受賞式・カンファレンス

受賞企業インタビュー

インタビュワー:一橋ICS 教授 楠木 建

ほけんの窓口グループ株式会社
取締役 河野雄一 様

ほけんの窓口グループ株式会社

戦略のポイント

  • 職場や住居を訪問して働きかけない
  • 「保険の販売」ではなく「顧客との共同作業」
  • 「ライフパートナー」による「相談会」
    • 保険の専門用語を使わない
    • 「3+1」
  • 既存顧客との長期的な関係
  • 保険営業未経験者を採用し、独自の教育
    • 「売られんがため」ではなく「人間性(マインド)」と「能力(スキル)」
  • 直営店のスタッフは全て正社員・固定給制
  • 保険会社の側に立った「代理」業ではない
    • 顧客と保険会社の両方のニーズを満たす主体的な流通事業
    • 保険会社が行う販売数量に基づいた代理店表彰には参加しない

今の戦略ができるまで

一橋ICS 教授 楠木建
一橋ICS 教授 楠木建
――ほけんの窓口は長くこの事業をやっていますが、受賞対象になったこの優れた戦略は、最近になって明確な戦略転換があって生み出されたという理解でよろしいですか。
はい。創業当時からやっていた部分を発展させたところと、2013年4月に社長が代わり180度転換した部分があります。
――創業以来の部分は何ですか。
創業者自身も保険セールスを経験して、職場や住居を訪問して働きかけるという従来のセールスのありようを変えたいというのが創業の思いで、来店型の保険セールスを始めました。
――どんな保険会社でも必ず顧客第一、顧客のためと言いますが、お客さんから見ると、商品の特性上、本当にそうなのかなということが多々あります。ほけんの窓口の2013年以降の戦略を見ると、単なる保険の販売活動ではなく、顧客との共同作業、つまり、ライフパートナーによる相談会に価値を見出しています。どのようにして、この戦略にたどり着いたのでしょうか。
元々保険の流通には。「1社の商品しか扱えない」という規制があったのですが、96年に緩和されて、たくさんの保険会社の商品を選んで買える場所ができました。当初は選んで買えるという価値があったので、私どもにもたくさんのお客さまにお越しいただけました。同じようなタイミングで、同様の事業を展開される会社さんも出てきて、競い合いながら世の中に浸透していきました。
ところが、お客さまにたくさん知られるようになり、お客さまにたくさん来ていただけるようになり、社内のマネージメントの話だと思いますが、お客さまとの関係性にゆがみ生じました。
――どのようにゆがんだのですか。
ほけんの窓口グループ株式会社 取締役 河野雄一 様
ほけんの窓口グループ株式会社
取締役 河野雄一 様
お客さまは今までにない価値を求めてご来店いただいたのですが、いつしかお客さまに来ていただくのが当たり前、お客さまが保険を買ってくれるのが当たり前みたいな風潮が生まれ、場合によってはお客さまを選別するような弊害も出ました。
そこで5年前に、改めて自分たちの価値を置き直して明確にしました。私たちの仕事は保険を売っているだけじゃない、保険を通じてお客さまに幸せと安心を感じていただき、未来向かって1歩踏み出せる、そういう関係性になって初めて私たちの仕事になる、と。
相談会っていうのは、これはもう売る場ではなく、お客さまの安心のため、お悩みであったり、心配ごとであったり、不安に感じてらっしゃることとか、そういったお客さまの思いを徹底的に聴く機会としました。

