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受賞企業・事業部レポート

前田工繊株式会社 インフラ事業

2016年度 第16回ポーター賞受賞 土木資材製造販売業

鉄とコンクリが中心であった土木資材に、繊維を広めたパイオニア。幅広い品ぞろえと高い技術力で提案型営業を行う。全国に根付いた営業拠点からアフターサービスを提供。

maeda_2.jpg前田工繊は土木資材メーカー。たとえば、道路が崩壊した場合に仮設道路を構築するための耐候性大型土のう、リサイクル繊維を使用した袋材、崩壊斜面の復旧に使われる軽量・強靭な面状補強材、落石災害防止に使われる、高伸度、高強度のポリエステル繊維による立体構造のネット、リサイクル樹脂を使用したベンチなどの景観資材が主な製品。

土木資材業界について:土木資材業界の産業バリューチェーンはおおよそ以下のようになっている。土木資材メーカーは、施工業者や建設コンサルティング企業に技術提案を行い、プロジェクトに採用されると、土木資材を販売する(コモディティ化している資材については技術提案の必要はない)。土木資材メーカーと施工業者や建設コンサルティング企業の間に、代理店が介在していることも多い。施工業者や建設コンサルティング企業の先には、公共工事などを発注する国や地方自治体、あるいは民間企業が工事施主として存在する。施工は施工業者が行うが、人材の高齢化ならびに人材不足が問題となっている。

公共工事に使用される製品や工法の多くは、その性能などに基づき、何らかの認定が必要とされる場合が多い。さらに、公共工事に製品や工法が採用されるためには、工事施主、建設コンサルティング企業、施工業者のすべてに提案し、すべてから承認を得ることが必要なことが多く、代理店に提案機能を委託する資材メーカーは多い。

2016年度の公共事業に対する国家予算は、国家予算全96兆7218億円の6.2%にあたる5兆9737億円であったが、1997年度の9兆7447億円をピークに減少傾向にある。その内訳も、道路の新設から、地盤の補強、橋など設備の耐震化、港湾整備など、維持補修分野へと変化してきた。

多種多様な災害が発生する日本における公共事業に求められる技術基準は国際的にも高く、新興国における洪水対策など、日本企業による技術協力や事業展開が期待される。

ユニークな価値提供

前田工繊は、同社の持つ繊維加工技術と樹脂成型技術を、耐熱性、引っ張り強度の強いアラミド繊維や炭素繊維と組み合わせることで、軽く、強く、加工性の良い土木資材を生み出し、また、この素材を使ってインフラ構築、維持補修、防災減災、環境保護などの土木工事の工法を開発し、施工業者、建設コンサルティング会社、代理店、公共工事の施主たる国や地方自治体などに提案する。排水、地盤強化、護岸補強、流出油拡散防止素材、景観資材などの提供と工法提案を、特に強みとしている。提案は、現場と素材、工法を熟知した全国のセールスエンジニアが自ら構造計算まで行ない、現場に最適な資材と工法を組み立てる。

前田工繊は、自社生産する独自性の高い商品に、他社に外注する汎用的な商品を加え、最も幅広い商品を揃えている。これによって、提案そのものをパッケージ化することができる。たとえば、新設道路工事の提案時には、道路の設計だけでなく、斜面緑化や軟弱地盤対策なども同時に提案する。顧客にとっては、細切れの提案を自ら統合するよりも、高い信頼性が期待でき、付加価値を享受できる。

前田工繊が手掛けた工事の多くは、施工時にセールスエンジニアが施工指導をしているうえ、その後の状況も含め、現地に根付いたセールスエンジニアによって長期間にわたってカルテが維持され、10年前、20年前の工事であっても状態がモニタリングされ、必要に応じてアフターサービスが提供される。自社の受注した工事以外の施工例も含めて地域の土木工事の実績を把握しているセールスエンジニアによるアフターサービスは、地域の土木工事を管理する地方自治体の担当者にとって、補強の必要性の診断や、災害時のダメージ診断、修復策立案や実行の一助となっている。

また、各地に設置した物流ハブに適切な水準で幅広い在庫を持つことによって、緊急災害時に迅速な対応を行なうことが可能になっている。

これらの差別化によって、前田工繊は他の資材メーカーにない高付加価値のサービス提供が可能となっている。

独自のバリューチェーン

前田工繊のバリューチェーンの最大の特徴は、販売活動にある。多くの競合が、提案段階、提案採用後から施工まで、施工後、の3段階それぞれに異なる担当者を配置し、代理店に任せるのに対して、全行程、全ステークホルダーを把握し、さらに、エンジニアとして製品と工法に精通し自ら構造計算まで手掛けられる技術的幅と深さを持ち、地域に密着して地域の物件の歴史を把握しているのは前田工繊の特徴。

