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2021/01/28 お知らせ

シリーズ 競争戦略のダイナミズム『株式会社堀場製作所』

2005年にポーター賞を受賞した堀場製作所が、「受賞後、どのように強みを維持強化したのか、環境変化にどのように対応したか、どんな変化を起こしたのか」を、代表取締役社長 足立正之氏に、ポーター賞運営委員の大薗恵美、一橋大学教授がインタビューしました。

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堀場製作所は、周辺領域への拡大によって付加価値を高めて利益率を改善しつつ成長した例です。同社は、「はかる」コア技術を持った会社であり、エンジン計測システム機器事業が受賞しました。今はエンジンに加えて二次電池や燃料電池、材料からセル・モジュール、駆動系、車輛までの分析・開発支援ができます。また、機器単品でなくシステムで提供するという受賞時の戦略がさらに進化し、機器を売ることなくサービスだけ提供する事業も進めています。

この変革を支えたのは、理想の顧客支援体制からバックキャストし、成長に必要な組織能力を買収により手に入れ、システムやサービスとして提供できるだけの高いレベルで統合する力でした。


成長を続ける5つの事業セグメント

大薗
2005年にエンジン計測システム機器事業でポーター賞を受賞されました。堀場製作所は「はかる」をコア技術にした計測機器メーカーとして創業されましたが、今はどのような事業を手掛けていますか?


足立
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5つの事業セグメントがあります。受賞事業が含まれる「自動車計測システム機器」の他「環境・プロセスシステム機器」「医用システム機器」「半導体システム機器」「科学システム機器」です。
[2021年1月、セグメント名を「自動車」「環境・プロセス」「医用」「半導体」「科学」に変更しています。]

環境・プロセスでは大気、水質、土壌の計測に幅広く対応する分析・計測機器を供給しており、環境規制関連需要と環境管理を通じた産業プロセス改善の需要に対応しています。特に水質管理では、これまで、半導体製造関連、環境管理関連など用途別の事業部に分散していたビジネスを、グループ会社である堀場アドバンスドテクノに集約しました。

医用は堀場製作所とともに、1996年に買収したホリバABX(仏)にコア技術があり、血液の測定を中心にヘルスケア分野でグローバルに貢献しています。コロナ禍において各国での活動が制限される中、医用事業は生活に必須である「エッセンシャル・ビジネス」として認められ、活動を止めずに貢献しています。

半導体事業での主力製品はマスフローコントローラーですが、それ以外にも、薬液濃度モニターや、光の技術を使った計測機器もあり、まだ成長すると思います。


受賞した2005年からの変化としては、連結で売上は年平均5%成長、右肩上がりで来ています。リーマン・ショック後はかなり落ちましたが。2015年のMIRA(現ホリバMIRA(英))の買収、2016年の滋賀県のびわこ工場「HORIBA BIWAKO E-HARBOR」の開設、2018年のバッテリー試験装置や燃料電池試験装置の開発・製造・販売を手掛ける、FuelCon(現ホリバ・フューエルコン(独))の買収などを進めてきました。事業買収などは他にもあります。


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自動車事業の展開 ...エンジン開発に必要な設備全体へ

大薗
自動車事業の展開について、2005年以後を中心にお話いただけますか?


足立

今から思うと、2005年にカールシェンク(独)の自動車計測機器事業、メカトロニクス(MCT)事業を買収したのが、実はかなり大きな方向転換でした。伝統的には、規制対応のためのエンジン排ガス測定装置を中心として事業を展開していましたが、エンジン開発そのものでも排ガス計測が必要であり、エンジン開発支援のための分析・計測に事業を拡大していきました。ポーター賞をいただいた頃には、エンジン開発に必要な周辺の設備も全部HORIBAで提供できるようにしようと決め、取り組んでいました。

