受賞式・カンファレンス

ビデオメッセージ

ハーバード大学 ユニバーシティ・プロフェッサー
マイケル・E・ポーター教授

謝意

こんにちは。ボストンのハーバード・ビジネス・スクールからお話ししています。このポーター賞の受賞式に参加できることをとても嬉しく思います。この賞は2001年に始まり、戦略の分野の新たな考え方や活動を日本に紹介する最高の場になっています。

ここで、この賞のスポンサー、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、P&Eディレクションズに感謝の気持ちを伝えたいと思います。また、この賞にとって重要な収益性分析に尽力してくださいましたPwC Japanとバリュークリエイト、様々な点でサポートしていただいている電通にも感謝いたします。ポーター賞は、有力なビジネススクールである一橋ICSで生まれ、非常に強力に実施、推進されています。専攻長である一條和生先生を始め、大薗恵美先生、楠木建先生、野間幹晴先生は、成功に導くために重要な役割を果たしています。

私の役割は、賞の候補者を検討し審査委員会と話し合うことですが、実際の決定は審査委員会に委ねられ、最終決定は彼らが行います。本年の受賞者を決定するために、審査委員会はすばらしい仕事をしました。しかし、各企業について考えや感想、意見を審査委員に提示できることは、私びとって大変嬉しいことです。

受賞企業

私は大きな誇りを持って、今年の受賞者の皆さんにお祝い申し上げます。今年は4社が受賞しましたが、受賞者の数は年によって違い、戦略的思考を革新していると私たちが考える企業が選ばれます。本年度の受賞者は、次のとおりです。ほけんの窓口は、複数の保険会社のサービスを非常に革新的な方法で提供しています。MonotaROは、小売業者として工場などでのオペレーション、メンテナンス、補修などに必要な製品を販売するEコマースを運営しています。3つ目の受賞者のRIZAPは、独特のカスタマイズされたサービスをクライアントに提供するフィットネス・スタジオとして、日本の健康とフィットネスに非常に興味深い形でコミットしています。そして最後になりましたが、トラスコ中山は、MonotaROと同様に企業に間接材を提供していますが、卸売業社として独特のアプローチをとっています。

優れた戦略とは、その普遍性

受賞企業はいずれも興味深い企業ばかりです。これらの企業が選ばれたのは、革新的なビジネス戦略のすばらしい手本となっているからです。他社の真似をするのではなく、競合とは異なる根本的にユニークな方法で競争しています。これこそが、この賞を生んだモチベーションだったと思います。歴史的に日本企業は互いを見習い、真似をするのが得意でしたが、最終的にそこから生まれるのはゼロサムゲームの競争であり、そこで勝って利益を得るのは非常に困難です。また、同じようなことをしている会社ばかりでは、消費者の選択肢は限定されてしまいます。実際、戦略のコア・コンセプトは、特定の企業グループに独特のバリュー・プロポジションを提示し、みんな同じことばかりしている他の企業よりも、ニーズにうまく応えられるようにすることです。

戦略のコア・コンセプトについての私たちの理解は、大きな進歩を遂げてきたと思います。戦略の基本は、顧客にユニークなバリュー・プロポジションを提示することです。独特のバリュー・チェーンまたはオペレーティング・モデルで、生産とサービスからマーケティングまで、バリュー・チェーンの全体にわたって、他者がしたことの真似ではない、ユニークな価値を提供します。また、戦略のもうひとつの重要なコンセプトは、戦略とは基本的に選択に関わるものだということです。いろいろなことを少しずつするということではありません。何をして何をしないかを選択するということです。ご紹介する受賞企業は、大胆で明確な選択をしたことがおわかりいただけると思います。

この賞が始まってからの年月のあいだに私たちが語ってきた戦略のコア・コンセプトは、どれもまったく変わっていません。これらの重要な原則は時代を超越しています。いつの時代にも当てはまるものです。どのような経済状態でも、どのような産業でも、どのようなテクノロジーが利用可能であっても変わりません。中核となるアイデアは同じです。

CSV ... Creating Shared Value

しかし、今、ユニークな戦略を見つける新しい機会が生まれていることに私たちは気づきました。これはここ5〜10年の間に出現し、急速に広まっています。この新しい機会、新しい戦略を見つける機会について、少しお話しさせてください。将来的には、このアプローチを使用した受賞者が登場するかもしれません。また、私たちはこのアプローチに重点を置いて、この賞についての考え方とプロセスを広げることができるかもしれません。

私がお話しするアプローチと新しい機会とは、2011年に私が共著者のマーク・クレイマーと『ハーバード・ビジネス・レビュー』で発表した記事から生まれたものです。その記事のタイトルはCreating Shared Value(CSV)でした。皆さんの中には、このアイデアについて聞いたことがある方もたくさんいらっしゃると思います。

中心的なアイデアは、今の世の中には私たちがみんな理解し、知っている社会的問題がたくさんあるという認識から始まっています。この問題は複雑で、政府やNGOはその解決に苦心しています。環境の問題、栄養の問題、恵まれないコミュニティの問題などです。ありとあらゆる問題がありますが、政府やNGOは、これらの問題に対処するための大規模な解決策を実施することにあまり成功していません。彼らは状況を改善し、重要な仕事をしていますが、問題は、政府やNGOには、これらの非常に複雑な問題に本格的に取り組むための資金がないことです。税金があり、政府やNGOは寄付を集めていますが、これらの社会的問題の多くを実際に解決するには資金が不足しているのです。