研究開発
前田工繊が所有するコア技術は、ジオシンセティクス技術(土木分野向け繊維技術)、繊維加工技術、不織布製造技術、樹脂形成技術、新素材複合技術、土木技術、計測解析技術である。これら基礎技術は、社内で研究が行われる他、大学との共同研究も積極的におこなわれている。また、海外の学会での論文発表や参加を通じて、海外企業や公共団体と、特に防災分野で、共同開発を開始している。

製品開発は、補強土排水、構造物メンテナンス、景観マテリアル、水環境保全、斜面防災、森林保全の6開発営業推進部が担当し、6推進部によって土木資材のあらゆる分野をカバーしている。6推進部はそれぞれ、担当分野の製品開発を行うが、推進部間で情報共有が行われており、新たな製品の開発や既存製品の別分野への応用などが行われている。開発メンバーは、学会で情報収集する他、営業の月次報告会に毎月出席し、ここで得た情報をもとに営業志向の開発を進める。セールスエンジニアへの製品情報の共有の機会としては、2週間に一度、開発、営業の全支店が参加する、新製品や改良品についての製品説明会が、各推進部主催で行われ、現場との適合性や他の製品との親和性などについての理解を深める。

新たな機能を持った製品は、建設技術審査証明など、公的機関の認定を受ける必要があることが多い。前田工繊は、製品開発を行い、実地試験を繰り返し、その結果をもとに必要とされる標準規格の立案などを行い、新技術の普及を促進している。たとえば、耐候性大型土のうは、従来型製品の耐久性不足や紫外線劣化による破損などの問題に対して、紫外線を遮蔽する添加剤を使用することで耐候性を大幅に改善したものであるが、本製品の発売開始にあたっても、公的機関による認定が必要であった。

製造
自社生産にこだわらない。国内外問わず、品目別の工場マップを作成しており、生産適地を選択。

販売
セールスエンジニアが、提案から施工指導、アフターサービスまで一貫して担当する。提案は、施主である官公庁等と建設コンサルタントの双方に対し、構造計算まで行った完成度の高い提案を行う。建設コンサルタントが提案を採用した後は、施工業者に対し、営業を行ない、資材を納入し、施工指導を行ない、カルテ維持など施工後のフォローも担当する。セールスエンジニアは、各県をカバーしており、ほぼ異動することなく、長年にわたる地域の工事の実績を把握している。

出荷物流
災害復旧への迅速な対応のため、全国各地の物流企業と提携し、全国に物流のハブ拠点を有する。これまでの経験から災害時に必須となる製品を予測し、備蓄している。

施工後のサービス
補強土分野においては、施工後、現場ごとにカルテを作成し、重要度に応じて、施工現場のチェックを行う。山間部で地図に掲載されていない現場については、GPSを使ってカルテに緯度・経度を記録し、営業担当者が変わってもフォローが可能な体制を構築している。主要現場については、光ファイバーを内蔵することで地盤の歪みなどのデータを定期的に収集し、施工現場の健全性を把握している。継続的に現場を確認することで、現場の変化を早く把握し対応することが可能になる。予防的補強が行われれば、国民の安全・安心につながるだけでなく、結果的には公共事業のコスト削減にもなる。

人的資源管理
幅広く深い製品と工法への知識を持ち、きめ細やかな提案ができるセールスエンジニアを育成するため、前田工繊は、営業担当者に入社1年目から道路・河川・港湾など、多岐ににわたる施工現場を任せ、その後も多くの施工現場を担当させることで、現場にあった製品や工法の提案をする能力を育成する。また、ソリューション提案の社内コンペや、成功したソリューション提案事例の勉強会なども、育成に貢献している。素材や製品に関する知識強化のため、営業担当者に土木技術関係の学会誌への掲載を目標に論文の執筆を促している。また、上司の指導の下、技術士、建築士、一級土木施工管理技士などの資格取得を奨励している。

全般管理
「人と人の良いつながりがすべての基本であり目標です。」を基本理念とし、顧客志向を徹底している。また、前田工繊の製品は国のインフラに組み込まれることが多いため、「(自らの製品が)国土を守る」という意識の下、施工後のフォローにも注力している。「前田工繊は混ぜる会社です」という企業メッセージは、社長によって頻繁に強調され、技術や製品領域間の情報共有、被買収企業の買収後経営統合などに活かされている。

買収後経営統合(PMI)
前田工繊は、インフラ事業分野において、2000年以降で7社を事業譲受もしくは買収するなど、M&Aによる技術領域の拡大に積極的に取り組んでいるが、開発営業本部や、グループ経営企画室内に技術戦略を担う機能があり、グループ内にある技術の整理、社内での技術開発の方向性の決定、M&Aによって獲得すべき技術領域と候補企業の選定などを行っている。

買収後は、企業理念である「人と人の良いつながりがすべての基本であり目標です。」の下、前田工繊の経営陣が頻繁に訪問し、コミュニケーションをとることによって、被買収企業の従業員の動揺を鎮め、人材の流出を防いでいる。相互に出向も行われ、互いの事業に対する理解を深める。

