受賞式・カンファレンス

受賞企業インタビュー

インタビュワー:一橋ICS 教授 楠木建

トラスコ中山株式会社
代表取締役社長 中山哲也 様

トラスコ中山株式会社

戦略のポイント

  • 間接資材の卸業
    • MonotaROは顧客
  • 173万点の幅広い間接資材をワンストップ・短納期で納入
    • 顧客である小売業者の在庫削減と品揃え強化を同時に実現
    • 注文頻度の低いロングテール商品も在庫し小ロットで受注
  • 物流拠点とシステムに先行投資
  • 在庫回転率ではなく「在庫出荷率」を重視
    • 2018年9月末時点の実績は89.9%
  • 低価格を追求しない
    「できればトラスコ中山から買いたくないが、買うしかない」
  • 自社でトラックを所有し固定ルートで配送
    • 全顧客の約8割を固定ルートでカバー
  • 人材自前主義で、派遣社員を雇わない
  • 「変動費か固定費か」の選択で固定費を選ぶ

間接資材の卸業とは

一橋ICS 教授 楠木建
一橋ICS 教授 楠木建
――トラスコ中山さんは間接資材。ただし、先ほどのMonotaROさんとは競合関係ではなくて、売り手と買い手の関係、トラスコ中山さんは卸業です。一見すると、間接資材の卸、なんにもいいことがないような業界に見えますが、驚くことに、一番最近の新規参入企業がトラスコ中山さんで、これが何年前のことですか。
60年前です。
――この60年間、新規参入業者ゼロ。はたから見たら、どれだけつまんない商売なのかと思います。そこで全く独自の戦略で稼いでいくのは、僕の一番好きなタイプです。
最大のお客さまが、先ほどのMonotaROさんということですね。MonotaROさん以外の伝統的な小売りというと、どういう人たちなのですか。
伝統的なら、町の機械工具屋さん、もしくは金物屋さんが、われわれの従来からの顧客です。
――そして、新しく大きなお客さんとしてMonotaROさんとか、それからAmazonさんですね。昔から、中抜きだとか、卸は必要ないとか、言われ続けて何十年だと思いますが、この立ち位置でどういうふうに価値をつくって利益を出してらっしゃるのか、ご説明ください。
トラスコ中山株式会社 代表取締役社長 中山哲也 様
トラスコ中山株式会社 代表取締役社長
中山哲也 様
多分、ポーター賞を受賞された企業の中で、創業者の名前が付いている会社は、われわれぐらいしかないのかなとは思います。楠木先生がおっしゃるように、問屋は不要だ、無用だと随分言われてきましたが、日本における問屋業の役割は非常に大きいと考えております。例えば、われわれは仕入れ先さまとして、約2,400社の国内外のメーカーさんの取り扱いがございます。在庫のアイテムが、おおよそ、36万アイテム。全国約22カ所の物流センターに配備し、日本津々浦々、ユーザーさん、もしくはディーラーさんにお届けしています。ものづくりを取り巻く業界に、三つの特徴がございまして、「早く持ってこい」、「そら持ってこい」、「ほら持ってこい」です。
――なるほど。全部同じじゃないですか。
口を開けば、即納が最大のサービスと言う業界で、MonotaROさんは、それを一番最前線でやっておられ、バックでフォローするのがわれわれ卸の業界でございます。
MonotaROさんも直接お取引のあるメーカーさんをたくさんお持ちですが、われわれに「コンセントをつないでいただく」と、即日36万アイテムを出荷でき、非常に高い利便性を得られます。それと、各メーカーさんから商品を購入されると、極端に言うと、二千何百社のメーカーさんから、二千何百個の段ボールがどっと物流センターにやってきますが、われわれにご発注いただくと、一つの箱に色々な商品を入れてお納めできます。
――しかも、お客さまとの支払いなど、取引のシステムを統一されているそうですね。「コンセントをつなぐ」というのが上手い表現だなと思います。インターネットで繋がることで卸業も価値が大きくなっていると思います。MonotaROさんはワンストップ・ショッピングなのですが、ワンストップの背後にいるワンストップっていう役割ですね。