相談会では何をするのか

――相談会で実際になさっていることを教えてください。
お客さまが求める安心、幸せの形は、家族構成や、収入状況などにより違ってきます。相談会は、そういう個々に違う不安を取り除いて、幸せになっていただくお手伝いをしていくプロセスです。大体2時間ぐらいかけて、丁寧にご意向を理解することから始まります。それから、そのご意向、不安が分かった段階で、実際の具体的な商品を選定していくというプロセスに入りますが、ここも大きく転換した点です。数十の商品の中から、お客さまの不安を解消できる商品を選ぶわけですが、従来は、こういう商品が合っていると思いますといくつかご提示しますが、お客さまからしますと選べるといっても不透明なのです。そこで、それも見える化し、ご意向に沿って必要な補償を選択していただき、その補償に合った保険商品の一群が出てきて、その中から選んでいただくという形にしました。
このように、お客さまにとって不透明な部分の透明化を図ったというところが大きな転換であると思います。
――良く分かりました。ちょっとここで確認なのですが、元々保険というものの性質からして、そんなに楽しいものじゃないですよね。車を買い替えるとか、お洋服を買うとか、楽しい買い物ではなく、不安を解決するっていうことなので。そんなに大喜びで来るということはないですね。
そうですね、どちらかというと将来の万一のことを考える機会ですので楽しいものではないかもしれません。
――私も、ずいぶん昔保険入った時に、年齢は、年収は、家族構成はと一通り話して、いきなりある商品を勧められました。これちょっと短くないか、僕のこと分かりましたかっていう気になりました。結構、窓口といってもそういう感じの、お客さんから見て不透明なとこが多かったわけですよね。
私どものように店舗にお客さまご自身でお越しいただくようにしていてもなお、お客さまには、保険の流通に対する不信感など、少し不安な部分をお持ちの方もいらっしゃいます。ご自身の不安とともに、この私どもの販売側に対する不安を持ってお越しになるという方が大半でございます。
――ただ、職場や住居を訪問する場合とは違って、窓口にお客さんがいらっしゃるっていうことは、要するに保険を買おうという気持ちはもうできているわけですよね。
最初は、保険に入らなければいけないのでは、というボヤっとしたお困りとしてご来店する方が多いと思います。

聴く力

――そうすると人によって大分違うと思いますが、最初の2時間ぐらいは、とにかく徹底してお客さまに話していただく、それを促すような問いかけをするということになるのでしょうか。
「聴く力」と言って、徹底して身に付けるようにしています。例えば、医療保険のことが気になっているとおっしゃるお客さまがいらしても、ご自身が病気になってお金のかかることが気になっているのか、あるいは、病気になった後に働けなくなった時の経済的な状況のことが気になっているのか、あるいはお子さまやご両親などのご家族に迷惑掛けたくないという不安なのか、不安の要因は人それぞれです。それが分からないと、ちゃんとした問題解決になりません。
単に医療保険を並べて、どういう病気が気になりますかとか、値段はこっちのほうが安いですよとか、特約にこんなものがありますよと、そういうことでは真の解決にならないと考えています。まず、何で医療保険のことが気になっているのかを解きほぐし、それでご家族構成とか、場合によっては年収とか、そういうことも聴く必要があります。心のコミュニケーションを図りながら、そういうセンシティブな情報についてもしっかりと伺うことに、丁寧に、丁寧に2時間掛けながらやっていくっていう、そういう過程を経ることになります。
――要するに、それが保険用語を使わないでコミュニケーションをするっていうことですね。
そうです。
――場合によっては、お客さまの話を深く聴くと、当初考えられていたそういう保険には入らないほうがいいでという解が出てくることもあり得るわけですよね。
そういうことも多々ございますし、元々考えてらっしゃるのと違う問題解決になるケース、もしくは要らない場合もあります。

3プラス1

――3プラス1について説明してください。
お客さまのご意向をお伺いする、商品の設計をしながら比べていただく、お申込みいただく、というプロセスで、3回ほどお店にお越しいただいて契約に至るのが標準的なパターンです。納得いくまで何度でもお越しいただいて構いませんよとご案内していますが、3回ぐらいになっています。これが「3」です。
プラス1というのは、保険に加入いただいた後に、もう一度、保険証券を持ってお店に来ていただくことで、次のようなことをします。
  • ご契約いただいたものがお客さまのニーズと合っていたのか改めて確認する
  • お客さまの将来にわたって不安なことに安心できている状況かを確認する
  • 今回ご契約いただいた保険の他にも、ご不安なことがしっかりとカバーできているか、他に備えるべきものがないかを確認する
  • できれば、他社で契約された保険の証券も持っていただいて、それで、こういうときにこれが使えますと、こういうときにこれが使えます、こういうときにこれが使えます。将来の安心っていうことで、ここが足りないかもしれません、などのアドバイスをする
  • 万が一の時の連絡先や、ご来店のご案内など、保険を使わなければならなくなった時の準備
――今の話をお聞きすると、お客さまがそれだけ高頻度で来ること自体が、関係が構築されていることの一つの証明ですね。
そうですね。売る方もご案内される方も、面倒くさいといえば面倒くさい後工程だとは思いますが、そういうところで、行って話聞いてみようとご理解いただければ、しっかりとした関係性が作れていると考えています。

