受賞式・カンファレンス
受賞企業の戦略 ?受賞企業トップのスピーチ(録画)・視聴者とのQ&A?
株式会社トリドールホールディングス 丸亀製麺事業(株式会社丸亀製麺)
- 何故、他社は同じようにできないのでしょうか?
- 他社は、「できない」ということよりも、「やりたくない」ということで、それが、丸亀製麺の独自性を作っています。
例えば、丸亀製麺はセントラルキッチンを使っていません。うどんは、最もセントラルキッチンを使いたくなる業態ですが、丸亀製麺は使いません。讃岐うどんは茹でるのに15分くらいかかりますが、待たずに提供されます。なぜなら、注文の前から茹で始めているのですが、それには正確な需要予測が求められます。丸亀製麺は、他社がやりたがらない非合理的なことを、意図してやっているので、マネする企業が現れないということだと思います。
- 低価格と高収益をどのようにして両立しているのででしょうか?
- 低価格ですが、意図してコストをかけているところもあります。それでは何故、丸亀製麺は業界平均を大きく上回る利益を上げているのか、益々不思議です。
丸亀製麺の戦略が秀逸なのは、時間を味方に付けている、ということです。
例えば、回転率です。ファーストフードと比べても、高くなっていると思います。客単価は低くても、時間当たり席単価は、他社の2倍、3倍になっていると思います。
天ぷらも店舗で作っており、確実に売り上げに貢献しています。
カラダに優しいうどんは、お客様の来店頻度を上げる効果があり、さらに、子供からお年寄りまで全ての層を顧客として取り込んでいます。
これらのことが重なり、低価格でコストをかけても利益が出る構造になっていると思います。
- 麵職人という仕組みが人材育成の肝と思いますが、きっかけはなんでしょうか?
- 粟田社長に聞かなければ分かりませんが、私なりに考えてみました。
セントラルキッチンを使わない等の丸亀製麺独特のオペレーションは、どうしてもムラが出ます。そのムラは、人のスキルで補正しなければなりません。人材育成のための投資が必要となる「麺職人」という制度が戦略的に必要であり、それが「美味しいうどん」という強みになる、という好循環を生み出していると思います。
- 麺匠についてです。麺職人は各店に一人いますが、麺匠は会社全体で一人しかいません。
そこには、キーパーソン・リスクがあるのではないですか? - 私が推察するところでお答えします。
「時計を二つ以上持っている人は、正確な時間が分からない」というのが答えだと思います。
丸亀製麺は、数値化できない「味」が決め手です。一人の麺匠が管理することにより、各店舗の「味」をコントロールしやすいと思います。
まとめ
丸亀製麺のビジネスは、私の大好きな戦略です。「非合理の理」が感じられることに痺れます。うどんでチェーン展開しようと考えた人は沢山いると思いますが、その人たちが、「やろうとしない」、「やりたくない」ことをやっている。一面的には非合理なことが、戦略ストーリー全体でとらえると、強烈な合理性を発揮しています。非常に素晴らしい戦略であると、つくづく感動しました。
株式会社ミルボン
- 美容室にアドバイスすることにより、美容室のサービスの質が向上し、ミルボンの商品が売れる、という構造ですが、このコンサルティング・サービスを事業として独立させたらどうでしょうか?
- ミルボンは、美容室に対し増収増益の機会、武器を提供しています。私もこの質問と同じことを考えたことがあり、佐藤社長にお聞きしたところ、「美容室に対するアドバイスは、顧客目線で開発した商品と一緒になって威力を発揮するものです」、と言っていました。
新しい技術は、美容室の増収増益にとって重要な要素です。例えば、ヘアカラーの技術は日進月歩だそうですが、ミルボン商品を使い、ミルボンが指導する技術でやると、一流デザイナーと同じカラーリングが可能になるそうです。つまり、商品と切り離したコンサルティングだけでは、このような価値は生み出せないということです。
- 化粧品に進出することにより、ヘアケア商品に絞るという戦略のユニークさが失われてしまわないでしょうか?