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「エンジン開発に必要な周辺の設備も全部」とは、エネルギーがエンジンシステム全体、つまり、燃える、熱になる、力になる、ホイール(タイヤ)まで伝わるプロセスをカバーするようになったという事です。それまではガスを測る事が中心だったので、「そこまでやるのか?」という議論も社内にあったくらいです。今のエンジンシステムには、トルク、触媒など、数えきれないくらい多くのパラメータがありますが、お客様は、その最適化に多くの時間と資金を使っています。これらのパラメータを、開発プロセス全体を通じて測定し、シミュレーションする必要があるのです。試験ラボでは、モーターが道路の負荷を疑似的に作り出したり、エンジンの代わりに動力を車輪に伝えたりします。実際にエンジンを試験ラボ内で動かすことをしなくてもいいのです。シミュレーションする事で、エンジン、さらには車の開発に貢献できるようになっています。以前はエンジンができるまで待たないと駆動系の開発ができなかったのですが、今は目標指標を決めれば、モーターがエンジンの役割をしてくれるので、バーチャルな形で車全体が開発できる環境を提供できるようになりました。エンジンだけ、つまりフル燃焼エンジンであろうが、バッテリーとモーターの両方、つまりハイブリッドであろうが、ピュアEVであろうが、シミュレーションでできるのです。これをハードウエア・イン・ザ・ループ、「HILS(ヒルズ)」と呼んでいます。


そうなると、全体をコントールするソフトウエアが非常に重要になります。そのソフトウエア、テストオートメーションシステム(TAS)は弊社のイギリスのウースターにある拠点が中心になっており、世界のソフトウエアエンジニアを統括しソフトウエアの開発をリードしています。お客様によって車の開発の仕方、開発の工法、文化が違い、それがテストオートメーションシステムに反映されていなければなりません。お客様と一緒に少人数でソフトウエアを作り込んでいく事は、最近ではAgile開発と呼ばれていますが、弊社では本当に昔から、1980年代くらいからしていた事です。 思えば、エンジンシステム全体の開発支援へと事業領域を広げると決めた時から、自動車の電動化への対応はある程度始まっていたのです。これがなかったら電動化への対応はできていなかったのではないか、実はこの時大きな決断をしていたのではないかと、今になって思います。排ガス計測だけに留まっていたら、自動車が完全電動化した場合には仕事がなくなってしまいます。


研究開発志向のグローバル企業をM&A

大薗
エンジンシステム全体の開発支援へと事業領域を広げるには、国際的な買収が大きな役割を果たしたようですね。


足立

自動車事業に限らず、グローバルな買収はHORIBAの一つの特徴だと思います。1992年に現堀場厚会長が社長に就任してから、グローバリゼーションが加速しました。1996年と1997年にABXとジョバンイボン(Jobin Yvon)というフランスの2つの会社を買収しました。それぞれ、メディカルと光学技術(オプティクス)の会社です。両社とも、買収後も成長を続けています。光学技術の主な用途は先端素材開発やライフサイエンス分野で、アカデミアとの協働も多い分野です。お客様に特化したカスタマイズもしていて、半導体製造に使われる分光器などは堅調です。特に成長しているのがライフサイエンス分野で、このコロナ禍、フランスでもアメリカでも「エッセンシャル・ビジネス」と認められ、工場を止めずに供給を続けています。


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自動車事業では、2005年にカールシェンクのメカトロニクス事業、2015年にホリバMIRA、2018年にホリバ・フューエルコンを買収、事業の範囲を拡大してきました。ホリバMIRAは自動車の開発に関する試験環境の提供や自動車開発コンサルティングを提供しており、延べ100kmのテストコースがあります。ホリバ・フューエルコンを買収したモチベーションは、技術を手に入れたかったからです。ホリバ・フューエルコンの保有技術はリチウムイオン、全固体電池、燃料電池の研究で必要な素材の計測もカバーしています。2018年はリチウムイオン電池向けのビジネスが多かったのですが、2019年には燃料電池向けが多くなり、主たる市場が入れ替わりました。需要増加に伴い、工場も拡充しています。また、昨年(2019年)、ホリバ・フューエルコンの技術をびわこ工場「HORIBA BIWAKO E-HARBOR」にある自動車開発試験設備「E-LAB」に導入しました。このE-LABはショールーム的な目的が強いですが、実際に実験もしています。E-LAB内にある電動化車両用バッテリーや燃料電池などの評価試験室から隣の駆動系のラボに動力を送るなど、車がなくても車両開発の実験ができる環境を作りました。


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これらの買収の結果、売上が増えましたが、同時に利益率をしっかり維持しています。 買収したのは、HORIBAと考え方が似た会社が多く、研究開発志向でグローバルに売っている企業ばかりです。その結果、会社全体で日本人の割合が減少しました。しかも、ナレッジワーカーばかりです。ナレッジワーカー中心でこのような日本人外国人の従業員割合になっている会社は珍しいのではないかと思います。このようなグループ会社を軸に、研究開発、生産設計、営業、サービスをお客さんの近くで提供できるように、ローカライズしていきます。コストダウンだけを目的としたローカライゼーションはしません。それをすると我々の付加価値がなくなると考えています。


5つの事業セグメントをつなぐ "Market Oriented Business"

大薗
堀場製作所は計測機器単品でなくシステムで提供するという必要性もあってか、以前から、グローバルなチームを形成するのが上手でした。受賞当時は、バーチャル・グローバル・チームを様々作って、横串を通していました。現在はどのようにしているのですか?


