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受賞企業・事業部レポート

味の素ファインテクノ株式会社 電子材料事業部

2012年度 第12回ポーター賞受賞 電子材料製造業
強みに特化し、ビジネスパートナーと協業体制を構築することで、世界標準を維持

業界背景

img_2012_01_p.jpgパソコンの処理速度を決めるのは、CPU(中央演算処理装置)だが、ICを載せるパッケージ基板はその重要部品の一つである。パッケージ基板は、その中に数層にわたって銅の微細配線が形成されているが、層の間で電気が通ってしまうのを防ぐ壁の役割を果たすのが、層間絶縁材料である。層間絶縁材料は同時に、層の表面に銅の配線を描くためのキャンバスの役割を果たす。表面が完全な平らに近いほど、微細な配線が可能になる。また、その表面特性によって、様々な配線方法を可能にする。

半導体向け絶縁材料を提供している企業は、その規模は様々である。多角化した大規模化学メーカー、中規模化学専業企業、味の素ファインテクノのような領域を特化した小規模な企業の大きく3つに分類される。

主な基板メーカーには、イビデン、新光電気、三星電気(韓国)、南亜(台湾)などがあり、彼らは、インテルやAMDなどのCPUメーカーにパッケージ基板を納入する。

概要

味の素ファインテクノ株式会社電子材料事業部(以下、AFT)は、種々の電子材料の中でも半導体パッケージ基板用の層間絶縁材料、特にフィルム状材料に特化している。半導体パッケージ基板はパソコン用中央演算処理装置(CPU)などの主要部品である。パソコン用CPUは、処理速度の改善要求が最も厳しい分野である。

味の素ファインテクノの直接の顧客は、基板メーカーであるが、供給業者の選択を行うのは、CPUメーカーである。競争は激しく、最大手CPUメーカーが2年毎にモデルチェンジする度に、納入業者は入れ替わってきた。1993年、95年、97年とモデルチェンジごとに別々のメーカーの材料が採用されてきた。味の素ファインテクノは、最初に選ばれた1999年から7モデル連続で最大手CPUメーカーに選ばれ続けており、高機能CPU向けには世界中のCPUメーカーに供給し、100%のシェアを有している。

AFTは性能に最も貢献するワニス(絶縁材料のベースとなる樹脂組成物)に特化し、この分野における自社技術への投資を行ない、同時に、日本の電子材料メーカーや基板メーカーによるクラスターとの協業関係を構築することによって、グローバルな顧客のニーズを先取り理解し、対応している。

ユニークな価値提供

AFTは、パソコンに使用されるCPU向けパッケージ電子回路基盤のための層間絶縁フィルムに特化している。商品名は、Ajinomoto Build-up Film (以下、ABF)。ABFは、1)CPUの処理速度を上げつつ、2)製造コストを低減し、さらに製造品質を安定させる。

1. 電子回路の処理速度を上げるためには、銅配線幅の縮小によって回路の集積を高めることが必要だ。それには、平滑性と銅との密着性という表面特性を持つ層間絶縁フィルムが必要である。ABFは電子回路の印刷方法を変え、それによって集積度を上げると同時に、製造コストを低減した。ABF以前の印刷方法は、基板全体に銅を塗り、不必要な部分を除くものであった(サブトラクティヴ法)。ABFによって、必要な部分だけに銅で回路を描くこと(セミアディティヴ法)が可能になった。これによって、従来の方法では限界と言われていた75ミクロンよりも狭い線幅を可能にし、また、同時に、製造コストも低減した。

2. また、ABFは、フィルム形状で提供されるので、品質の安定と製造コストの低減が同時に可能になった。ABF以前の絶縁素材はインク形式で提供されていたため、均一な表面を形成するのが難しく、また、ほこりなどの異物が付着しやすかった。また、その過程において排出される副産物には、環境に影響を与えないために特別な処理を必要とするものが含まれていたし、一度に一つの面しか処理できないという製造効率上の問題もあった。現在は、シート状の絶縁素材を、より集積度の低い基板向けに提供する企業もあるが、その形状ゆえに連続して処理することができない。

AFTのターゲット顧客は、パソコン用高機能CPUメーカーである。最大手メーカーでの継続採用を含め現在世界中ですべてのパソコン用CPUに採用されているほか、タブレットなどパソコン以外で使用されるCPUについても採用例が増えている。

AFTの相対価格については、競合が存在せず、比較をすることができない。フィルム型層間絶縁素材についてはAFTが唯一の供給業者である。

独自のバリューチェーン

AFTのバリューチェーンのユニークな点は、絶縁素材の性能を決める樹脂組成物であるワニスに研究開発と製造を特化していることにある。ワニスの原料となる樹脂などの化学製品の開発、またワニスを製品とするためのフィルム化など、それ以外の活動については、基板メーカーを始めとする半導体サプライヤーのクラスター各社と役割分担すると同時に、彼らのニーズ把握のため、密接に情報共有している。

研究開発
基礎研究は、味の素株式会社のバイオ・ファイン研究所で行われる。同研究所には、有機化学、高分子化合物などの技術が蓄積されており、応用分野を超えて研究者が異動することで、相互交流が行われている。