CSVの始まり

CSVというアイデアは、この状況を認識するところから始まりました。解決しなければならない問題がまだたくさんあり、解決の見通しも立っていない中で、企業は経済的な変化だけでなく社会的な変化を引き起こすために大きな役割を演じることができるという考え方です。企業についての従来の考え方では、社会的問題の解決と経済的成功とは相容れないものでした。経済的成功とは利益を得ることで、社会的問題の分野では利益は得られません。これは経済学やその他の分野の考え方を反映したもので、そのために私たちは誤解し、考え方をゆがめられて、社会として目指すべき方向を見失っていました。歴史的な考え方に基づき、多くの企業は、社会へのアプローチは慈善を中心としたものにするべきだと考えていました。金を出し、寄付をするということです。また、企業の社会的責任(CSR)という考え方がありました。これは良き市民として問題に取り組んでいる企業として良い評判を得るというものです。これはどちらかというと企業のイメージや評判にかかわるアプローチで、コア・ビジネスにかかわるアプローチではありませんでした。しかし、最近になって私たちが理解し、日々、爆発的に広まっている考え方は、寄付をすることよりはるかに大きな社会的変化を起こす機会があるということです。これがCSVのコンセプトです。

CSVとは、企業のコア・ビジネス・モデルに社会的インパクトを取り入れるということです。寄付をすることではなく、コア・ビジネスのポジショニングと運営に取り入れるのです。これがShared Valueのコア・コンセプトです。Shared Valueという考え方に従って、社会的問題を効率的かつ効果的に解決できれば、企業の収益性が高まります。さらに急速に成長できるようになります。なぜなら、新たな市場を切り拓き、他の方法より明確に自らを差別化できるからです。そして、

CSVの拡がり

このShared Valueというコンセプトの活用と導入は、世界中の産業で爆発的に広まっていることがわかります。現在、非常に多くの国に、共通価値を創造する企業に与えられる賞があります。経済におけるCSVを奨励する地域団体もあります。さまざまなエキサイティングな動きがあります。また、2015年には、『フォーチュン』誌がCSVで世界を率いる企業のリストを作成することを決めました。これはとてもエキサイティングな出来事でした。なぜなら、社会に貢献することを考えるときだけでなく、企業の戦略を立てるときに共通価値に注目するという考え方が世界的に広まるきっかけになったからです。コア・ストラテジーの一環として行えば、社会貢献はさらに大きな力を持つことになります。それによって企業は利益を上げ、成長することができます。また企業が創造する社会的インパクトを複製し、持続させることができます。これが、成長するためには寄付をもっと集めたり税金を上げたりしなければならない政府やNGOと違うところです。

皆さんがすでにこのコンセプトについて見聞きしていることを願っていますが、この機会はますます大きくなっていると思います。さらに多くの企業がこの考え方を試すことにより、差別化の機会が広がり、コスト削減の機会が広がり、社会的インパクトに関心を持つ顧客にユニークな価値を提供する機会が広まっています。

CSV企業としての伊藤園

広く知られている例の一つが伊藤園(訳注:2013年度ポーター賞受賞)です。伊藤園は、2016年に『フォーチュン』誌の「世界を変える企業」のリストに選ばれました。他の日本企業も選ばれ、将来的にはもっとたくさんの日本企業が選ばれると思いますが、伊藤園は本物のパイオニアで、かなり早い時期に私たちの目にとまりました。この企業について知らない方のために、そのCSV戦略を説明しましょう。

伊藤園は、もちろん、緑茶の会社で、農家と高品質の緑茶の栽培に大きく依存していますが、当然、日本国内の農村の縮小という問題に直面していました。農家の数が減少し、農業に関心を持つ若者が減っていました。その結果、現実問題として、耕作されている土地の面積が縮小していました。そのため、伊藤園はその事業と戦略の中核である高品質の原材料を十分に調達できないという深刻な問題を抱えていました。そして伊藤園は、これは政府やNGOの問題ではないと判断しました。これは基本的に、優れたビジネス戦略によって解決すべき問題であると考え、お茶の栽培と収穫にかかわる、これまでよりはるかに先進的で高度な方法を農家の人々に教える計画を実施しました。

これによって活気が生まれ、それまでは引退する親の後を継がずに都会に出る若者が多かったのが、農業に関心を持つ若者が増えました。その結果、農家の収入が上昇しました。この仕事の魅力が高まったため、これを続ける人がどんどん増えていきました。生産量が上昇し、放棄されていた土地で再び生産が行われるようになりました。つまりこれは、農村に大きな影響を及ぼした例です。地域社会で働く多くの人々に重大な影響を及ぼし、彼らの収入を上昇させ、仕事の満足度を高めました。伊藤園は、おかげで非常に強力なビジネスの強みを持つようになりました。より高品質な原料の供給を確保し、サプライヤーの基盤を拡大し、より安定した供給と、低いコストを実現することができました。農家の効率が高まると、コストは低くなるからです。

CSVの浸透

これはたくさんの例のひとつで、CSVのコンセプトを理解し、活用する企業は今も増え続けています。この考え方に興味を持ち、ビジネスに生かしたいと考える方がこの会場にもいることを期待しています。また、将来的には、このポーター賞と、日本の産業における革新と戦略のレベルを引き上げる継続的な努力の中で、CSVにもっと注目できることを願っています。

このように間接的な形ではありますが、皆さまとお話しできたことを嬉しく思います。来年はぜひ私もそこに行けることを願っています。受賞者の皆さんにお祝い申し上げ、これが皆さんにとってすばらしい会になることを願っています。どうもありがとうございます。

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第19回 ポーター賞 応募期間

2019年5月 7日(火)〜 6月 3日(月)
上記応募期間中に応募用紙をお送りください。
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