受賞式・カンファレンス

デジタル・トランスフォーメーション (DX) 戦略

一橋ICS 教授 名和高司

DX(Digital Transformation) ?「S4」経済を駆動する戦略?

デジタル・トランスフォーメーション (DX) 戦略" 一橋ICS 教授 名和高司
簡単に自己紹介します。2010年から一橋ICSにいます。長らくマッキンゼーでデジタルのリーダーをやっていて、つい最近まで、ボストン・コンサルのアドバイザーで、やはりデジタルをやっており、デジタルは結構長く取り組んでいます。本日のポーター教授のビデオメッセージにも出ていましたCSV(Creating Shared Value)も最近取り組んでいて、このCSVとデジタルが極めて親和性が高いという話が後で出てきます。一橋ICSで2014年からCSVフォーラム主宰していますが、さらに、今年から経済産業省のバックアップをえて、DXフォーラムを始めました。その中でこのDX戦略を担当しており、本日はその概要をお話しさせていただきたいと思っています。また、明日発売となる『企業変革の教科書』という本を書きましたので、今日の話で物足りない方はお読みいただけばと思います。
【Outline】
DX
  • ITの変化とDXの進行
  • DXがもたらす4大シフト
  • 自動車業界におけるDX
  • 保険業界におけるDX
  • Google X
  • Google Y
  • CPS
  • Cloud→Edge Computing
DXの3ステップ
1. 自社変革
融知(connected brain)型ネットワーク組織への進化
組織経営の進化形態
Teal 組織
Googleの組織モデル
業績評価モデル KPI → OKR
意思決定モデル:PDCA→OODA
2. エコシステム変革
外部性を梃子とした 「S4 の経済」の獲得
DXによる新しい産業モデルの例:情報製造小売業
3. ビジネスモデル変革
ビジネスモデル・イノベーション手法とは
マジックトライアングル
Transformative Business Models
Lean & Scale Innovation
Exponential Organizationの要件
リクルートの事業開発アルゴリズム
4. リーダーシップ変革
DX時代の人間の役割
ダイナミック・ケーパビリティ:U理論
遠近両用アプローチ

DX

ITの変化とDXの進行

今日の話はDX、デジタル・トランスフォーメーションです。大事なのはD<デジタル>ではなくて、X<トランスフォーメーション>です。デジタルはイネーブラー(Enabler)、ツールですから、どういうツールが世の中にあるかを理解したうえで、それをいかに経営の変革に使うかがカギとなります。

このスライドは、IDCによるDXの定義で、第3のプラットフォームとして4つのこと書いてありますが、いずれも皆さんが使い慣れているものです。これをIBMはCAMSと呼んでいます。Cはcloud、Aはanalytics、Mはmobile、mobility、Sはsocial、securityです。この4つが技術の要素として、新しく登場しました。それを使ったAR、ロボティクス、3Dプリンターなどが、リアルの世界にどんどん進出しています。そしてその時に、人間が、あるいは経営リーダーがどういうふうに振る舞うべきか、デジタルをどう使いこなし、どう経営を革新していくかが大きなポイントだと思います。

DXがもたらす4大シフト

それでは、どういうビジネスモデルがあるのか。サービス化であるとか、オープン化であるとか、スマート化であるとか、それからソーシャル化。ここに書いている事は、いずれも言い古されていることですね。私はマッキンゼー、ボスコンで、20数年間、戦略コンサルをやりましたも、実は戦略はコモディティです。ここは戦略フォーラムですから、こういってしまうとちょっとまずいのですが、戦略はコモディティで真似できます。先ほど紹介されたトラスコ中山みたいに、真似したくない戦略が一番いい戦略と言えます。戦略をどう実践するか、そのために経営をいかに革新するかが大事です。?