買収後すぐに、前田工繊の営業担当者が買収先企業の技術と製品を理解するための勉強会が行われ、被買収企業の技術と製品は前田工繊の営業網に迅速に組み込まれる。被買収企業とのシナジーが具現化した後で、前田工繊本体に吸収する場合もある。

活動間のフィット

前田工繊インフラ事業には、2つのコアとなる活動がある。「幅広い技術の集積と組み合わせ」、それによって可能になる「トータルパッケージでの提案」が一つのコアとなって、高付加価値を生んでいる。さらに、施工後の「継続的な顧客フォローと案件管理」が長期的な信頼性に貢献するもう一つのコアとなり、提案の競争力に貢献している。これらの活動は、技術戦略を含めた戦略立案を担う開発営業本部やグループ経営企画室、研究開発を担当する6つの開発営業推進部、提案から施工指導、アフターサービスまで担当する営業という組織によって可能になっている。(本セクション最後に掲載した「株式会社前田工繊インフラ事業の活動システム・マップ」を参照ください。)

戦略を可能にしたイノベーション

  • 土木資材に繊維を応用。
  • 重要施工現場のカルテと地域に根差した営業体制。
  • 継続的に地盤の変化が測定できる光ファイバー入り補強材。

トレードオフ

  • 量的拡大を最優先の目標としない。利益額は追わず、利益率を重視する。
  • 付加価値の高い製品とソリューション力を評してくれる企業顧客す。
  • 価格競争をしない。
  • 自前の技術開発にこだわらない。 M&A、大学や他社との提携などを駆使する。
  • 建設コンサルティング会社への提案、施工業者への営業、施工後のフォローを分担させない。一人のセールスエンジニアが担当することで、製品、工法、現場への理解とオーナーシップが深まる。
  • セールスエンジニアをあまり異動させない。
  • 現場の問題解決ができる製品を納入するため、施工後のフォローのために徹底的に手間をかける。
  • M&Aに伴うリスクを避けない。リスクがないところにはイノベーションはない。リスク要因を自社の力でいかに解決するかに注力する。
  • 買収先企業に前田工繊のやり方を無理に押し付けない。経営理念共有、基礎的なインフラの共有、役員の派遣以上の共通化を無理して行わない。買収先企業の良さを引き出すことに注力する。
  • プロパー人材にこだわらない。 課題解決に最適な人材であれば、外部から積極積に採用し活用する。

戦略の一貫性

前田工繊の戦略のコアは、独自技術による技術リーダーシップと提案力にある。技術リーダーシップと提案力は、M&Aなどを通じて製品範囲を広げ、組み合わせる能力を高めることによってさらに強化されてきた。もう一つのコアは、長期的なサービスへのコミットメントであり、主要工事のカルテ作成、その後を見守る地域に根差したセールスエンジニアの体制がそれを支えてきた。

前田工繊の前身である前田機業場は1918年の創業で、前田工繊は2018年に創業100周年を迎える。前田工繊の繊維を軸とした土木資材の事業は、1972年に、前田征利社長が、道路工事向け排水材を繊維を使って開発したことに始まる。1970年代の高度成長期、公共事業による道路工事が盛んにおこなわれ、排水材の事業は大きく成長し、前田工繊はジオシンセティクスのパイオニアとしての地位を確立した。

1980年代には、剛性の高いアラミド繊維を使用した製品の自社生産に成功し、衝撃性に優れ、低伸度の盛土補強材を製品化した。これが、道路やダム工事内で多く使用される垂直壁や急勾配盛土に使用され、排水材に次ぐ第二の事業となった。

1990年代に入ると、高度成長期に建設されたコンクリート構造物の老朽化問題に対応して、橋脚や建物の柱に巻き付けて耐震補強や剥落防止を行うアラミド繊維・炭素繊維のシートを製品化した。これによって、公共事業の維持補修分野への参入を果たした。

2000年以降は異常気象による災害が多発し、構造物の長寿命化、安全性の強化が求められた。前田工繊は新製品開発に加え、既存品の改良を進め、新たな技術基準を満たす製品を投入した。2000年半ばから、一県一担当制とし、主要現場のカルテ作成などのきめ細かい対応が始まった。道路新設工事の減少によりこれまでの主要事業であった道路向け盛土補強材の需要が減少する中、道路以外の土木事業への多角化、海外への進出の必要性が生じた。そしてM&Aを通じた事業領域の拡大を推進し、2000年以降で7社を事業譲受もしくは買収することによって、海洋(汚濁水、流出油などの拡散防止材料)、環境資材(プラスチック擬木など)、森林保全(植生製品、間伐材製品、水際製品)、農業資材などの分野に事業領域を拡大した。

2010年以降は国際化にも尽力。2011年にはベトナムで景観資材やオイルフェンス(流出油などの拡散防止材)の生産を開始した。同時に、東南アジアインフラ市場に向けての販売網の構築を行い、災害用途や民間用途に販売を開始した。

収益性

収益性

活動システム・マップ

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