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受賞企業・事業部レポート

マルホ 株式会社

2007年度 第07回ポーター賞受賞 医療品製造販売業
皮膚科・外用剤に特化、スペシャリティ・ファーマという戦略的ポジショニングを実現

業界背景

img_2007_02_p.jpg医療用医薬品業界では、新薬創出に10年から20年の歳月と約500億円の研究開発費が必要とされ、また、最初の候補物質の中から新薬にいたる確率は1万分の1と言われるほど不確実性が高い。そのため、大手医薬品メーカーの多くは、生活習慣病、ガン、アルツハイマー病等中枢神経系の疾病、免疫・アレルギーなど大きなリターンが見込まれる領域に研究テーマを絞りこみ、売上1,000億円規模の「ブロックバスター」を生み出すことを目標としている。

これら大手医薬品メーカーにとって、マルホが特化している皮膚科領域の市場規模は小さすぎる。皮膚科領域の国内市場は3,000億円であり、全医薬品市場7兆円の4%でしかない。これは、循環器薬市場の1兆3,000億円、代謝性医薬品の6,300億円、中枢神経用薬の6,300億円と比較すると非常に小さい。

外用剤市場もまた、小さな市場規模しか持たない。医薬品の中心となる剤型は内服と注射であり、外用剤の市場は、3,600億円(うち医療用は2,400億円)でしかなかった。(市場は2004年)

概要

マルホは、皮膚科に特化した日本で唯一の医薬品メーカーである。また、マルホは、外用剤(塗り薬、貼り薬)に特化した唯一の日本企業でもある。ある領域に特化した医薬品メーカーという戦略的ポジショニングは、「スペシャリティ・ファーマ」として、その概念が厚生労働省より提唱されているが、実際に成功した例はあまり多くない。マルホの2006年度の売上は460億円で、国内46位、業界リーダーである武田薬品の1兆3,000億円の売上に対しては3.5%でしかない。しかし、皮膚科領域に注目すると、マルホは国内最大の売上を持ち、世界で12位に位置する。

ユニークな価値提供

マルホは、皮膚科領域と、皮膚科における中心的な剤型である外用剤に特化している。皮膚科領域におけるマルホの製品ラインは、最も幅広い。

マルホの医薬品は、吸収が良く効果的で、塗り心地が良く、副作用も少ないと高い評価を得ている。皮膚科の疾病は命にかかわることは少ないが、症状が目に見えやすいため、患者は薬の効果に高い期待を持っている。概して患者の顧客満足度は低いことが多く、性能(有効性・安全性・使用感等)による差別化が有効である。

マルホはまた、製品情報と医療情報を皮膚科医に提供している。「皮膚科領域における質の高い情報提供」について、他社に大きな差をつけて皮膚科医に最も信頼されていることが、第三者機関の調査で示されている。

マルホの販売力と製品化技術は、2001年のオキサロール軟膏投入時に明確に示された。2001年にマルホは、中外製薬からオキサロール軟膏を独占的に販売できるライセンス供与を受けたが、中外製薬が当初予想していた売上見込みを大きく上回る32億円の売上を達成し、類似の薬を4年先に売り始め市場を占有していた競合から素早くトップシェアを奪った。また、患者ニーズを意識した追加の製品化(ローション剤)を行い、さらに売上を伸ばした。

また、マルホは、新しい治療法を提案する。マルホは乾燥性皮膚疾患の増加に注目、保湿が医療行為として行われるべきであると提案して、同社のヒルドイドに「皮脂欠乏症」の効能を追加することに成功した。皮膚科医による関連論文は1990年の効能追加時の10報から、2006年には500報に増加し、学会における関連報告も増加したこと、ヒルドイドを始めとする保湿製品の売上が増加したことが示すように、アトピー性皮膚炎の治療ガイドラインに「スキンケア(異常な皮膚機能の補正)」が新たな治療法として定着した。

独自のバリューチェーン

R&D
マルホは、当面は自ら研究開発活動の上流(シーズ探索、フェーズ?、?)を手がけないで、他社と共同開発をするか、他社が開発した候補物質のライセンス供与を受け製品化する。2001年のオキサロール軟膏の成功後、社外からのライセンス供与のオファーは2倍に増加し、そのうち15のオファーをライセンス取得した。オファー選択の一つの基準は、薬剤満足度が低く患者の増加が見込まれる6つの戦略的疾病領域であるかどうかだ。自ら研究開発の上流を手がけなくても、マルホの新製品パイプラインは、皮膚科領域では最も充実している。

また、自ら上流を手がけないことによって、マルホは製品開発期間を短縮している。業界平均の新薬開発期間15年に対して、マルホの製品開発は5年程度である。これによって、マルホは市場ニーズにより迅速に対応することができる。また、マルホは、研究開発のリスクを低減することに成功している。上流から手がける企業にとっては最初の候補物質のうち1万に一つしか商品化されないと言われるが、マルホが製品ラインナップに向けライセンス導入した15候補のうち商品化に至らなかったのは1つのみである。

マルホの研究開発が注力しているのは、製剤技術(吸収を高める、刺激性を抑える、使用感を良くする等)である。製剤技術、評価技術に特化した「創剤技術研究所」を2006年に設立した。

また、皮膚科特化による経験の蓄積から、処方設計(主薬と基剤の膨大な組み合わせの中から、開発目的に合う最適な組み合わせや配合比率を短期間で選択する技術)のスピードが早い。