自動車業界におけるDX

自動車業界では100年に1度の大革命などと言っていますけれども、こういうことが日常茶飯事で進んでいます。また、自動車と隣接する保険業界で見ても、デジタルの世界が進展し、ますますスマート化し、ソーシャル化が問われています。

保険業界におけるDX

Google X

デジタルをうまく使いこなしている企業で私が好きなのは、なんといってもGoogleです。Google Xはご存じだと思いますが、デジタルの世界をどれだけフィジカルの世界に近付けていくかということを一生懸命やっているサービスです。1つ目の写真は、Google Glass。AR、VRをリアルの世界と融合させたものです。登場しているのは、共同創業者の一人のセルゲイ・ブリン、Google Xのリーダーでもあります。次の写真はコンタクトレンズにチップを埋め込むと、血を取らなくても血糖値がわかります。
3つめが、有名なGoogleカー、ウェイモです。いよいよアリゾナで商用のタクシーとして走り出します。4つめがGoogleルーン、世界中でインターネットが見えるようにする気球です。
Googleで、Google Xは何ですかと聞くと、次の三つの輪交点だという答えが返ってきました。世の中の大きな課題huge problemを、ラディカルなソリューション、すなわち破壊的な事業モデルと、ブレイクスルー・テクノロジーで解きます。このブレイクスルー・テクノロジーの中にデジタルの要素がふんだんに入るのですが、大事なことはこのソーシャルの部分。世の中の問題に対して、これで答えを出していくことです。実は、ここがポーター教授のCSVとデジタルが出会うところです。デジタルを使ってエコシステムを作り、それをマネタイズする知恵が求められるということが、Googleと話していてよく分かります。

彼らはXには二つ意味があると言っています。Xはローマ数字の10ですので、時間軸は10年、10年後でいい。だけど、スケールは10倍。"10X"と彼らは言っています。10倍のスケールを10年後に実現することこそ、彼らのGoogle Xに込めた気持ちです。

Google Y

Googleのもう一人の共同創業者ラリー・ペイジが、Google Yというプロジェクトを始めています。Google Yは、もっと社会インフラに近寄ろうというもので、ここに例示しているのは、渋滞を避けるためのシステムです。ただし、渋滞を避けると言っても、空いているルートに誘導すると、今度はそちらが混んでしまいます。そこで、人間心理に訴えて、交通量そのものをコントロールするという行動経済学的なアルゴリズムを盛り込んだサービスを提供するというアイデアです。シンガポールでは実用化されています。

CPS

もう一つキーワードが、CPS。シリコンバレーで言われ続けているものですが、サイバーとフィジカルが統合されたシステムになる、バーチャルの世界とリアリティーが一緒になるという話です。これがデジタル・トランスフォーメーションの最大の効用の1つです。

フィジカルの世界からセンサーを使って得た情報がサイバーの世界で分析され、そのアルゴリズムに基づいてリアルの世界をアクチュエートする。バーチャルの世界でゲームやっているわけじゃなくて、実際にフィジカルの世界を動かしてしまう。
そのためにはフィジカルの世界からデータが上がってくることが必要で、そのためのIoTが重要であり、このサイクルが回ることがすごく大事なのです。

バーチャルの中だけで閉じていてもだめで、実業の世界でディープにやっている企業が非常に重要であるというのが、今のシリコンバレーでの常識です。彼らは実業をやっている人たちと組むことを望んでおり、日本の企業のディープな匠の世界が見直されています。
日経(※)に、日本のAIの権威と言われている東大の松尾豊先生の面白い記事がありました。「日本において、高専という仕組みは海外にはない素晴らしい宝です。AIを進化させるにはティーチングが必要で、本当にフィジカルの世界が分かっている匠が必要です。それをしっかり学び手を動かしているのが高専の人です。」
また、インドのバンガロールでマヒンドラ・グループのテックマヒンドラを訪問した際、「今後は様々な日本の会社、実際にリアルの世界でやっている会社と組みたい」と言っていました。そういう意味で、これから、日本企業がリアリティーに深く関わってきたことが見直されてくると思います。
(※) https://www.nikkei.com/article/DGXMZO37752760U8A111C1000000/

Cloud→Edge Computing

クラウドコンピューティングはもう古いっていう話は聞かれたことありますでしょうか。今は、エッジコンピューティングが注目されています。クラウドという遠くの雲のほうに情報を上げて、そこでプロセスされた情報が戻ってくるのでは遅すぎる。特にフィジカルな世界、例えば自動走行をやろうと思ったら、そんな悠長なことはできません。エッジ、端のところ、一番リアリティーに近いところに知恵をためるのです。

日本で今や唯一のユニコーンになったPreferred Networksという会社があります。これも東大から出たAIのベンチャー企業です。彼らはフィジカルの世界としっかりと結び付いたAIをやっています。そこにファナック、NTT、トヨタなどが出資しています。例えば自動車だったらブレーキやステアリングに、アルゴリズムが実装されています。今までのバーチャルな世界とは全く違う、現実にコンピューティングパワーが埋め込まれた世界がエッジコンピューティングです。

