受賞企業・事業レポート

スルガ銀行株式会社(受賞時 株式会社駿河銀行)

2003年度 第03回ポーター賞受賞 銀行業

個人市場へ特化して大企業市場をトレードオフ
新しい切り口で独自性のある新商品・サービスを継続的に開発し、従来にない価値を顧客に提供

企業概要

スルガ銀行は静岡県沼津市に本社を置く地方銀行。

ユニークな価値提供

 スルガ銀行は個人市場特化戦略の要として「コンシェルジュ」ビジョンの下、個々の顧客のニーズに「one to one」で応えることを目指し、新しい切り口で独自性のある商品を提供している。例えば、住宅ローン利用の最低条件から、業界の一般的な慣行であった「勤続年数2年」を外し、勤務先の変更が多い優秀なシステムエンジニアに融資を可能にした。また、健康上の理由で団体信用生命保険に加入できず、どこの金融機関でも住宅ローンを利用できなかった顧客を対象に、「超団信住宅ローン」を発売し、国内の金融機関で始めて団体信用生命保険に加入できない顧客への住宅所得の夢をつなぐことができるようになった。同社の商品は住宅ローン商品だけで26種類に達し、4種類のローン用保険と組み合わせることで個別対応を可能にしている(多くの銀行で住宅ローンは1から5種類程度)。
 これらの例に代表されるように、スルガ銀行の商品の多くは、一般的な銀行の住宅ローンでは対応できない状況に対応している。住宅の取得は個人にとっては夢の一つであることから、同社では、独自性の高い住宅ローン商品の提供を、それがなかったら実現できなかったかもしれない個人の夢を実現しているのだと位置づけている(同社の住宅ローン実行顧客のうち90%以上が他社にない商品を購入した)。
 また、同社では、通常3から5日かかるといわれる住宅ローンの審査を平均で2日以内、通常の案件に関しては当日内に回答をする。不動産購入者にとっては、効率的な不動産探しが可能になるだけでなく、住宅ローンの販売パートナーでもある不動産関係者(不動産業者、ハウスメーカー、建築業者など)にとっては、同社の幅広い品揃えを合わせて効果的に顧客に適した物件を案内することができ、また購入意思決定後のローン棄却に伴う非効率を軽減することができる。
 住宅ローンを利用しない顧客に対しても、「one to one」で応えるコンシェルジュであろうとしている。個々のお客様と同社との取引の全容と与信可能な金額などの情報を担当者が一度に入手できることで、顧客自身も自覚していないようなサービスの可能性を、提案型の営業でお知らせする事ができる。

独自のバリューチェーン

商品開発
同社は、個人にテーラーメイドする、ニッチ市場にアプローチでき、他行にない商品、を基準に商品開発を行なっている。独自性の高い商品の開発には、個人の返済能力に関する膨大な審査データと審査ノウハウ、自動審査システム、CRMシステムが貢献している。それに加えて、個人の事情と金融ニーズが把握できるようなきめの細かい情報収集のルートを開発している。同社は、まだ満たされていない顧客ニーズ把握のためのアンケートを盛んに行なうが、同時に、日々の活動を通じて顧客に一番近いところにいる現場社員が顧客ニーズを一番理解していると考えている。たとえば先に挙げた二つの例はいずれも、不動産チャネルから現場の社員が聞いた満たされないニーズであった。
同社はこの考えを更に進め、新商品やサービスのアイデアを提案するのは現場の社員の仕事であって、本部の企画部門は寄せられたアイデアを商品に落とし込むだけ、という役割分担を明確化した。社員全員が「21世紀探検隊」というイントラネット上のしくみにアクセスでき、ここで現場の社員が新商品を提案する。企画部門を始め、関係部署は48時間以内に回答を書き込むルールである。「21世紀探検隊」は同社のイントラネット上で最も活発なサイトであり、半期に10件以上の商品化、10件以上の商品改善に結びついている。

マーケティング・セールス
 事前審査システムとCRMの連携によって、既存顧客に提案型営業を行なう。また、CRMシステムと自動審査システムの導入によって高スピード、低コストで商品・サービスの提供ができている。

商品・サービスの提供チャネル
 住宅ローンに必要な機能に特化した支店である「ハウジングローンセンター」を、立川、港北ニュータウン、新宿、大宮、柏などの住宅ローンの需要が高い地域に機動的に出店している。静岡県、神奈川県といった、地銀としての地盤であった地域から大幅に飛び出している。支店のない地域の顧客の利便性のために、コンビニエンスストアや郵便局のATMと提携することで業界一の接続数を持つATM網を整備している。また、オンラインバンキングを充実させており、ニッチなセグメントにそれぞれ特化したオンライン支店を8店舗運営している。