できればトラスコ中山から買いたくないが、買うしかない

――御社の戦略で幾つか深く感銘を受けたとこがありますが、一つは、一番重要なお客さまは、「できればトラスコ中山から買いたくないが、買うしかない」お客さまだということです。この真意は何ですか。
いろいろ紆余曲折がありましたが、われわれ商社は、営業が御用聞きに徹してお客さまに色々な事業の提案をしますが、お客さまに会社のことを気に入っていただき、そして商品を買っていただき、売り上げを拡大する、というのが普通です。しかし、一旦違うなと思われてしまうと売り上げがゼロになってしまいます。これではやっていられないということで、在庫や品ぞろえ、デリバリーの速さなど当社の仕組みやサービスを気に入って買っていただくお客さまを増やそうという方針を採りました。今、先生がおっしゃったように、企業づくりの究極の目標は、「できればおまえのところから買いたくないけど買わざるを得ない会社づくり」で、会社としての強さが一番そこに出るのかなと思います。
――それは言い方を変えると、相手にとって他から得られない価値、重要な価値を提供できる会社。おまえのところとやりたくないけど、という言葉の意味ですね。言われてみると本当にその通りです。たまたま今日うまいこと、MonotaROの方いらっしゃいますので、できたらトラスコからは仕入れたくないけど、しょうがない、と思っていらっしゃるのか、鈴木さんのコメントをお願いします。
<MonotaRO 鈴木様>
全くもってそのとおりでございます。当社の成長に合わせて、取引額もどんどん増えています。先ほど中山社長がおっしゃられたように、少しでも安く買うことを一所懸命に目指しても、いろんなところから買って、結局、物流センターの中における人件費のほうが高くなったりします。トータルのプロセスコストを考えると、トラスコさんからまとめて買ったほうがいいっていう結論に、どうしてもなってしまいます。

在庫回転率ではなく在庫出荷率

――なるほど。いいお客さまじゃないですか。理想のお客さま。もう一つ、これまた大変にクリエイティブな意思決定だと思いますが、普通、卸の方はとにかく在庫回転率を上げて効率化を考えますが、ところが、社長は在庫回転率を気にせず、在庫出荷率を重視しているとのことです。在庫出荷率というのは、どういう指標ですか。
一般的に在庫回転率と言われますが、その指標自体はお客さまから見ればなんの意味も持たない指標ですので、そんなお客さんにメリットのない指標には拘りません。われわれは在庫出荷率を重視します。お客さまからご注文いただいた商品を、どれだけ在庫から出荷して即納で速くお届けできたか、を表すサービスの最高のバロメーターです。
――ということは、在庫出荷率は、全受注分の在庫から即納できたものの割合ですね。
そうです。
――これが90%ぐらいということは、とにかく在庫を持っているということ。ということは、物流拠点が22拠点もあり、ここにものすごく投資しているということですね。
はい。ここ20年、25年で、物流投資は、土地建物で1000億ぐらいです。
――業界を越えても、御社は物流拠点では最も進んでいる会社の一つだという評判です。大量かつそんなに動かない商品も意識して持っているわけで、それを効率的に運営していくためには、最近話題のロジテック、物流周りの最新技術が必要になると思いますが、例えば、自動ピッキングは、日本で最も早く導入された会社の一つだそうですね。
まだまだ緒に就いたばかりで、自動ピッキングまではできていませんが、ピッカーのところまで商品を送る仕組みを一生懸命急いで構築をしている最中です。