足立
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昨年(2019年)に策定した2023年までの中長期経営計画の3つの重点施策の一つになっています。3つのポリシーとは、「Market Oriented Business」。二番目が「Solution Provider Beyond Life Cycle Management」。XaaS的なこと、データマネジメントビジネスを進めていきます。3番目が「The Next Stage of Super Dream Team」で、強い人財を作っていこうという取り組みです。「ブラックジャックプロジェクト」はHORIBA独自の業務改善活動で、グローバルにグループ全体で展開しています。新入社員も含め、職場の問題改善を提案できるシステムで、現場の最前線の情報を経営陣と共有する場です。毎月開催されるトップ報告会には堀場厚会長をはじめ、トップマネジメントが必ず出席します。1997年に始めて20年間継続しており、HORIBAの企業文化として定着してきました。「ステンドグラスプロジェクト」は、ダイバーシティを推進しています。ステンドグラスの個々のガラスは様々な形や色があるけれど、集まったらきれいな絵として見える、という意味。いずれも堀場厚会長が名付けました。これらの活動は外部からも評価され、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「なでしこ銘柄」と「健康経営銘柄」に選ばれています。

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ご質問に関係するのは、一つ目の「Market Oriented Business」という重点施策です。5つの事業セグメントの間に壁ができはじめてしまっており、これをどう取り除いていくかを考えました。そこで会社としてめざすマーケットを明確にし、それを3つのフィールドという言葉で表現しています。3つのフィールドは、Energy & Environment(自動車計測、環境、科学セグメント)、Materials & Semiconductor(半導体、科学セグメント)、Bio & Healthcare(医用・科学セグメント)です。5つのセグメントを無くすのではなく、3つのフィールドに技術・営業・サービスのリソースをどのように共有できるかを考えます。これら3つのフィールドは人類がいる限りなくならない、エッセンシャルなもので、長く貢献していけると考えたのです。

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ガスの流量制御技術、赤外線計測と赤外線以外の分光分析、粒子径分布計測、電気化学分析のグローバルR&Dは、それぞれに主に使われる事業分野がありましたが、そこだけに留まってしまっていたのをつなげようとしています。


HORIBAは、地域と事業部門でマトリックス組織になっており、さらにセグメント間のつながりを強くする「クロスセグメント」が定着してきています。実はこれまでも言い続けていて、なかなか定着しなかったのですが、ようやく皆が可能性を再認識し始めたと感じています。年2回のグローバル・ミーティングでは、他のセグメントの議論も全員が聞きます。これも昔からですが、クロスセグメントの浸透で、「この技術うちでも使える」などと気づくようになりました。社会が変化する中で、自分たちの機会が様々な側面から見えてきたのだと思います。典型は自動車です。今まで燃料を燃やして動力を得ていたものからの電動化へのシフトで、自動車セグメントのメンバーも化学や電気に強い興味を示すようになってきたと思います。お客様が変わっていく中で、素材を提案する一方、お客様側でも「HORIBAがソリューション持っているのでは?」という反応も見えてきました。


データマネジメントビジネスの確立

大薗
サービスについてもお話いただけますか。単品からシステムへと拡大されてきた御社の次のステップは「サービス」という事でしょうか?


足立
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中長期経営計画ではライフ・サイクル・マネジメントと表現していますが、データマネジメントビジネス確立への取り組みは始めており、クラウドを用いたデータマネジメントサービスやリモートでの機器メンテナンスなどを手掛けています。

たとえば、医用機器で展開しているのが、「HORIBA MEDISIDE LINKAGE」です。水質計測も1点で測るのではなく、多数の現場からのデータを、クラウドで情報管理できる「HORIBA AQUA LINKAGE」も進めています。

