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受賞企業・事業部レポート

YKK株式会社 ファスニング事業

2014年度 第14回ポーター賞受賞 ファスナー製造販売業

ファスニング業界におけるグローバル・リーダー。ユニークなバリューチェーンを持つ。

YKK株式会社ファスニング事業(以下、YKK)は、ファッション、スポーツアパレル、産業用資材などの、中・高級品市場において特に強みを持つ、グローバル・リーダーである。
特に、高機能、ハイファッション分野では、競合の追随を許さない。また、同社は、ファスナーにおける技術リーダーでもあり、例えば、宇宙服用のファスナーを供給している。
YKKのファスニング事業は、世界70か国・地域に拠点を持ち、「顧客のそばでつくって売る」という方針に基づき、顧客の近くから、個別顧客対応を行っている.
徹底した垂直統合(自社技術に基づいた、材料から製造設備、製品までの一貫生産)によって、高機能な製品、安定した品質、コスト競争力を得ている
これらの特長は、ファスナーという事業にとって、非常に重要である。ファスナーは、多くの顧客にとって、コストに占める割合は低いが、故障すると製品が機能しなくなることが多く、顧客ブランドのブランド価値を棄損するという特徴を持つ。 縫製が多少歪んでいても服は着られるが、ファスナーが壊れると着ることができない。バッグにとっても、ファスナーは壊れやすい個所である。

ユニークな価値提供

YKKは業界で最も幅広い製品ラインを持ち、最も幅広い顧客に対応しているが、市場のローエンドを除き、それぞれの分野において競争優位を確立している。
YKKは、高い品質の商品、多様な品ぞろえ、安定しかつ即応性の高い供給能力、顧客ニーズに対応できる製品開発能力を有している。

ファスナー市場は多様であり、YKKは多様な顧客の多様なニーズに、ワン・トゥー・ワン・マーケティングで対応している。それぞれのセグメントには、異なる顧客の異なるニーズがある。
高級ファッション・セグメントは主に欧州に顧客がおり、ファッション感覚と高級感が求められる。スポーツアパレルの顧客は、主に北米におり、高機能を求めている。ファスト・ファッション向けの縫製サービスを提供している顧客は、中国、東南アジア、南アジアに広がっており、幅広い品揃えと価格競争力を求めている。
新興国の国内市場むけのアパレル製品を製造している顧客は、低価格を求めている。また、顧客には、グローバル展開している顧客と、それぞれの国内市場だけに対応している顧客がある。
ファスト・ファッションの業界では、アパレル企業は欧州に所在しているが、縫製サービスを提供している企業(YKKの直接の顧客)は、アジアにいる。
産業用資材のセグメントの顧客は、更に多様である。自動車用シートのメーカーから、宇宙服(与圧服)やH-?Aロケットのサーマル・カーテン、明石海峡大橋の排水溝、牛乳運搬用のタンク、漁網のような特殊用途までも含む。
YKKの製品ラインは、標準製品とカスタマイズ製品からなっており、数万点におよぶSKUを持つ。

独自のバリューチェーン

YKKのバリューチェーンは、垂直統合という特徴を持つ。同社は、業界で最高の品質を維持するために、素材、製造機械、ファスナーを自ら製造する。研究開発は、金属、樹脂、繊維のような素材技術までもカバーする。

製造
アパレル製品の製品ライフサイクルは短く、これに対応し、また、全ての顧客に同じ高い品質の製品を供給するために、同社は製造機能を顧客の近くに置いている(YKKは39か国・地域で製造している)。
同社は、自社で製造機械を開発し、ほとんどのプロセスを自動化している。また、同社の製造は、幅広い製品ラインに対応するために、柔軟である。工機技術本部が製造技術と製造機械の研究開発、製造を担当しており、世界中の工場に製造機械を供給している。
研究開発
YKKは、長期的なファスニング関連技術の研究機能を備えたR&Dセンターを日本、米国、イタリア、台湾、インドネシアの5拠点に有している。さらに、15拠点に商品化開発拠点を持ち、2014年度末までには5拠点を追加して合計20拠点になる予定である(トルコ、インド、バングラデシュ、ベトナム、ブラジルの5か国。中国からアセアン、南アジアへの縫製工場の拡散に対応するため。)これらの海外拠点では、現地の顧客の要望に応えるために新製品開発が行われている。欧州の開発拠点は、高級ブランドのバッグや、高級ブランドのアパレル製品に特化しており、多くの高級ブランドを顧客に持つ。北米では自動車シートに布製などのカバーを固定するためのファスナーや、そのファスナーをシートに固定するための機械の開発を行っている(機械はシート・メーカーにリースされる)。上海の開発拠点には、ファスト・ファッションの顧客に特化する開発チームをおき、幅広い品揃え、安い価格と短納期(たとえば受注から5日以内に納品)を提供している。
日本の研究開発拠点は、コアな要素技術の開発を担っており、さらに、世界の研究開発拠点に対して開発のヘッドクォーターとしての役割を果たしている。