マッキンゼー時代の私の同志で、今はでシリコンバレーのシンギュラリティ大学の教授をしているジョン・ヘーゲルが、「最近シリコンバレーでは、イノベーション・アット・エッジがキーワードとなっている」と言っていました。エッジとは「周辺」、イノベーションは中枢からではなく周辺から起こるというのです。本社機能ではなく、周辺の現場にこそリアリティーが満載。イノベーションの種は現場にあるということに、リコンバレーも気づいたのです。

日立でも、「ITとOTが一緒になる」といっています。バーチャルな世界と現実の世界が一緒になったときに、すごいパワーが生まれる。日本の企業は、この両方を持っています。サービス産業でも、三井物産の北森チーフ・デジタル・オフィサーが、「商社は宝の山だ。いろんな産業に深く関わり、産業に対する知見が深い。オペレーション・ノウハウとバーチャルな世界が結び付いたときにすごいパワーが起こる」とおっしゃっていました。

DXの3ステップ

デジタル・トランスフォーメーションで、どのように進めるのか。当たり前のようですが三つの波を起こす必要がある。波と言っているのは、ステップというよりも同時に着手する必要があるからです。

1番目の波は、当然ながら自社の中でデジタルを使いこなす。これは誰も止める人はいない。やってないとしたら自分だけが悪いので、これはサクサクやる。
2番目はエコシステム、関係性をつくる。一番大事なのは、顧客との関係でしょう。そして、サプライヤーや異業種のプレーヤーと一緒に関係性を作っていくということ。
3番目が一番難しく、マネタイズする仕組みを変える、事業モデルを変えるということです。

この三つがデジタル・トランスフォーメーションにおいてやるべきことです。
さらに経営のレベルで見たときに二つあります。一つは、右上に星が光っていますが、MTP(massive transformative purpose)です。超巨大で、革命的な、ビジョンじゃなくて目的、志。これは向かう方向というよりも原点に近いものです。われわれはなんのために存在するのか。それが大きく革命的であることがすごく大事です。そして同時に、下に書いてあるリーダーシップです。企業変革をけん引していくリーダーシップそのものの変革が求められます。

1 自社変革

融知(connected brain)型ネットワーク組織への進化

1番目の波、自社をいかに変革するか。

そのときに二つの経済を考えなくてはいけません。1つ目が、規模や範囲の経済。これは20世紀的には重要でした。先ほどのMonotaROさんとかトラスコ中山さんではありませんが、いろんなものをロングテールで持つことも大事だし、もっと言うと、違う業界のものをどんどん範囲の経済で取り込むことも大事という世界です。2つ目が、スキルとかスピードの経済。デジタル時代には、こちらがますます重要になってきます。

どちらかというと、縦軸は大企業が得意で、横軸はベンチャー系が得意と言われていましたが、これからは、この両方を兼ね備えたような融知(connected brain)型の組織が求められます。知恵がどんどん集積し結びついていく世界を社内でつくり、社外の知恵も結び付けるようなパワーが必要になってきます。

先ほど申し上げたようにイノベーションは内ではなく外から起こるので、外の揺らぎをうまく取り込み、つないでずらし、それによりバージョンアップしていくというリズムが必要になってきます。

組織経営の進化形態

最近、ティール組織という話がさかんに言われるようになりました。私のマッキンゼーの頃の同僚が書いています。組織には色があって、一番手前、ブラックというのがあるのですが省略します。

レッドはオオカミ軍団。マフィアとか暴力団の世界。たまにそういう会社がありますが駄目ですね。
アンバーは軍隊です。
20世紀的に最も効率良く回っているのが、機械的なオレンジの世界です。それぞれに持ち場があり専門性があるという世界。その後に二つあります。

一つは、そこからグリーンになります。最近のESGだとかSDGsの動きの中で、どんどんグリーンになる。成長することよりも持続可能性とか世の中にいいことをしよう、というソーシャルの方にどんどん向かうのがグリーンの世界。

ティールという色は緑と青の中間の色ですけども、ここは生命体のようにそれぞれが生き生きと自分のしたいことをしますが、それが固まりとなって一つの大きな系を作るというものです。

CSV的に言うと、CSVをやるためにはこのティールな組織でなくてはいけなくて、どういうふうにティールな組織になっていくかが、自社の中での大きな目指す方向になります。

