサービスがニーズに合わなかった場合にも、他社に流出するのではなく、IBJ内のサービスを利用するよう促すことができる。

IBJメンバーズでは、婚活パーティへの参加者に結婚相談所サービスの案内をするなどの施策の結果、IBJが提供する他のサービスから会員が移動することが多いため、メンバー獲得にかける広告宣伝費が業界比、低い。結婚相談所IBJメンバーズのラウンジを使用した婚活パーティは、結婚相談所の下見としての機能も兼ねており、顧客の移行を容易にしている。

会員登録には慎重なステップを設け、独身ユーザーが実在の人物であること(全サービス)、プロフィールが正確であることを高いレベルで確保している。独身であることの証明(IBJメンバーズ、ブライダルネット)、学歴や収入の証明書(IBJメンバーズ必須、ブライダルネット推奨)の、活動開始前の提出を義務付けている。

運営
顧客体験の質を維持する為、違法行為、不道徳行為に対しては、オンライン、オフラインいずれのサービスについても、厳しい対処を行う。オンラインのコミュニケーションはシステムで監視され、情報の削除や警告、書き込みの即時停止、除名などの処置が採られる。

お見合いパーティの運営ノウハウは、オンラインサービスであるブライダルネットの補完的なオフライン活動(自分磨きのための「ブラッシュアップセミナー」や、コミュニケーション力や自己表現力を高めるための会員向け「恋愛アカデミー」)に活かされている。

サイト制作・システム開発
IBJは、システム開発からウエブデザインまで内製化しており、個人情報管理の徹底に加えて、各サービス間のシステムの共有やノウハウの共有を可能にしている。システム開発者と各サービスの企画担当者の連携を重視し、ノウハウをシステムに載せることで、人によるオペレーションは単純化、ユーザーにとっての利便性の改善が可能になっている。たとえば、合コンセッティングサービスでは、希望者が希望の日時とエリアを登録するとシステムが自動で相手候補をリストアップする仕組み。

人的資源管理
人に寄り添って課題解決するコーディネイト力の育成を重視。全役職者が年1度講師となって行う社内研修、入会促進ステップアップ研修、成婚カウンセリングステップアップ研修など、課題解決型コーディネイト力養成のための個別テーマに関する研修を3か月に一度の頻度で実施、達成度合いのランク付けでコーディネイト力の把握と向上を促している。全てのスタッフにサービス改善のアイデア創出を求めており、収益性情報を開示している。半年に一度の経営方針説明会やIBJ手帳の配布、社員ポータルサイトへの掲載などで理念の理解浸透に努めている。

管理職は、立候補者から選ばれ、立候補者は年2回の立候補プレゼンへの参加が求められる。

活動間のフィット

IBJの活動は、成婚というゴールに向けて、インターネットとリアルの活動が有機的に組み合わされている。特徴的なのは、お見合いパーティや結婚情報サービスが、最も成婚に貢献する結婚相談所サービスの、集客機能を担っていること。また、各サービス間のノウハウの共有も行われている。たとえば、結婚相談所のカウンセラーのノウハウが、ブライダルネットのコールセンターサービスに活かされ、IBJメンバーズの運営ノウハウが日本結婚相談所連盟のサービスに活かされている。(活動システム・マップを参照ください。)

戦略を可能にしたイノベーション

  • 日本初のインターネット結婚情報サービス「ブライダルネット」創業(2000年)。ネット上で結婚相手を自分で見つけることをサービスコンセプトとし、当時既にあった出会い系サービス(異性紹介サービス)と差別化する為、当初から各種証明書を郵送してもらい、IBJにて記載内容の確認を行った上で活動できるようにする他、安易な連絡先の交換を防ぐため、出会いから連絡先の交換まで24時間以上の制約を設けた。
  • ネット上で結婚を前提とした交際相手を見つけられるブライダルネットと、婚活パーティ、結婚相談所を組み合わせる事業構想。(2006年)
  • 結婚相談所に成果報酬型料金体系(成婚料)を導入。(2006年)

トレードオフ

  • ネットかリアルの二者択一にしない。ネット活用によるサービスの利便性や効率性・質の確保と、成婚に必要な、人によるコンサルテーションの両方を追求する。
  • 地理的拡大を追わない。リアルのサービスを主要なターミナル都市に限定し、充実した顧客基盤とスタッフの質を確保する。
  • 新規顧客獲得を優先して会員の質を落とすことはしない。会員登録時に運転免許証やパスポートなど の本人証明の書類提出を求め、あるいは、男女で料金格差をつけない。メンバーシップの信頼性のため、オンラインサービスの強みである登録の手軽さを犠牲にするような入会時のハードルを設けている。
  • 個別サービスの効率性を追わない。たとえばお見合いパーティでは、一開催あたりの集客数を犠牲にしても、個室型パーティ会場の自社運営を選択し、出会いの質を高めることで、顧客満足度を高め、成婚に向けて顧客維持を図る。
  • 結婚相談所会員の募集を広告に依存しない。

戦略の一貫性

2000年の株式会社ブライダルネットによるオンライン結婚情報サービス「ブライダルネット」の開始以来、同社のサービスは、成婚を支援することを目的として形成されてきた。当初より、既存の結婚相談所をインターネットによって効率化することが着想の背後にあり、成果としての成婚が意識されていた。したがって、本人確認の徹底、連絡先交換を出会いから24時間後以降にするなど、結婚を前提とした真剣な交際相手を探す場としての仕組みを設けてきた。

ブランド認知や信用度を改善し、集客を強化する意図で、2003年にヤフーの100%子会社になったが、成婚率の改善には人によるアドバイスが必要との気づきにより、2006年ヤフーからマネジメント・バイ・アウト(MBO)により独立。結婚相談所サービスであるIBJメンバーズと、日本結婚相談所連盟のサービスを開始。2009年に株式会社IBJが株式会社ブライダルネットを吸収合併し、インターネットとリアルの融合と、各種サービスの相乗効果創出が強化された。

その後、リアルな出会いの場の強化策として、お見合いパーティのParty☆Partyと合コンセッティングサービスのRushを追加。2013年には、システム開発を手掛けていた会社を吸収合併することで、システム開発能力を強化した。

収益性

投下資本利益率、営業利益率ともに5年間平均で業界を上回っている。

活動システム・マップ

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第24回 ポーター賞 応募期間

2024年5月 7日(火)〜 6月 3日(月)
上記応募期間中に応募用紙をお送りください。
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