マーケティング・セールス
YKKは、顧客の要望に従って製品をカスタマイズする。顧客の近くに配した70か国・地域にある生産・販売拠点が、迅速な対応を可能にしている。グローバルな顧客の中には、60か国以上にある2000以上の縫製工場と取引をしている場合もある。香港に本部を置くグローバル・マーケティング・グループ (GMG)が、約50のグローバル・アパレル企業と、約700のグローバル・ベンダーを担当している。GMGの担当が各グローバル・アカウントにつき、世界共通の製品、世界共通の品質が確保されるようにしている。具体的には、グローバルなアパレル企業と、新興国にあるベンダーの両方とコミュニケーションをとり、一貫性のあるサービスを提供している。グローバル規模のアパレル企業にこのようなサービスを提供できるのは、業界でYKKのみである。

人的資源管理
YKKは若いうちに社員を海外拠点に送り、長く現地に赴任させる方針である。10年、15年と赴任歴は長く、時には20年以上、現地に赴任することもある。これらの従業員は、深く現地に根付き、「土地っ子になれ」と奨励される。これは、YKKが人材育成には、実践が最も有効だと考えているからで、この人材育成方針を同社では、「野戦の一刀流」と呼ぶ。現在は、野戦の一刀流はオフ・ザ・ジョブの教育制度によって補完されており、これは、「道場の一刀流」と呼ばれている。

全般管理
YKKは地域別組織を採っており、1)北中米、2)南米、3)EMEA(欧州、中東、アフリカ)、4)中国、5)アジア、6)日本、の世界6極経営体制である。個々の地域には権限が委譲されており、各地域の顧客に固有のニーズに対応することを可能にしている。
YKKは、企業理念として、YKK精神「善の巡環?他人の利益を図らずして自らの繁栄はない」を掲げており、その国・地域の企業として現地の社会、経済に貢献することを重視している。この精神に則り、YKKは、地域経済に貢献できるよう、海外進出時には産業開発地域を選択してきた。また、海外で得た利益は現地に再投資して日本に持ち帰らない方針である。海外拠点で事業が縮小しても撤退せず、その地で事業を継続し雇用を維持する方法を考える。これは、日本国内にも適用され、YKKは、研究開発機能とマザー工場がある黒部(富山県)を技術の総本山と位置付け、ものづくりの現場を日本からなくさない方針で維持している。さらには、本社機能の一部を東京から黒部に移転も進めている。
YKKの役員は、YKK精神「善の巡環」、経営理念「更なるCORPORATE VALUEを求めて」、コアバリューを従業員と共有するために、多くの時間を割いている。YKKのコアバリューは、「失敗しても成功せよ/信じて任せる」「品質にこだわり続ける」「一点の曇りなき信用」である。「一点の曇りなき信用」は、1973年に始まるオイルショック時に、創業者の吉田忠雄が下した方針、「例え100億円損をしても、便乗値上げはしない」以来、受け継がれている。本稿に挙げるトレードオフのリストは、企業理念と価値観が同社のユニークな競争戦略の形成に影響してきたことを示している。
YKKは1934年に創業したが、以来、非上場を選択している。これは、創業者吉田忠雄が「株は事業の参加証」と考えたためで、従業員持ち株会を始めた。この方針は続く代々の経営者に引き継がれ、現在、同社の筆頭株主は社員持ち株会である。
創業者は、従業員の経営参加もまた、求めた。彼は、YKKが目指す姿を「森林のような組織」と表現し、若い木も経験を積んだ木も、背が高い木も低い木も、それぞれが個性を活かして自律的に成長すれば、組織は森林のように活力が溢れ、社会に貢献できると考えた。職位や専門に関係なく、誰もが自由に発言できる会社でありたいと考えた。

活動間のフィット

YKKファスニング事業の活動は、1)カスタマイゼーションを可能にする柔軟性と、2)技術リーダーシップとグローバル・サービスを可能にする規模の経済性の両方を同時に実現するために選択され、コーディネートされている。(本セクション最後に掲載した「YKKファスニング事業の活動システム・マップ」を参照ください。)