人材育成

――保険会社の側に立った代理業ではなく、両方のニーズを満たすニュートラルで、しかも主体的な本来の意味での流通事業者であるというコンセプトが今の売り方に現れていると思います。これは、究極のピープルビジネスであり、お客さんとの接点に立って、話を聴いて、問題を解決する人材が全てになりますね。保険営業未経験者を採用しているとのことですが、何故ですか。
従来は経験者が大半でしたが、5年前からは経験者ではなく未経験者に特化しています。研修でマインドづくりをしっかりやろうとしても、やはり営業経験がありますと、これまでの経験が邪魔になり弊害も多く見られました。そこで、まっさらからしっかり育成するという方針に大転換を図りました。
――これは、ものすごく手間暇、コスト、時間がかかりますよね。
手間暇かかるのですが、これも来店型の利点が生きてくる方法です。カウンター越しに相談しますので、傍で聴いたり同席したりして経験値を早く積むことができます。誰かに見てもらってお客さまと対話をし、そこでできたこと、できなかったことを、お客さま帰られたらすぐフィードバックして次に生かす。そういう日常の営業の中で経験を積み重ねることによって、研修で習ったことを実践し、実践力を向上しやすい、店舗モデルの利点を生かした教育体系ができていると考えています。

店勢

――それが従来の保険の営業の売る力ではなくて聴く力であり、それを支える人間性、マインドですね。しかも、未経験者でまっさらなので、ほけんの窓口方式でばっちり初めから育て上げられるということは、やればやるほど組織として強くなりますね。
そうですね。そういう状態のことを、社内の言葉で「店勢」と呼んでいます。「店勢を付ける」、「店勢のある店づくりをする」といった使い方をします。
お客さまに喜んでいただいて、それが自分たちの成長につながるというサイクルがつくられると、社員が生き生きし、お客さまがお客さまを呼び店の成績もどんどん上がる。店勢を付けることを一番大事にして、店舗のマネージメントをしています。
――良い戦略というのは、やはりことごとく好循環が意図されていると思いますが、それがこの事業についてもよく当てはまるということが分かりました。2013年以降に幾つかの大きな意思決定があったのですが、今後はそれをさらに磨きをかけていくと、まだ深堀ができそうな事業ですね。
色々な店舗に店勢が付きますと、優良な取り組みが生じてきます。3プラス1も当初は、お客さまにもう一度確認してもらいましょう、それから、安心の輪って言っていますが、備えがしっかりと備わっているかの点検をしましょうということでスタートしました。それが、店々でお客さまにこうやったら喜んでもらえた、こうやったらお客さんに喜んでいただいて紹介していただけたとか、そういう好事例がどんどん積み上がり、そういうものを吸い上げて全国展開することによって、お客さまサービス力と店勢がどんどん発展していきます。
取り扱っている保険商品の中でも、まだまだ取り組みが薄いところもあり、また、保険会社さんの商品開発の思想が変わってきていますので、今後の長寿化に対応した新商品や、生存時のリスクに対応するマーケットというのは、どんどん増えていくと思います。プラス1の一層の深掘りとともに、新たな商品にもしっかりと対応し、流通業者としての役割を果たしていきたいと考えています。
――そうすると、今後は3プラス1、プラスアルファのところがいろいろと出てきそうですね。
アルファをどんどん作っていかなければいけないと思います。
――ますますの商売繁盛をお祈りしています。どうもありがとうございます。

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第19回 ポーター賞 応募期間

2019年5月 7日(火)〜 6月 3日(月)
上記応募期間中に応募用紙をお送りください。
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