受賞企業・事業レポート

株式会社バンダイ

2005年度 第05回ポーター賞受賞 玩具製造業

「テレビ完全連動型キャラクター・マーチャンダイジング」というユニークなポジショニングを創造。あたり外れの大きいキャラクタービジネスにおいて、安定的に収益を実現。

業界背景・企業概況

玩具製造業界は、少子化と流通の交渉力増大の結果、市場規模縮小と利益率圧迫という二つの問題に直面している。その中にあって、キャラクター関連の事業は一つのキャラクターで100億円を超える売上がもたらされることがあり、大きな売上を得ることが可能だ。しかし、同時に、急激な売上の増加と減少に対応する能力、次々と「あたる」キャラクターを生み出す能力が必要である。その結果、安定した業績を実現することが非常に難しく、キャラクター関連の事業に展開した玩具製造業者の多くは、収益の大幅なぶれに悩まされ続けている。

バンダイが商品化を手がけるキャラクターには、代表的なものとして、ガンダムシリーズ、仮面ライダーシリーズ、ウルトラマンシリーズ、ゴレンジャーやパワーレンジャーの戦隊シリーズ、デジモン、ドラゴンボール、セーラームーン、たまごっちなどがある。

バンダイは2005年9月末にナムコと経営統合し、バンダイナムコホールディングの完全子会社となり、将来的にはバンダイとナムコの事業が統合・再編成される予定であると、バンダイナムコホールディングは発表している。第5回ポーター賞は、2004年度までのバンダイ・グループ(バンダイ株式会社と連結対象子会社)を審査の対象とした。

 

ユニークな価値提供

 バンダイはキャラクター商品の販売を主たる事業とし、この売上高が全体の73.6%を占める。キャラクター商品は、玩具、フィギュア、カプセル玩具、玩具菓子、ビデオゲーム、生活用品、衣料など、玩具を中心としながらも幅広い商品群によって販売されている。これらの市場におけるバンダイのシェアは高く、2004年のキャラクター模型市場の88%(一般の模型市場では46%)、自動販売機型カプセル玩具市場の65%、カードゲーム市場の35%、玩具菓子市場の36.4%、子供向けキャラクター衣料市場の65%を占めている。また、売上の半分は、シリーズ化したキャラクター、いわゆる「定番」キャラクターから得ている。安定した収益源があることによって、不確実性の高い新しいキャラクターへ積極的に投資することが可能になっている。
 同社のターゲット顧客は、子供、子供の親、20歳代から30歳代のコレクターである。同社は、キャラクターの持つ世界観を、様々な商品を通じて、より整合性の高い状態で顧客に提供している。これによって、子供たちの「いつでも大好きなキャラクターと一緒にいたい」という願いをかなえている。さらに、子供の親に対しては、子供と世界観を共有するという価値を提供している。ウルトラマン、仮面ライダー、ガンダムなどの番組を制作会社と共同でシリーズ化しているが、これらのシリーズは30年近い歴史を持っており、親が子供の頃に好きだったキャラクターを自分の子供と一緒に楽しむことができる。
 キャラクター商品には、キャラクターの世界観という付加価値がついているため、キャラクターが付与されていない一般の商品と比較して、より価格競争の影響を受けにくいという利点がある。

独自のバリューチェーン

キャラクター商品化権利の調達
キャラクターの権利元には、ビデオゲーム(パックマンなど)、玩具(たまごっちなど)、マンガ(ドラゴンボールなど)、テレビ番組(ウルトラマンシリーズなど)があるが、同社が得意としているのはテレビ番組である。
 テレビ番組のキャラクターの著作権者は多くの場合、番組制作会社である。バンダイは彼らと非常に強いパートナーシップで結ばれているが、数多いキャラクター商品を開発・販売している背景には、以下のような要因がある。まず、幅広い商品事業と玩具業界最大の卸(売上規模で2位企業の3倍以上)を傘下に持っていることによって、様々な商品を最適のタイミングで投入できる。実際に商品化を通じて多くのキャラクターを育成してきた実績がある。また、同社は、商品化しやすいキャラクターやストーリーの開発について、番組制作会社と協力することができる。商品化に成功すれば、番組制作会社にロイヤリティ収入が入ると同時に、キャラクターも強化される。さらに、同社は、社内でキャラクターを開発し番組化する能力を持っている(売上の25%が自社が著作権を持つキャラクターによる)。最後に、同社は、売上の一定金額を子供向け番組のスポンサー提供に投資することを方針としており、スポンサー企業が減少している同分野において、著作権者の貴重なパートナーとなっている。

キャラクター商品の開発
 「テレビ完全連動型キャラクター・マーチャンダイジング」とは、キャラクター、ストーリー、商品を同時に考えていく手法である。同社の商品設計者は、番組制作会社の番組企画段階から打ち合わせに参加し、キャラクターのデザインやアイテムのデザインについての検討を重ねる。これによって、キャラクターの創出と、よりキャラクターに忠実な玩具の商品化を、同期化することができる。
 まず、キャラクターに関する情報を早い段階から共有することによって、商品の開発を早く始めることができ、番組放送開始や新しいキャラクターの登場に合わせて商品を発売することができる。次に、キャラクターの企画段階から著作権者のひとつである番組制作会社と打ち合わせを重ねているので、キャラクターの世界観をきちんと反映した商品開発が可能である。その結果、キャラクター商品が本来のキャラクターに合わないというような著作権者からの指摘や、それに伴うキャラクター商品導入の遅延を避けることができる。
 キャラクターの著作権者は、同社の幅広い商品を通じてキャラクターが商品化されることによって、ロイヤリティ収入を得ることができる。つまり、著作権者とバンダイは、ウイン・ウインの関係にあり、マーチャンダイジングを成功させる為に協力し合う関係となっている。