AFTは、AFTへの素材供給業者、フィルムメーカー、CPUメーカー、基板メーカー、基板メーカーが基板を作成する際の各ステップに関連するメーカー(前処理、積層、レーザーによる穴あけ、銅配線のめっきなどのステップに、材料や装置を提供しているメーカー)などと情報交換することによって、次世代半導体に関するニーズを把握する。たとえば、絶縁素材をフィルム形状にするアイデアは、基板メーカーとのやり取りから生まれたが、フィルム製造の技術を持っていなかったAFTは、フィルムメーカーと密接に協力することによって、ABFを開発した。

製造
AFTは、ワニスの製造に特化している。AFTから出荷されたワニスは、フィルムメーカーによってフィルム形状のABFに製造される。

AFTは、各ユーザーの製品ごとにカスタマイズするので、受注生産を行なっている。

販売
販売部隊は、受注活動に特化しており、人数は極めて少ない。10名ほどで世界の受注を扱っている。

アウトバウンド・ロジスティクス
ABFは受注生産なので大きな在庫を持つことはないが、製造されたフィルムは低温で保管され、輸送会社によって基板メーカーに低温輸送される。

アフターセールス・サービス
技術サービスが、半導体メーカーや基盤メーカーなどと密接にコミュニケーションし、現行製品の問題を把握、解決し、その過程で、次世代製品へのニーズも把握する。

全般管理
味の素が絶縁素材の開発プロジェクトを設置したのは、1990年代初期であった。それから、1999年にABFが採用されるまでの10年ほどの間、研究開発投資を続けてきた。味の素には、成長性と収益性が期待でき、さらに固有技術を活かすことができる分野を同定し、継続的投資によって技術リーダーシップを実現し差別化するという企業風土がある。

活動間のフィット

味の素ファインテクノ電子材料事業部の活動は、固有技術が活かせる領域(ワニス)への特化と、戦略顧客へのフォーカス、顧客ニーズへの密着(半導体サプライヤーのクラスターとの情報共有)を中心に、選択され、組み合わせられている。(「活動システム・マップ」を参照ください。)

戦略を可能にしたイノベーション

  • 線幅15ミクロンを可能にした技術イノベーション
  • 絶縁素材をフィルム状に形成することを可能にした技術イノベーション

戦略の一貫性

味の素ファインテクノの戦略のコアは、技術リーダーシップによる差別化、独自性が発揮できる領域への特化、顧客ニーズを他社に先駆けて知ることである。これらは、事業化当初から一貫している。

味の素では、1970年代にアミノ酸に関する知識やその製造技術を応用して、ケミカル分野、特に絶縁性を持つエポキシ樹脂分野や表面改質技術に進出し、研究開発を続けてきた。1990年代初頭に、世界中が欲しがる機能であり、高機能が求められ難易度は高いがリターンも大きい「パソコン用半導体パッケージ基板の絶縁材料」をエポキシ樹脂の市場に選択した。

パソコン用半導体関連の市場においては、大手CPUメーカーが素材や部品採用の意思決定者であることは既に明らかであったので、最終意思決定者が少数に絞られることは、電子素材メーカーとして後発であった味の素にとっては好都合であった。

しかしながら、そのニーズを先取りするためには、大手CPUメーカーはもちろんのこと、それ以外の様々なプレーヤーのニーズを把握しなければならなかった。味の素では、事業構想の段階から業界プレーヤーと様々な情報交換を行い、顧客ニーズの先取りに努めてきた。現在では、非常にきめ細かく様々な業界プレーヤーとの間の情報交換のパイプができている。

トレードオフ

  • AFTは、絶縁素材以外の電子材料を手掛けない。
  • ワニスに特化し、川上(化学材料)にも川下(フィルム形成)にも事業領域を広げない。
  • フィルム形状に特化し、インクやシート形状に参入しない。
  • 高い性能を必要としないCPUをターゲットしない。ハイエンドのCPUに特化する。(タブレットPCやスマートフォンは、それほど高い性能を持たないCPUを使用し、そこではシート形状の絶縁素材が使われていた。しかしながら、これらの領域においても、より速い処理速度が求められるようになり、ABFが採用されるようになっている。AFTは、この例のように、ローエンドからハイエンドへの移動が引き続き起こると考えており、したがって、ハイエンドに特化し、市場が拡大するのを待つ方針である。)

収益性

投下資本利益率、営業利益率ともに業界平均を大きく上回っている。

投下資本利益率(ROIC)   (単位:%P=パーセンテージ・ポイント)
5年間平均 単年度 業界平均との差異
業界平均との差異 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
34.3%P 52.4%P 30.2%P 31.3%P 32.1%P 24.8%P
Inter quartile range (IQR) = 5.1%P
投下資本利益率=営業利益/平均投下資本

営業利益率(ROS)   (単位:%P=パーセンテージ・ポイント)
5年間平均 単年度 業界平均との差異
業界平均との差異 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
35.2%P 37.1%P 34.6%P 33.7%P 33.9%P 30.3%P
IQR = 4.0%P
営業利益率=営業利益/売上高

活動システム・マップ

受賞企業・事業部 PDF

第17回 ポーター賞 応募期間

2017年5月 8日(月)〜 6月 5日(月)
上記応募期間中に応募用紙をお送りください。
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