企画
「コンシェルジュ」ビジョンの実現と「業界初」を目指し、現場の社員が1年をかけて企画を練り上げ、社長に直接企画を提言する「ジュニアボード」という仕組みを持っている。スピードを重視し、失敗を許さない文化から65%でも走り出す文化に変革したことによって、企画が実行に移されるスピードが速い。

インフラ
 営業店のバックヤードで行なわれていた手形発行や為替などの事務処理や残高照会などの電話応対を、本部で集中処理することで支店運営を効率化した。営業店に残された事務業務については、一人5役を果たす実務プロを目指して、一人一人が担当可能なタスクを拡大し続けている。
 営業店においては、業務に関する規定集を支店の自席にてパソコンからオンライン検索可能とし、担当者が顧客との応対中に離席する必要が無い。このシステムは検索性が良く、規定だけでなく業務フローの説明も提供されるので、経験の浅い社員やパートタイマーでも正確な処理ができる。

活動間のフィット

 スルガ銀行の活動の要の一つは、審査である。個人向け小口ローンによって蓄積された膨大な審査データは、審査ノウハウと結びついて自動審査システムを可能にし、小口ローンと住宅ローンの両方において非常に迅速な審査を可能にしている。
 この審査能力は、担保ではなく、個人の返済能力の審査という点で特徴的であり、個々人の返済能力を測定することによって、新しい切り口でローン商品を開発することが可能になっている。
 また、既存顧客に対して事前審査とCRMシステムと連動することにより、社員は融資枠を把握した上で顧客と対話することができ、サービスの提案の幅が広がっている。
 もう一つの活動の要は、「コンシェルジュ」ビジョンの共有、社員の動機付けと提案制度である。これらの活動によって活性化した社員が、審査情報やCRM情報、不動産チャネルからの市場情報などを駆使して新商品の開発と提案型営業を進めている。
(「活動システム・マップ」を参照ください。)

戦略を可能にしたイノベーション

  • 機能を絞り込んだハウジングローンセンター(HLC)。
  • 地理的時間的な営業の制約を克服したHLCの首都圏出店、オンラインバンキング、業界一の接続数を持つATM網。
  • 非常に迅速な審査とユニークな商品開発、提案型営業を可能にし、かつ毀損率を低くする自動審査システム。
  • あらゆるチャネルを越えて個人単位で情報を名寄せするCRMシステム。
  • 現場社員による新商品・サービス提案のイントラネット上のしくみ「21世紀探検隊」。
  • より長期的な企画を現場社員が社長へ提言するためのしくみ「ジュニアボード」。

戦略の一貫性

 フルバンキングサービスの提供が常識であった1988年にスルガ銀行は、個人に特化する戦略をとることを決定。以来、一貫している*。現在、総貸金に占める個人向け貸出の割合は63.8%に達し、これは、第2位の銀行を大きく上回っている。
* ダイレクトチャネルや法人集約店舗などを中心とした中小企業取引は続けている。

トレードオフ

  • 大企業向け法人取引をトレードオフした。その結果、海外支店、大阪・新宿・渋谷といった大企業取引を中心とする支店、派生金融商品やM&Aなどの業務の必要性が低下。これらをやめた。大企業の職域セールスもやめた。
  • ATM網とオンラインバンキングの充実によって、国内の支店網の重要性が低下。愛知、山梨などコア市場以外の支店を閉鎖した。
  • これらをやめたことによって利用可能になった人材と資金を使って、首都圏にHLCを開設し、人材を移動することができた。また、情報システムも個人取引に特化しているので、より優れたものにすることができた。
  • 独自の価値提供ができないので他行で提供されている標準品の住宅ローンは積極的に販売しない。

収益性

 メガバンク始め銀行各社がリテール重視を打ち出し、一部の住宅ローン市場では価格競争が起きているが、スルガ銀行はユニークな商品を持っているゆえに価格競争に巻き込まれず、その結果、業界平均の2倍にあたる預貸金利鞘を確保している。同社の営業利益率は、銀行業界の平均を大幅に上回っている。また、投下資本利益率も一貫して銀行業界の平均を上回っている。

活動システム・マップ

受賞企業・事業部 PDF

第24回 ポーター賞 応募期間

2023年5月 8日(月)〜 6月 5日(月)
上記応募期間中に応募用紙をお送りください。
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