マルホは、効能追加、剤型追加、他剤型を外用剤に変更するなどの方法で、既存の薬を再活性化(育薬)することをもう一つの研究開発の柱としている。たとえば、現在マルホで最大の売上をもたらしているヒルドイドは、1954年に販売開始された薬で、売上高で下位に低迷していた。乾燥性皮膚疾患のための保湿という「皮脂欠乏症」の効能を追加したことによって、また、「ヒルドイドソフト」「ヒルドイドローション」など異なる剤型の追加によって、ヒルドイドの売上は2005年には220億円に増加した。

製造
業界では製造の外部委託が進んでいるが、マルホは外用剤の製造設備を充実させ、滋賀県にある自社工場で製造を行う。2トン級の乳化機を複数持つ国内唯一の医薬品メーカーであり、外用剤の製造能力は、国内生産量約6,000トンの20%に相当する。2006年、マルホの外用剤生産量は国内最大であった。

マーティング・セールス
マルホの営業員(MR)は300人であり、大手製薬メーカーの1,500人から2,000人と比較して非常に小規模である。しかし、活動を皮膚科領域に特化することによって、国内7,800人の皮膚科医のほぼ100%を把握し、1ヶ月のうちにその85%を訪問し、製品情報や医療情報の提供、課題発掘をすることができる。皮膚科医は勤務医に比べて開業医の比率が高く、訪問先が分散するため、他の領域に比較して訪問は容易ではない。

マルホはMRによる訪問に加えて、セミナー開催や学会活動の支援、あるいは小規模ネットワーク形成の支援などを行っている。

人事管理
マルホは製造部門を含めた従業員一人当たり年間30万円を教育投資にあてている。MRとなる新入社員は4ヶ月の合宿研修で、医学・薬学などの専門知識、行動・精神面を含めた営業スキルを習得するが、講師となる社員もまた、完全に現業を離れ4ヶ月間新人と寝食を共にする。また、マルホは欧米のビジネススクールへの社費留学を積極的に行っており、876名の社員のうち16名が既にMBAを取得している。

全般管理
マルホは非上場企業であり、今後ともこれを維持する方針である。

活動間のフィット

皮膚科領域・外用剤特化、研究開発の上流を行わず外用最適化に特化する、全国の皮膚科医師をほぼ100%カバーする営業活動という三つの概念を中心に、マルホの活動は選択され、調整されている。皮膚科領域・外用剤に特化しているので、MRの人数が大手よりはるかに少なくても全国に分散した皮膚科医師を訪問しニーズ把握や情報提供をすることができ、医師からの信頼を得ることができる。また、外用剤として最適化する技術と強力な販売網があるので、他の企業からライセンス供与のオファーが集まる。医師からの信頼があり、ライセンスオファーも集まるので、潜在的ニーズに基づいた市場創造もやりやすくなる。(「活動システム・マップ」を参照ください。)

戦略を可能にしたイノベーション

  • ドライスキンという新しい病態の増加に注目し、乾燥性皮膚疾患の保湿を医療行為と認められるようオピニオンドクターらと働きかけ、乾燥肌の保湿薬市場を創造した。

戦略の一貫性

マルホの皮膚科と外用剤特化の原点は1990年のヒルドイドへの皮脂欠乏症という効能追加であり、これを契機に、皮膚科領域のオピニオンドクターとの関係構築が進んだが、より具体的に現在の戦略が形成されていったのは、1997年に始まった社内横断プロジェクトであった。このプロジェクトを通じてマルホは、皮膚科領域の医療現場に潜在しているニーズやノウハウを掘り起こし、皮膚科・外用剤特化戦略の妥当性を検討した。当時マルホの事業領域の中心は整形外科であり、整形外科のいくつかの領域でベストセラーの薬を持ち、全社売上の50%は整形外科から得ていた。しかし、マルホは、整形外科領域は競争が激しく自社製品パイプラインもなかった上、内服薬、注射薬、塗り薬など剤型も様々であることから、領域のリーダーになるのは難しいと判断した。2001年8月には研究開発部門が研究開発の上流からの撤退と、外用剤での製品化(外用最適化)に重点を置くことを決め、2002年1月、全社員の90%、623人が参加したハワイでの長期ビジョン発表会で皮膚科特化を宣言した。それ以後、MRの皮膚科領域への特化、2002年のオキサロール軟膏のライセンス導入とそれに続く一連のライセンス導入、2006年の「創剤技術研究所」など、皮膚科・外用剤特化と外用最適化を中心とする戦略を強化する施策を続けている。

トレードオフ

  • 戦略領域以外にはMR活動の軸をおかない
  • 当面は自ら単独で研究開発プロセスの上流部分(シーズ探索、フェーズ?、フェーズ?)を行わない
  • 外用剤以外の剤型の研究開発を行わない
  • 外用剤以外の剤型の薬を社内で製造しない(既存の設備で製造できる内服剤で少数の例外がある)
  • 受託製造をしない

収益性

投下資本利益率、営業利益率ともに医薬品業界の平均(中央値)を大きく上回っており、差は拡大傾向にある。

投下資本利益率(ROIC)   (単位:%P=パーセンテージ・ポイント)
5年間平均 単年度 業界平均との差異
業界平均との差異 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年
47.9%P 44.1%P 45.1%P 35.0%P 50.2%P 60.8%P
投下資本利益率=営業利益/平均投下資本

営業利益率(ROS)   (単位:%P=パーセンテージ・ポイント)
5年間平均 単年度 業界平均との差異
業界平均との差異 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年
14.6%P 11.8%P 11.3%P 5.5%P 12.6%P 26.4%P
営業利益率=営業利益/売上高

活動システム・マップ

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