戦略を可能にしたイノベーション

  • グローバル・マーケティング・グループ(GMG)。グローバルに展開するアパレ企業への対応を可能にしている。ファスナー業界でこれができるのはYKKのみ。
  • 日本で初めて、2011年に工機技術本部分析・解析センター分析室が米国消費者製品安全委員会(CPSC)より製品中の鉛含有量の分析値を保証できるファイヤーウォール試験所として登録認定を受けた。
    国際的に信用される試験所として、国内外向けの製品の分析業務を行い、品質保証体制の強化に努めている。
  • 上からの挿入に加え、横もできるデュアル構造を備たファスナー上からの挿入に加え、横もできるデュアル構造を備たファスナー「 ez -TRAKTRAKTRAKTRAK™(イージ・トラック)」を開発・販売(2008年)
  • エレメントを左右に引っ張るだけで簡単にスライダーから外れ、ファスナーを開けることができる簡易分離ファスナーを開発・販売(2012年)。

トレードオフ

  • 創業のファスニング事業以外に多角化しない。
  • ファスナー製造機械の開発と製造を外注しない。
  • コア技術の研究開発を日本の外で行わない。黒部(富山県)に集中する。
  • 市場のローエンドをターゲットしない。
  • 顧客の要望に対応する際に、その顧客との事業の効率性や収益性を重視しない。生量が大きくならなかったり、製品ライフが長くならなかった製品でも、同社の幅広い製品ラインと顧客ベースがあれば、将来別の顧客に有用である可能性が高い。引出しにしまって蓄積し、いずれ他の国・地域、使用用途などで部分的にそれらを役立たせる機会を待つ。
  • 海外拠点を設ける投資を惜しまない。顧客ニーズに応えることを重視し、積極的に海外に進出する。
  • 買収による事業規模の拡大を追わない。
  • コスト削減や規模の拡大のために品質を犠牲にしない。あくまでも品質にこだわり続ける。
  • ファスナーの販売を商社や代理店に依存しない。全ての製品は、顧客の近くに設けられた海外拠点から販売される。
  • 上場しない。「株は事業の参加証」であり、事業に実質的に参加するものが株を持つべきと考える。社員持ち株会が筆頭株主であり、社員の経営への参加が期待されている。
  • 上場による資金調達をしない。同社は、持株会を通じて社員から資金調達している。社員は、給与やボーナスの一部を原資に持株会を経由して株を購入し、配当を受け取る。

戦略の一貫性

YKKの競争戦略のコアは、品質へのコミットメントと、それを可能にする垂直統合である。同社は、研究開発、製造、販売までを自ら手掛けるが、特に、素材や製造機械の開発も自ら行う。
この戦略は、YKKの歴史の早い時期に採用された。創業者の吉田忠雄は、1934年にファスナーの半製品を手作業で組み立て、販売を始めた。翌1935年には、インドへの輸出も始めた。しかしながら、加工技術の未熟な下請け業者に発注したため、製品は返品されてしまった。この経験から吉田は、品質の重要性を痛感し、より良い素材を使用し、工程を内部化し、工場へ投資を増やしていった。
1947年、吉田は、アメリカで機械で製造されているファスナーの方が、品質が高いのに価格が安いことを知った。吉田は自社のファスナーを9セントで売ろうとしていたのだが、アメリカ人バイヤーは逆に7.40セントで販売すると申し出たのだ。この経験が製造工程の機械化と自動化へのコミットメントにつながっている。YKKは輸入機械での製造を始め、日本の機械メーカーに同様の機械を製造するよう発注し、1951年にこれを使い始めた。これによってより良い品質と低コストが可能になり、YKKから手作業が消えた。1953年には、自社製のチェーン・マシン(布製テープに務歯を挟みつける機械)の開発に成功し、特許を出願した。以来、YKKは製造機械を自社開発している。
YKKの競争戦略のもう一つのコアは、顧客の近くで製造することだ。同社初の海外工場は、1959年のニュージーランドに始まるが、1960年代を通じて同社は、欧米に工場を開いた。これらの国では、人件費は日本のものより高かったが、YKKは高い人件費は、自動化した機械のオペレーションと維持補修をする人材が確保できるため、同社にとっては有利だと考えた。このように、YKKは一貫して顧客の近くで製造することを続けてきた。
YKKは、アジア発のアパレルやスポーツブランドの成長に対応するため、市場のよりローエンドへの展開を試みている。この市場セグメントでは、よりコスト競争力が求められるが、クラスにおける最高品質という従来からの戦略を、この市場でも貫く方針だ。

収益性

投下資本利益率、営業利益率ともに業界平均を上回っている。

活動システム・マップ

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