受賞企業・事業レポート

武田テバファーマ株式会社(受賞時 大洋薬品工業 株式会社)

2005年度 第05回ポーター賞受賞 ジェネリック医薬品

ジェネリック医薬品に特化し、幅広い品揃えを、低コストで提供できるユニークな体制を構築した。

業界背景・企業概況

医療先進国といわれる米、英、独では、ジェネリック医薬品(以下、後発品)は、数量ベースで全医薬品の50%を越えている。患者負担軽減や国の医療費削減などの観点から、後発品市場の成長は期待されるものの、日本ではまだ16%にしかなっていない。成長率でも、前者は二桁の成長率で成長しているのに対して、日本の後発品の成長率は年率2%でしかない。
大洋薬品工業は、後発品市場において売上げ規模上位3社の一角を形成しているリーダー企業群の一社であるが、その収益性は業界他社を大きくしのいでいる。

ユニークな価値提供

 大洋薬品工業の主なターゲット顧客は、開業医や中小規模の病院である。同社の販社は比較的小規模な卸が多いが、同社のターゲット顧客は、これら卸しの強みとするセグメントである。また、開業医や中小規模の病院は、卸と継続的な関係を構築していることが多く、顧客との距離も近いので、患者の負担軽減など、後発品の利点を受け入れてもらいやすい構造にある。
大洋薬品は後発品医薬を提供しているが、これらを通じて提供している価値は、廉価であること、看護士にとって扱いやすいこと、患者にとって飲みやすいこと、情報提供、安定供給である。
 後発品の価格は、保険薬価が新薬と比較して3割安く設定される。これは、後発品には新薬開発ほどには研究開発費がかからないことを反映したものである。低価格であることによって、患者の自己負担が軽減される(慢性的な疾患に冒されている患者への影響は特に大きい)と同時に、国庫への負担も軽減される。しかし、低価格を支えるためには、低コストでなければならない。同社は、大人数のMRに頼らない情報提供や、製造設備の高い稼働率、絞り込んだ研究開発によって低コスト構造を確立し、製品は低価格でありながらも、高い利益を実現している。
 次に、扱いやすさと飲みやすさである。後発品は、新薬承認時より15年から20年を経ているため、後発品には、様々な改良の余地が残されている。それが、扱いやすさや飲みやすさである。注射器に事前に溶液を注入したプレフィルドシリンジは、看護士の作業工程を削減し、作業効率を改善すると同時に、注射器に移された際に表示がなくなることによる医療過誤が起こることを防ぐことができる。また、患者にとっての飲みやすさという点では、錠剤を小さくして飲みやすくしたり、顆粒剤をシロップにしたりすることができる。同社は、口の中で早く溶けるので水なしで飲める錠剤の製剤技術を持ち、また、高度な製造技術が要求されるプレフィルドシリンジの製造技術にも秀でている。
 また、同社は、後発医薬品に対して病院や医師が持っている不安を解消することにも成功している。一般的に、病院や医師は、後発品に対して、次のような不安を持っていると指摘されている。医薬品に関する情報提供の充実、副作用情報提供などのアフターサービス、安定供給、品質。同社は、独自の方法でこれらを解消することに成功している。

独自のバリューチェーン

研究開発
 研究開発ならびに技術開発は、製剤技術と製造技術に特化している。たとえば、水を飲まなくても口の中で数十秒で溶ける錠剤(速崩錠)については、特許申請数が、武田、アステラス、エーザイに続く4位である。
 同社の製剤技術は広く認められており、製剤設計の段階から製品開発を依頼されることもある。
 2002年、郊外の研究所をやめ、名古屋都心の交通便利な立地に移動。通勤を容易にすることで、それまで在宅であった女性技術者を派遣社員として採用。低コストで開発体制の充実を実現した。

製品開発・承認申請
 同社は承認を取得する技術が優れており、同社が承認された後発医薬品数は、96年以来、トップである。その結果、自社で承認を取得した後発医薬品は国内で最大の458品目にのぼり、幅広い品揃えに貢献している。