Googleの組織モデル

Googleの組織を見ると、まさにそういう組織になっています。上の図は、10項目で20世紀的な組織とGoogleを比べています。

1番目。学校のイメージでいくと、陸軍士官学校のように軍人をつくるような学校じゃなくて、モンテッソーリスクール。なんのカリキュラムもない、与えられるのはレゴだけみたいなところで、創造性を養うことを幼稚園からやっています。Google創業者のラリー・ペイジは、そこの出身です。Googleのカラーはレゴのカラーなのですが、レゴを発想の原点に置くのが、こういう新しい会社の一つの特徴です。

7番。リスクテイキング。普通だったら80%以上の成功が当たり前で、失敗は許されない企業が多いと思いますが、Googleでは、80%以上失敗しないと、リスクを取ったことにならない。Googleは失敗すると、こちらに行く必要がないっていうことを証明したことが価値であると、セレブレイトします。リスクに対する耐久性が全然違います。

私がもっとも好きなのは、一番下です。普通の会社はアメリカンフットボール。私は守る人、私は走る人、私はちょっと頭いいからクォーターバックで球を送る人といった具合に、それぞれの役割が決まっているのがアメリカンフットボール。バスケットボールは5人で、ディフェンスもオフェンスも、その場その場で臨機応変にやります。なので、Googleは5人以上になったらチームを分けます。5人というユニットでやっていくというのが、彼らの仕事の仕方の基本です。

業績評価モデル:KPI → OKR

Googleの組織運営ではKPIは使いません。最近本が出て有名になりましたが、OKRを使います。もし皆さんの会社がKPIを使っているとしたら、20世紀的な会社です。21世紀はOKRを使うという話です。すごく簡単で、objectiveとkey result。これしか握らない。ラリー・ペイジ、社長がまず自分のobjectiveとkey resultを発表します。今度はそのkey resultが次の人のobjectiveになって、自分たちのkey resultを言います。目的と結果は握りますが、その間の箸の上げ下げとか手法的なものは一切関知せず、好きなようにやれ。目的が合っていて結果が出てればそれでいいという仕組みです。もっとすごいのは、結果が100%出てしまったらNGなのですね。頃合いがいいのが75%だとのことです。7達成率が100%に近いのは、最初のobjectiveが低すぎるということ。75%ぐらい達成できてちょうどいい、こういう指標なのです。なかなか難しいです。私は幾つかの会社で導入をお願いしていますが、難しいが、やりがいがあると思います。

意思決定モデル:PDCA→OODA

もう一つ、組織の意思決定の仕組みが変わります。もうPDCAは古い。皆さん、もしPDCAをやっていたら、20世紀的な会社ですね。ウーダ、OODAを聞かれたことありますか。今はOODAの時代と言われています。Observeして、Orientして、Decideして、Actする。これは海兵隊のパイロットが意思決定をするときの一つのリズムです。まず観察する。どこから敵が来ているのか。どちらに逃げ道があるのか観察して、それからOrient、自分の立ち位置を決める。そしてDecideして、Actする。

迅速に意思決定をするのがOODAです。OODAのポイントは自立的に意思決定をさせることです。さきほどエッジ、端のほうで意思決定をすると言いましたが、大本営にどうしましょうと聞いているようなスピードでは間に合わないので、それぞれがOODAを回せるかどうかが組織の力だというのが、自律した組織の大きなポイントです。

例えば、トヨタはこれを目指しています。トヨタ生産方式の本質は、考える現場をつくることにあります。現場が、whyを5回問い続けます。今の延長線上でないことを考えるという癖を、現場に一生懸命擦り込んでいます。それによって、現場が判断できる組織にしようとしています。

ユニ・チャームはPDCAを週単位で回すということを、10年かけて組織の中にしっかり埋め込んだ素晴らしい組織です。しかし、最近はそれでは間に合わなくなった。特に中国では、あっという間に変わるので、週単位でいちいち報告をもらったのでは周回遅れになってしまう。そこで現場で判断できるようにしようと、OODA方式を取り入れようとしています。変化が非常に激しい現代においては、大企業であればあるほど、現場、つまりエッジから遠く離れた大本営で考えている場合ではないのです。