- ご質問で指摘されているのは、商品のフォーカスが甘くなるのではないかということです。
ミルボンが本当に売っているものは、商品ではなく、美容室の増収増益の機会、ノウハウの提供です。どうすればお客様に商品価値を伝えられるか、お客様が使いたくなるかを掴むことが、美容室の重要な価値であり、そのノウハウをミルボンが持っています。共同で商品開発したコーセーにとっては、ミルボンと組むことにより初めて得られるものがあり、ミルボンにとっても、今までのヘアケア商品の市場を損なうことなく、新しい市場を作ることができます。つまり、化粧品への進出は、これまでの戦略に合致していると思います。
- ミルボンのように、完成された戦略と、それを実践する仕組みを持ったリーダー企業において、戦略を崩さないで成長する事については、どのように考えれば良いのでしょうか?
- ミルボンの戦略は完成されていると言えます。実際に業績をみると、高い水準を長期的に維持しています。独自の価値を作り、顧客に届けている証明です。今後の成長の可能性については、ビデオで佐藤社長が仰っていた海外展開が期待できると思います。国内で完成された戦略のストーリーを、そのまま海外で展開しようとしていることは、かなり画期的です。これまで、生活分野の企業が海外展開する場合、国内での戦略を現地に合わせモディファイするケースが多くありました。ミルボンは、国内で成功した戦略をそのまま、アジアを中心に海外展開しようとしています。IRでも、海外に強気の目標を掲げており、十分な期待が持てると思っています。
まとめ
顧客価値の定義が独自で明解、トレードオフがはっきりしている、絞り込むことによって成長の余地が見えている。ポーター先生の競争戦略の基礎を、強烈に実行しています。
株式会社ヤッホーブルーイング
- ビールの購入意向の一番は「味」ではないかと思うのですが、イベントにヒトと時間が必要になり、一見すると「一番の購入意向決定要因に寄与しない」コストになってくるように見えます。それをどこまで追求すべきでしょうか?その他企業もここまでやるべきなのでしょうか?
- ヤッホーがビール会社で、ビールを売るためのプロモーションでイベントをやっているのであれば、当然の疑問です。しかし、実際は主従関係が逆です。ヤッホーが価値として考える、幸せな経験やエンターテインメント、日常生活における喜びを提供する手段としてビールを選んでいる、ということです。つまり、エンターテインメントが本業です。
イベントの他にも、日常やっていることでビックリしたことがありますので紹介します。
南極観測隊に所属しているお客様から、南極への派遣が決まったため、年間契約退会の相談をいただいたそうです。これを聞いたスタッフは、出発日をお伺いし、遠い新天地に向かうお客様に"エール"を送るため、長野から成田空港まで、「よなよなエール」とともにお見送りしたそうです。このようなことを積み重ねて、井手社長のいう「らせん状の循環」が起きていると思います。
- クラフトビールは、少量多品種であるがゆえに、大手のコモディティ商品と差別化が図られていると考えているクラフトビールファンも多いと思います。チャネルを拡大していろいろな所で手に入るようにすると、ビールの価値を広く伝えられるメリットがある一方で、コモディティ化のリスクも抱え込むことになると思います。どのようにバランスを取れば良いと思われますか?
- ヤッホーの目指すところが、クラフトビールを売ることであれば、そのような懸念が生じます。例えば、一部の非常に尖った日本酒は、希少性が価値になっています。
ヤッホーは、クラフトビールの文化や経験を売っているので、顧客が増えることはビジネスの脅威にはならず、ファンが増えることは全面的にプラスです。
- 製造委託により、ヤッホーの製造ノウハウや製品ノウハウの流出が起こることはないのでしょうか?キリンビールにとっても、自社商品の売り上げを下げることになるのでは?この共存共栄は維持できるのでしょうか?