キャラクター商品の販売促進
 同社は多くの子供向けテレビ番組をスポンサーし、その番組のキャラクター商品のコマーシャルを、視聴者がそのキャラクターの世界観の中にいる間、つまり、番組の合間に放映している。同社の商品の種類が多く、また、販売ルートも、玩具店、家電量販店、ゲームショップ、百貨店、アパレルショップなど、多様であることから、番組への活発なスポンサー提供とテレビコマーシャルの波及効果が有効に活かされている。また、商品や流通ルートの多様さは、キャラクターの露出を高め、それ自体が販売促進効果を持っている。
 同社は、グループ内に玩具卸最大手を持ち、これを経由して自社、他社の商品の動きを把握し、必要に応じてマーケティングの変更、企画の修正を行っている。同社は、100円程度の玩具菓子から1万円を超えるフィギュアまで、幅広い商品ラインを有しているため、最適なタイミングで最適な商品を選んで投入することができる。

サプライチェーン・マネジメント
 子供向けの番組は、新鮮さを維持するため、基本的に1年で終了するものが多い。そのような状況では、キャラクター商品の在庫管理が重要である。同社は、グループ内に玩具卸最大手を持ち、これを経由して小売情報を継続的に得、迅速に生産出荷調整を行なったり、販売促進策を講じている。

人材育成
 メディア部でキャラクター発掘から育成、事業部での商品化を担当するプロデューサーである「キャラクター・マネジャー」を育成している。新人からOJTを通じてメンターが積極的に教育、早い段階で一つのキャラクターを担当させ、経験を通じて能力を向上させる。メディア部は70名ほどの陣容であり、商品事業部の平均人数40名程度を大きく上回る。

活動間のフィット

 バンダイの活動は、互いを強め合うようにフィットしている。幅広い商品展開が番組スポンサーとテレビ広告の効率性を高め、一方で、番組スポンサーと幅広い商品事業がキャラクター商品化権の調達を容易にしている。また、キャラクターやストーリー開発時における番組制作会社との密接な調整は、商品化のタイミングと質を向上させるが、優れたマーチャンダイジングは、結果としてキャラクターや番組を強化することとなる。
 バンダイは商品事業部に大幅に権限を委譲しているが、同時に、活動の調整が上手く行われている。それは、垂直方向(キャラクター商品化権利の調達から、商品開発、商品の販売促進、商品のサプライチェーン管理まで)と、水平方向(玩具菓子から衣料などにいたる商品・商品事業部)の両方に対して行われている。それを担っているのが、「メディア部」である。メディア部は、新しいキャラクター・番組の立ち上げから、商品化権獲得、著作権者の立場にたった商品化の推進、グループ内商品事業部の代理としての著作権者との交渉など、キャラクター商品化に関わる一切の窓口となる。また、キャラクター単位で事業の収益性を管理している。 
(「活動システム・マップ」を参照ください。)

戦略を可能にしたイノベーション

  • テレビ番組の企画とキャラクターの商品化を徹底して連動させた
  • 新しいチャネル開拓とそのためのプロダクト・フォーマットの開発
    • 20円が主流だった自販機チャネル(ガチャガチャ)に100円機を導入し、キャラクター玩具を展開
    • 既存の「おまけ付き菓子」市場に、キャラクター玩具の「おまけが主体」となる玩具付菓子として参入

戦略の一貫性

 バンダイのキャラクター・マーチャンダイジングという戦略は、後にバンダイに統合されることになったポピーが、1970年代に、仮面ライダーのベルトを、番組提供しつつ、本格的で世界観を壊さない電動玩具として販売したことに遡る。その後、1973年から始まったロボットアニメシリーズ(マジンガーZ、グレートマジンガーなど)、1975年に始まった戦隊シリーズ(ゴレンジャー)、70年代後半のウルトラマンやガンダムなどで、キャラクター・マーチャンダイジングの経験を蓄積してきた。
 10年ほど前より、番組提供・本格玩具の戦略から、企画の段階から番組制作会社と協力しキャラクター、ストーリー、商品を同時に考えていく「テレビ完全連動型」へと、戦略を深化させた。そのための組織と、プロデューサー人材を育成する仕組みを整備した。また、キャラクターと商品の収益管理を強化し、商品の広げすぎを避ける管理手法を確立した。

トレードオフ

  • 同社のメインターゲットは子供であるので、子供の夢やキャラクターの世界を壊す危険性のある事業を手がけたり、そのような分野にキャラクターを展開することはしない。たとえば、ギャンブル関連(パチスロ遊技機では、他社からキャラクターを導入した商品が盛んに導入されている)や、アダルト関連など。
  • キャラクター・マーチャンダイジングは、キャラクターがあたるかどうか不確実性の高い事業である。したがって、短期の業績に関係なく継続的な投資が必要である。たとえば、番組提供費がこれにあたる。逆に、不確実性の高いものへの投資を削減しての収益目標実現という経営管理手法はとらない。

収益性

 投下資本利益率、営業利益率ともに玩具製造業界の平均(中央値)を上回っている。

活動システム・マップ

受賞企業・事業部 PDF

第24回 ポーター賞 応募期間

2024年5月 7日(火)〜 6月 3日(月)
上記応募期間中に応募用紙をお送りください。
PAGETOP