2 エコシステム変革

融外部性を梃子とした 「S? の経済」の獲得

二つ目の波は、どうやってエコシステムを作るかです。エコシステムは作れます。デジタルの力を使えばいくらでもお客さんとの関係が作れ、色々な人とつながります。その時に、経済性を意識する必要がある。それが、ここで紹介する「Sの4乗の経済」モデルです。

20世紀のエコノミーで一番大事なのはスケールScaleでした。しかし今はネットワークでつながるので、自分で規模を持つ必要はありません。同質的なものであればあるほどつながるので、自前で持つ必要はなく、ネットワークで共有すればいい。

自前で持たなければいけないのは一番上、スキルSkillの経済です。バランスシートには載らない無形資産です。このスキルの経済をどうため込むかが、その会社の競争力になります。スキルの経済とはなにか、例えばブランド資産、知識資産、ネットワーク資産、そしてそれらを包含する人財資産です。

それを磨けば磨くほど、真ん中の範囲Scopeの経済を活かすことができます。特化したスキルがあれば、別の特化したスキルを持つ人と掛け算することで、イノベーションが起こります。シュンペーターはイノベーションの源泉は「新結合」にあると看破しました。これを私は「異結合」と言い換えています。異なるものが組み合わさることによってイノベーションが起こる。そこに範囲の経済が生まれたからです。

最近、オープンイノベーションが盛んに行われていますけれども、成功した試しがありません。私も色々な会社でお手伝いしましたが、成功していません。成功しない理由の一つは、一番上のスキルに磨きがかかってない。スキルがあったとしてもそれがトランスファラブルじゃないので、相手にとってなんのメリットもない。そして、一生懸命隠して相手のいいものだけ取ろうとする。そういうオープンイノベーションがあまりにも多い。二流同士のオープンイノベーションだと、2掛け2で四流になってしまう。

一番大事なのは、その企業ならではのスキルをどこまで磨いているかです。そして真ん中のところのオープンイノベーションでその磨かれたスキルを惜しみなく異質なプレーヤーのスキルとすり合わせ、それ以外の資産は同質なプレーヤーと共有化する。この三つの芸当ができるようになると、自前でやるよりも、変革のスピードが幾何級数的に速まります。これがシリコンバレーやテルアビブ、深センで行われている新しいエコシステムの作り方です。だから、彼らは圧倒的な収益につながっていくのです。?

DXによる新しい産業モデルの例:情報製造小売業

日本でも、DXモデルの先進事例があります。例えば、ユニクロの有明モデルです。レインボーブリッジの向こう側にある倉庫の中でやっています。スライドの上に書いてあるのが今までのバリューチェーンです。ZARAは、このバリューチェーンを世界で最も速く2週間で回し、ファストファッションといわれていて、なかなか真似できません。 ユニクロは、これをバリューサークルにしようとしています。お客さまが注文したものを5日後に届ける。もちろん生産のリードタイムを短くするためにAI、IoTを活用しています。今は有明でやり、次に西日本で、そして世界中でこの倉庫を作る計画です。

これは究極の受注生産モデルです。自分の一番好きな、一番いいサイズが5日後に届く。当たり前のように聞こえますが、最近、ヒートテックを買おうとしても、自分の好きな色や好きなサイズは真っ先になくなっているということが多い。アパレル業界では一般的にそれをなくすために多く作ります。アパレル業界の最大の悩みは、多く作って売れ残るので、それを半値8掛けで売る。無駄の山を作ってしまうのです。有明モデルでは無駄がなくなるので、カスタマイズしつつ十分利益が取れるのです。

これをやるのにエコシステムが当然必要です。ユニクロは工場を持っていませんので、エコシステム上のプレーヤーが情報を共有することが必須となります。ユニクロは、このデジタル・トランスフォーメーションを通じて、アパレル産業を情報製造小売り産業にを変えようとしています。

3 ビジネスモデル変革

最後に、ビジネスモデルの変革で一番難しい部分です。日本人は、製品のイノベーション、プロセスのイノベーションは好きなのですが、ビジネスモデルのイノベーションが苦手です。皆さんも色々と悩んでいると思いますが、これはコモディティであることが、最近分かりました。

ビジネスモデル・イノベーション手法とは

スイスの大学で5年間研究した結果、ビジネスモデルは55のパターンしかないことが判明しました。

たとえば48番は、最近はやっているサブスクリプション・モデルです。私が好きなのは44番のロビンフッド・モデル。ロビンフッドは金持ちからせしめて貧しい人に配るという定義で、ほとんどロビンフッド・ストーリーそのものですが、経営学の世界ではクロスサブ・モデルといいます。このような55のパターンを組み合わせることで、ビジネスモデルができるというものです。