- キリンビールにとっては、売上規模が違いますから自社商品への影響は気にしていないと思います。逆に、固定資産の稼働率を高めるというメリットがあります。
ヤッホーにとってポイントは二つあります。一つ目は、急激に成長したので、工場を作るほどの資金的余力がない状況で生産委託を選んだということです。このまま成長を続けた時に、工場を建て生産を内部化することもあり得ると思います。しかし、その資源を工場に投下するのが良いのか、別のことに使うのが良いのか、という選択が生じます。これが二つ目のポイントです。もし私だったら、多くのファンがいるビールを、その文化の中で楽しめる場、飲む場所を作りたいですね。
まとめ
この10年、15年、製造業の方が、「これからはモノよりコト」と言ってますが、本当に実践している会社がヤッホーです。市場の拡大が期待できない状況では、市場の濃縮、濃いコミュニティを作ることによって収益化する。新しい時代の製造業の見本といえる会社です。
楽天銀行株式会社
- 他の受賞企業に比べて模倣障壁が低いように感じます。googleやアップルなどの電子決済もグループ顧客を取り込んでスケールメリットをすぐに出しやすいです。これら急成長している決済サービスにとって、模倣障壁は何でしょうか?
- 当たり前ですが、楽天銀行は銀行であるということ、銀行がサービスの一つとして決済サービスを行っていることが、googleやアップルとの違いです。
インターネット銀行の中で楽天銀行がユニークなのは、セカンドバンクではなく、ファーストバンクとしてポジショニングしていることです。ありとあらゆる銀行サービスを楽天銀行は提供しています。
例えば、楽天銀行は預貸率が高くなっています。顧客の生活ニーズに対する理解が深いので、融資するチャンスも見出しやすく、融資も力を入れてやっているのです。
- 楽天銀行はグループ・シナジーを活用して急成長しましたが、今後の成長の可能性をどこに見ますか?
- 銀行業界の方は、「顧客囲い込み」や「クロスセル」ということを言います。しかし、囲い込みというのは顧客にとってうれしい話ではありません。本来、顧客は、はっきりしたお得がないと動かないはずです。楽天銀行の場合は、楽天グループのユーザーを対象にポイント等の方法によりお得を作り出し、集客しています。結果として囲い込めていると言えます。
クロスセルについて言うと、永井社長は「送客」と言っていましたが、既存の銀行のクロスセルは金融サービスでのクロスですが、楽天銀行の送客は金融に限らず生活全般の事業を対象におこなわれており、成長の可能性を感じます。ですから、目先の成長としては、楽天グループ外の顧客の取り込みよりも、グループ内のライトユーザーをヘビーユーザー化することが重要だと思います。
もう一つ忘れてならないのは若い顧客が多いことです。既存の銀行は、既に資産を形成した中高年がメインになっていることを考えると、ここも成長の可能性を感じさせます。
- オペレーションの効率化によって同業他社よりもBetterであることは理解できますが、楽天銀行がDifferentである点はなんでしょうか?
金利以外で提供サービスにおける他社と違うユニークな点は何でしょうか?ネット銀行の中で、他社と違う点はどこか? - 楽天銀行のお得な点、利回りがいい、ポイントが有利などの、表面に見えるものは、Differentというよりもbetterです。楽天銀行の戦略が優れているのは、他社と明確に異なる選択をしていることで、システムの内部化がそれにあたります。社内にエンジニアを大量に抱え、ユーザーインターフェイスを始め、多くのことを自前でやっていることは、Differentであると言えます。
一つのアプリで全てのサービスを使えるという利便性がありますが、どういうユーザーインターフェイスが良いのか、顧客は何に反応するのか、実際にデータを見ながら改善しています。社内にエンジニアがいることが、これを低コストで素早くできる源泉となっています。今、DXと言われていますが、ベンダー丸投げという会社が多く、戦略のストーリーの中に位置づけらえていないと思います。
インターネット銀行はデジタルが競争力の中核にある訳ですから、楽天銀行が人材の内部化も含め多くの投資をしていることは、日本企業が学ぶべきことと思います。
まとめ
トレードオフは戦略の基本ですが、楽天銀行はその素晴らしい例だと思います。ネット銀行は多くの企業が注目し参入していますが、ネット専業だからできる事を突き詰めた、ポーター賞にふさわしい戦略を持っています。
受賞企業・事業部 PDF
- 第20回ポーター賞受賞企業・事業PDF (当年度の全ての受賞企業が掲載されています)