自前主義、固定費化

――卸業の倉庫というと薄暗いイメージがありますが、まだ写真で拝見しただけですが、ものすごくかっこいいビルというか施設で、デザインにもお金が掛かっていそうですね。
建物っていうのは、やっぱりまず町の財産だっていう考え方が一つありますし、それから30年ぐらい後の後輩が、やっぱり先輩たち頑張って、いろいろ気張って作ったなっていう、そういうものを残さないといけないと考えています。とにかく安普請の建物は老化が早く、10年もたつとみすぼらしい倉庫になってしまい、これじゃあ後輩も新入社員も入ってこないし、そんな会社は駄目だって見られます。機械工具屋らしからぬ建物をということで、今、頑張って建てています。
――長いレンジで総合的に見る。言われてみれば経営の基本ですけれども、それがいろんなとこで徹底しているなと思うのは、一言で言うと、変動費か固定費かを選ぶとすると固定費。世の中は固定費の変動費化っていうのが大きなトレンドで、いろんなコストダウン、効率化を図ります。例えば固定費を選ぶということでは、今の倉庫もそうですし、人材も自前主義だそうですが如何ですか。
はい。
――小売りの方々への配送ですが、他社の物流会社に発注しているのではなく、自社のトラック、運転手でバスみたいに決まったルートを回っているそうですが、説明してください。
配送費は変動費というのが一般的な考え方ですが、固定費にすることによって、路線バス方式の物流システムが出来上がります。これは、われわれが卸であるから可能なのですが、非常にコストは掛かかりますが、売り上げが上がろうが下がろうが、基本的には運賃は増えません。
しかし、商品の単価が下がれば下がるほど、競争力が強くなります。例えば、一つ100円の商品に宅急便で500円、1000円の運賃を掛けたら商売になりません。われわれの路線バス方式では、1件目のお客さまが500円しかなくても、次が5万円、その次が30万円あるということで、ぐるっと回る間に配送費を全部吸収できる仕組みを構築しました。
――つまりエンドユーザーが消費者ではなくて小売業者なので、当然、MonotaROさんと比べるとお客さんの数は限られ、バス方式の固定ルートで配送しても、ペイするどころか、実はそっちのほうがよっぽど経済性も高いということですね。これが自前主義、変動費じゃなくて固定費、の一つの現れですね。
もう一つ、ちょっと変わっているかも知れませんが、物流センターはほとんど全て自前で土地を買って、建物を建てています。私、減価償却が大好きなのです。家賃は100年払っても自分のものにはならないので、基本的には全て買います。
この背景にあるのは、企業の大動脈は他人資本に依存するべきでないという考え方です。自分で持つことを基本にしています。もう少し申し上げると、土地も建物も売ることができますが、家賃は戻ってきません。また、現金を持っていても、最近は機関投資家の方々にもっと配当を出せとか、自社株買いをしてほしいなどと色々な意見をいただきます。現金を持っていても償却できませんが、建物に変わると減価償却はできるわけですから。現金が土地と建物に勘定科目が変わっただけだという発想を持っています。財産は減らないという前提を置くならば、自前で持っていいと考えることができます。
昨今、保養所を持つと、非常につつかれる様になっていますが、そういう機関投資家の方々には、そんな保養所を売却してしまっている会社に自分の息子、娘を勤めさせたいかって聞くと、みんなニヤッと笑っておられますので、口で言うてることと内心はちょっと違うかなと思います。
――このことについて、中村副社長に意見を聞きたいのですが、中村さん如何ですか。
<三菱UFJモルガン・スタンレー証券 中村様>
お金を残したりしてないで、ちゃんと投資をされているという点では、私は賛成します。
――ありがとうございます。投資銀行の視点から見ても確かに筋が通っているということです。つまり、戦略があって、腰を据えて長期的な視点でやりたいことがあれば、減価償却になるような投資をしたいことっていっぱいあるわけですね。
いっぱいあります。
――人件費についても自前主義で、人件費がバッファーになりがちな業界の中で、派遣社員を使わないとお聞きしています。保養所の料理をする方も全部正社員と伺いましたが、どういうお考えなのですか。
派遣社員を雇わない理由ですが、会社は社員が安心して、安定して働ける職場を提供し給料を払う義務があると考えております。雇うなら必ず正社員で雇い、結婚できる給料を払う、所帯が持てる給料を払うのが会社の使命だと思っています。料理人につきましては、一番の安上がりはケータリングの会社から取ることですが、私の方針としては、料理は、うまいものを食わしてやろうと思う人に包丁を握らせるという方針でやっています。高くつくか安くつくかは考えず、人の気持ちにどう答えていくかが基本方針です。
――素晴らしいですね。今日は全部のお話を伺えないのですが、その人的資源のマネージメントのところでも他では絶対やってないような施策をどんどん取り組まれていて、ウェブサイトで見ていただけると面白いと思います。ほんとにどこから切ってもユニークな、最もつまらなさそうな業界にいる、最も面白い会社です。本当に今回は感銘いたしました。本日はどうもありがとうございました。

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第19回 ポーター賞 応募期間

2019年5月 7日(火)〜 6月 3日(月)
上記応募期間中に応募用紙をお送りください。
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