マジックトライアングル

彼らは、マジックトライアングルというモデルを提唱しています。四つのクエスチョンにしっかり答えを出せれば、ビジネスモデルが解けるというのです。Who、お客さんが誰で、what、どういう価値を提供するのか、how、どうやってやるのか、そしてwhy、なぜそれが本当にもうかるのか。大事なのは、この4つの質問に対する答えのうち、二つ以上を従来モデルから変えることだと言っています。

たとえば、テスラは少なくともWho、What、Howを大胆に変革しました。ただし、残念ながら最後にWhy、すなわち収益モデルがまだできてないというのが残念なのでありますが。

ネスプレッソはすごいですね。四つ全部変えました。お客さんを変え、提供するものを変え、提供する手段を変え、もうかり方を変える。四つとも変えたので、浸透するのに30年もかかりました。時間はかかりましたけれども、圧倒的な強い事業モデルを作りました。

これのどこがデジタルかっていうのが気になりますよね。もちろんデジタルという特性だけに注目すると、この55の他に新しいビジネスモデルがでてきます。ですから、彼らも白いカード持って、このカードは万が一新しいものができたときのためと言っています。六つぐらい新しい事業モデルが最近できています。 ?

Transformative Business Models

これはハーバード・ビジネス・レビューに掲載された論文からの抜粋です。左側はテクノロジーでデジタルの話。右側はマーケットのトレンド。真ん中が六つのビジネスモデル。これも皆さんもよくご存じのビジネスモデルばかりです。

パーソナライゼイション、クローズド・ループ(リサイクルすることです)、アセット・シェアリング。利用ベースの課金、コラボレイティブ・エコシステム(エコシステムでプラットフォームを作りその一部を担い合う)、アジリティ(スピードで勝負すること)

このような新しいビジネスモデルがも全てコモディティです。みんな分かっているので、実はビジネスモデル自体は大した知恵ではないですね。もちろん、それをどうやって自分のものにできるかかが勝負です。もっと大事なのは、それをどうやって小さく生み、大きく育てていくかにあります。

Lean & Scale Innovation  指数関数的(Exponential)成長

リーンスタートアップが一頃はやりましたが、今やブームは去りました。リーンスタートアップだと、やたらがらくたがいっぱいでき、リソースの無駄遣いになってしまう。私も色々なリーンスタートアップをお手伝いしましたが、ろくなものできない。「ガベージイン、ガベージアウト(ゴミを突っ込んでも、ゴミしか出てこない)」です。最初はたいしたものでなくとも、大きくなって初めて成功といえるのです。

ですから、リーンよりも、どうやってそれをスケールするかのほうが重要なので、最近はリーン・アンド・スケールがキーワードになっています。小さく始めるのは誰でもできます。それを大きくするのは難しい。

20世紀的には、大きくするためにはインプットを増やす必要があり、リニアな関係でした。しかし、下手をすると、収穫低減の法則で、だんだん成長が寝てきます。

ところが、21世紀のアセットライトなビジネスモデルでは、時間が経てば経つほど、参加する人が増えれば増えるほど、価値が上がります。この指数関数的成長(Exponential Organization)をどうやって作るのかが最も重要なビジネスモデルであり、GAFAの人たちはまさにこれが勝ちパターンなのです。日本では、ユニクロやソフトバンクなどが得意としています。どうすれば有形資産をベースとし20世紀的な成長から、無形資産をベースとした21世紀型の成長にギアシフトするかが問われているのです。

Exponential Organizationの要件

シンギュラリティ大学では、数関数的成長企業(Exponential Organization)の条件として、上記のようなモデルを提唱しています。彼らに言わせると、まず、さっき申し上げたMTP(Massive Transformative Purpose)が不可欠です。Googleだったらムーンショット、月に行くといった志、ちなみにテスラだったらマーズショットとでも言ったところでしょう。このような壮大な目的を持つことが大前提で、これを持っていない企業は、そもそもこのような成長を目指す資格がありません。

その下の10項目を合わせて、「SCALE IDEAS」と呼びます。つまり、アイデアをスケールする方法論です。右側の五つがスケールで外を向いていて、左側五つがアイデアズで内を向いています。