自動車には、「STARS ENTERPRISE」というデータマネジメントシステムを提供しています。これは、お客様の試験ラボ全体のオペレーションを最適化するソフトウエアシステムです。自動車会社の研究開発ラボには、エンジン・セル、シャシー・セルなど、セルがいくつもあります。エンジン・セルだけでも、グローバルに管理すると1,000拠点ほどもあります。この全体を統括して、それぞれのセルがどういう実験をしているか、メンテナンスの必要性、ガスボンベをはじめとする消耗品やスペアパーツ供給、さらには「セルを休ませた方が良い」などの実験計画も提案します。また、取得したデータを一元管理できるデータベース・システムも提供します。お客様は、インターフェースに付加価値を求めるようになってきています。数多いテストセルをどれだけ効率よく動かして、限られた時間にどれだけ質の良いデータを得られるかが、自動車計測の最終的な価値になるのです。


この流れはビジネスモデルの変革です。これまでも取り組んでいましたが、今やビジネスの主流になってきているのです。お客様に提供するのは「ラボの効率」です。「はかるEXpress」は水質計測で進めているビジネスモデルで、データマネジメントサービスです。分析計を購入していただくのではなく、機器の使用料金をいただきます。そのデータマネジメントビジネスの発信基地とするべく、本社の南側に「堀場テクノサービス」の本社を建設し、事業の強化を狙っています。


エネルギーが使われる限りHORIBAのビジネスがある

大薗
自動車の電動化には、電力の発電時から車の稼働時までの環境への影響が検討されるなど、測定の範囲が広がっていますね。


足立

自動車事業の中長期経営計画では、3つの事業領域に注力しています。

1 エミッション(排ガス計測)、燃焼エンジン開発

2 xEV(電動化)

3 自動運転、サイバーセキュリティ、ビークル・レジリエンス

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つまり、電動化した車は、情報セキュリティや電磁波の影響に対する安全を確保しないと安心して使えないことから、対策を考えるものです。

Energy & Environmentというフィールドには、自動車、環境・プロセス、科学が入っていますが、HORIBAは、「つくる、ためる、つかう」のエネルギーの流れ全体に対してからんでいる唯一の会社かもしれないと思っています。発電所からの排ガス計測、エンジンからの排ガス計測に加え、電池、燃料電池の素材、電極、触媒の開発に我々の分析計を使っていただいています。電動自動車の制御に対するソリューション、燃料の分析においても、です。エネルギーが使われる限り、どこかでは役に立てるのではないかと思っています。


途上国でも求められる技術

大薗
今後の成長は途上国から、と言われますが、価格圧力もあるのではないでしょうか?


足立

途上国の規制が先進国と変わらない厳しいレベルになっているので、使われる技術は先進国で使われるものを持っていかないと規制をクリアできません。途上国だから安価なもの、イージーなもの、ではないのです。インドでは、今年(2020年)からEUと同等レベルの非常に厳しい自動車排ガス規制の導入が予定されています。エンジンシステムだけでなく、燃料の品質も先進国並みを求められます。つまり、先進国と同じレベルの分析・開発インフラが求められるのです。2019年インド拠点のエンジン・シャシーテストセルを拡充しました。インドの規制が厳しくなってきた事と、インドの自動車開発技術が先進国並みになってきたからです。中国では、上海の北にHORIBA史上最大の中国拠点を建築中です。全セグメントが入り、試験ラボを設置する予定です。


トレードオフ ...研究開発向けの高付加価値なビジネスが強み

大薗
堀場製作所は受賞時にシステム納入に軸を置き、計測機器単品をトレードオフしていましたが、トレードオフについて、新たな気づきや変更はありましたか?


足立

ドライブレコーダーに関する事業からは撤退しました。BtoCに近いものはうまくいかなかったです。何十年も続けていた基礎技術を背後に持っていましたが、最終的には止めました。研究開発向けの高付加価値なビジネスが我々の強みと決断しました。2005年の時も申し上げたように、低コスト国で安い製品を製造するようなことは未だにやっていません。


インタビュー後記
大薗

ポーター賞受賞事業である自動車事業を中心にインタビューさせていただきましたが、堀場製作所の「はかる」コア技術の幅の広さが、自動車産業の技術変革に対応する力になっていると感じました。

これらの基礎技術はそれぞれ、別の事業分野で使われ、育ってきたものです。エンジン開発支援の試験ラボというシステムの開発の際にもそうであったように、国際的、かつ、多様なナレッジワーカーが協働できる事が、堀場製作所の強みだと感じます。創業者の堀場雅夫氏の残した「おもしろおかしく」という社是、さらに堀場厚会長が多様性を「ステンドグラス」と表現されて様々な活動をされていますが、ナレッジワーカーのやりがいを引き出す社風が支えになっているようです。


(オンライン・インタビュー、2020年4月15日実施)

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