外に向いている1つ目は、スタッフ・オン・デマンド、つまり必要に応じて人を獲得すること。ネットワーク時代には、人を自前で抱える必要はありません。ロンドン大学教授のリンダ・グラットンさんが『ワーク・シフト』とう本で書いていますが、優秀な知的労働者の多くはフリーランサーなのです。既に、アメリカの知的労働者の30%はフリーランサーで、日本では7%。それがあっという間に半分になる。一つの企業に囲い込まれるというのは情けない人生なのです。優秀な人財ほど、その時々のエキサイティングなプロジェクトに参加することを選ぶ。だから人はオンデマンドで採ればいい。社内でも良いのですが社外からも採る。結果的に今のGoogleの人たちは、5年ぐらいしかいない人が多いのです。プロジェクトが面白いのでたまたまそこにいる、といった人たちの集団のです。ですから、スタッフは囲い込む必要はなく、その代わり2つ目のコミュニティー・アンド・クラウド、周りにそういう人財プールを作っておく必要があります。

最も重要だと言われているのが、3つ目のアルゴリズムを持つことです。その組織ならではの方程式が必要です。スケールさせるための方程式を持つ。そうしないと誰も寄ってきません。その会社と組んで、あるいは、その会社が手掛ければ、必ずアイデアをスケールさせることができるという再現性のある方程式が必要なのです。誰でもできる「リーン」スタートアップではなく、その企業ならではの「スケール」させる知恵が最も重要。アセットは自前ではなく、徹底的に周りのアセットを使いこなす。4つ目のleveraged assetsです。GoogleはtenXと言います。10倍。自分のとは別の10倍のアセットを使い倒す。

そして5つ目のエンゲージメント。周りをその気にさせるためには、口説き上手でなければならない。エンゲージするパワーが求められる。組織の中だったら命令すればいいのですが、エコシステムを動かすためにはエンゲージメントが必要です。

次に、内側に向いている五つのIDEASを見てみましょう。まず明確なインターフェイスを持つ。これをプラグイン、プラグアウトといいます。外から入ってきた人が翌日からパーフェクトに仕事ができるようなインターフェイスを持つ。2つ目が、ダッシュボード。KPIを数多く設定すると、飛行機のコックピットのように計器だらけになってしまう。ダッシュボードは車の中です。車のメーターは重要なKPIだけを厳選して並べる。先述したOKRのkey resultのようなKPIで十分です。

3つ目のエクスペリメンテーションは実験をする力。4つ目が、自立的にみんなに考えさせる力。5つ目のソーシャルは、ソーシャルネットワークのことです。LINEやWhatsAppなどを、社内でも使いこなすような組織になる。外の人とコミュニケーションが必須となるからです。

以上が10の要件。このうち最も重要なものが、アルゴリズムです。今色々な企業のDXのお手伝いしていますが、その企業らしいアルゴリズムを作ることが肝となります。

リクルートの事業開発アルゴリズム

そのような要件を備えた日本企業の代表例が、リクルートです。リクルートは手掛けた事業はすべてスケールさせるという方程式を持った企業です。ベンチャーとして産み落としたものが、いつの間にか大きくなっていく。最近で言うとIndeedがまさにその好例です。

BCGの日本代表の杉田さんがリクルートの秘密を、この本の中に、見事に描いています。リクルートは、ゼロから1、1から10、10から100という事業化の3つのステージごとに、独自のアルゴリズムを持っています。

まず、ゼロから1へとリーンにスタートするところでは、世の中の「不」に注目する。不満や不安、不健康などといった社会課題です。それを1から10へとマネタイズできるような事業モデルにします。10から100では、それがデファクトになる、ぶっちぎりになる、ホームランになる。リクルートにはこのような独自のアルゴリズムがあるので、何を手掛けても事業として大きく育てる力があるのです。

私がリクルートのCSR委員をしていた際に、「名和先生、世の中の「不」を持ってきてください」と問われました。「社会課題はお金にならないから社会課題になっているので、答えがない可能性が高いですよ」と私が答えると、「いやいや、われわれには方程式がありますから大丈夫です。何でも持ってきてください」と言うのです。それではと、過疎地の空き家問題はどうですかと言ったら、いきなり「名和さん、過疎地の空き家はダメです」と言われました。「何でも持ってこいっていう話だったのでは?」と聞くと、「事業になる可能性がないものには、初めから手を付けないことにしています」と。マネタイズの仮説が出ないものは、最初にはじく。この入り口、選球眼が極めて重要です。なんでもリーンスタートアップをしてみるという前に、このディシプリンが求められます。

私自身、CSVをやっていて気付いたのですが、社会課題から入ると間違えます。自分がちゃんと解ける社会課題でなければ意味がないので、自分の方程式を持っていることがCSVをやる条件です。リクルートはさすが、それをよく分かっています。

4 リーダーシップ変革

DX時代の人間の役割

最後にリーダーシップの変革について。ダベンポート先生が作ったDX時代の人間の役割という、大変面白い図があります。全部ステップという言葉で書いてあります。ステップアップするか、ステップアサイドするか、ステップインするか、ステップナロリー(防空壕に入ってロボットにじゃまされない世界を作る)、ステップフォワードという五つのステップがあります。それぞれ人間がデジタルに対してとるべき立ち位置を示しています。

最も重要なのが、ステップアップとステップフォワードです。

ステップアップは、大局観を持って大きく見ることができる力。ディープラーニングは細かい事象の関係性を分析する力はありますが、広く見る力はなかなか持てません。ただ最近のAIは、転移学習、トランスファー・ラーニングができるようになっています。一つのところでディープラーニングするだけではなく、それをトランスファーする力ができ始めたので、これを人間の役割と言い切るのは難しくなりつつあります。しかし、どれだけ広い視野で見ることができるかが重要です。

もう一つ重要なのが、ステップフォワード、先を見る力です。ビッグデータは過去のデータの集積で、将来のデータはそこには何もありません。もちろん予測することはできますが、今、データにないものの予測はできないのが、AIのつらさです。未来を考えることも重要です。

シリコンバレーではこれまで、「STEM」人材が求められていました。Science、Technology、EngineeringそしてMathematics。いわば、理系の人たちです。しかし、AIがあれば、理系のスキルはコモディティになる。もちろんAIをティーチングするティーチャーは必要ですが。最近では、より大事な人材は「STEAM」だと言われています。ArtのAが加わりました。STEMが分かって、なおかつArtが分かる人材が求められます。Googleに行っても、Amazonに行っても同じことを言っています。DX時代には、Artが希少価値になるのです。?

ダイナミック・ケーパビリティ:U理論

Artをどうやって深めるか。シリコンバレーで今盛んに行われるのがマインドフルネス活動です。スティーブ・ジョブズから始まって、今はGAFAの人たちがやっています。最近できたAmazonの目黒にはヨガの部屋があります。ヨガをやり、座禅をやってクリエイティブになることが、これからの人財に求められます。私は最近よく京都や鎌倉に世界中のリーダーを連れていきます。そこではMIT出身のお坊さんが英語で座禅の心を教えてくれるので、海外のエグゼクティブは非常に喜んでいます。日本人が知らない日本の宝ですね。禅の思想をどれだけリーダーが、そしてクリエイティブな人たちが身に付けるかという競争になっています。テルアビブや深センに行った時も、日本の禅の思想を教えてくれと言われましたが、それぐらいみんなが注目している日本の宝です。

遠近両用アプローチ

最後に、DXを実現する上で、どういうアプローチが有効かという話に触れます。

時間軸でいうと、上の図が示すような「遠近両用のアプローチ」が必要です。日本企業は中期計画が大好きですが、中期計画は20世紀の遺物です。この図に示すと、中期が膨らんでお腹がでっぷりした体型になってしまうので、(今回ポーター賞を獲得した)RIZAPに通ったほうがいいでしょう。もし万が一中期計画通りになったとすれば、3年前の計画通りになったといことになり、相当まぬけな話です。普通は激変する環境にあわせて毎年ローリングするので、プランばっかりして、それで忙しい。PDCAどころかPPPPになっている。そうではなくて、超長期の大きな方向性を見定める力と、OODAで超短期的に判断し、実践していくことがカギとなります。非常に遠くを見る力と、短期で意思決定できる力。これが、企業がデジタル時代に最も求められる力だと思います。中期計画は即刻やめていただきたいというのがお願いであります。以上、どうもご清聴ありがとうございました。

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第19回 ポーター賞 応募期間

2019年5月 7日(火)〜 6月 3日(月)
上記応募期間中に応募用紙をお送りください。
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