製造
 後発品では、製造費用の低減が必要である。広い品揃えによってワンストップショッピングを提供することを差別化要因の一つと考えていた同社は、承認品数が増えていく中で生産設備も多様になっていった。同社は93年から、米の医薬品製造基準である新GMPに準拠した工場の建設をはじめ、多様な剤型の生産能力、製造規模と製造品質を確保するため、以来04年まで12期にわたって生産設備への投資を行ってきた。
 同社は、製造費用を低減するための様々な活動を実践している。まず、生産品目と生産水準の決定を、販社における販売データに基づいて行なう。これは、卸売データよりも精度が高いため、不必要な在庫を作ることを避けられる。次に、この情報に基づいて、同社は、1年分の予想販売量を1回の生産ロットで製造する(後発品他社では多くの場合、在庫費用圧縮のため、小ロット生産が行われる)。在庫費用は増加するものの、生産コストと購買費用は削減することができる。また、欠品も起こしにくく、供給責任も果たすことができ、安定供給への信頼性を増すことができる。さらに、同じ寸法の錠剤や同じ容量のアンプル剤を連続して製造することで、段取替えに要する時間を削減し、生産効率を改善している。加えて、注射生産の部屋全体をクリーンルームにするのでなく、製造機械だけをガラスで覆いクリーンなエアを維持するアイソレータシステムを導入、その結果、ランニングコスト削減と作業者への負担が軽減される。アイソレータシステムの採用数で国内最大である。
 しかし、後発品に特化すると市場規模の小ささゆえに、設備稼働率の問題が生じる(後発品の市場規模は全医薬品の16%程度でしかない)。同社は、稼働率の問題を、受託生産をすることによって解決している。同社が受託生産を始めたのは、まだ、医薬品業界にアウトソーシングという言葉が聞かれなかった98年のことであった。同社が生産受託を始められたのは、業界でも認められた生産技術による。同社は、凍結乾燥製剤、注射剤、キット製剤、プレフィルドシリンジ製剤(事前に注射筒に溶液が入っているもの)など、難しい生産技術を要する製剤に強みを有している。生産受託によって、益々生産技術は鍛えられ、シリンジ生産ラインの規模は、新薬メーカーを含めても国内上位3社に入り、ジェネリック医薬品メーカーの中では最大規模になっている。

マーケティング・技術営業
 医師や患者に情報を効率的に提供することを重視し、新薬メーカーのように多数のMRを擁しない。ホームページにおける徹底した情報提供、メデイカルインフォメーションセンター(コールセンター)における問い合わせ対応を主とし、MRは全国に 40名弱に抑えている。
2006年は国の後発品促進策がさらに進むと予想されている。また、数年以内に、複数の大きな新薬の特許切れが生じる。これら事業機会の改善に備えて、同社は、後発品のリーダー企業としての市場認知を高めるため、他の後発品メーカーよりも積極的にテレビ広告などに投資している。

販売
 後発品では、販社による買取り一括払いが一般的であるが、後発品を扱う販社は小規模なことが多く(大手の卸は、利益率の低い後発品をあえて扱おうとするところは少ない)、在庫負担に耐えられず倒産にいたる例も散見された。
同社の販社もやはり小規模で、3名から60名程度である。先に薬を渡して使った分だけ後から支払う「富山の置き薬」のように、同社は、過去のデータから月間販売予測数量を販社に預託し、販社が病院や薬局に販売した時点まで支払いを要求しない方式(以下「在庫保証制度」)を採用している。(※1)その結果、同社は、200社あまりの販社と契約し、全国をカバーする流通ルートを確立することができている。さらに、この販売ルートは、倒産などの可能性が少ない、安定したものである。
同社との取引では在庫費用が発生しないこと、品揃えが豊富であることから、同社の販社はほとんどが、大洋薬品とのみ取引をしている。その結果、流通内部において、他の後発品メーカーとの競争が不在である。
 販社に対する支援として、情報ネットワークを使って、医薬、製品、行政などの情報を提供し、販社の社員教育を支援している。

出荷物流
在庫費用の負担がない状態で販社が在庫を保有する(預託される)仕組みになっているため、在庫補充を大洋薬品が行っている。その結果、煩雑な受発注業務をなくすことができた。また、同じ理由から、在庫補充の頻度を月に1度か2度にまで下げることができ、人件費、運送費のコスト削減が可能になった。

アフターサービス
販社から得ている販売データには、どの病院、薬局に販売したかという情報も含んでいる。予期しない副作用が起きた際には、どの顧客に売ったのかが把握できるため、販社を介することなく直接に連絡を取ることができ、迅速に対応が可能である(これは法的に定められている義務であるが、顧客の立場からは、未だに不安が残る領域である)。

(※1)「在庫保証制度」としてビジネス特許申請中。

活動間のフィット

 後発品業界では、低コスト構造を構築することが重要であるが、それだけでは十分ではない。同社は、新薬から後発品への移行に対する障壁である安定供給、情報提供、品質への不安を、低コストで可能にしている。
 たとえば、製造コストの低減には、1年分の使用量を1ロット生産することと、製造受託による製造設備の稼働率改善が大きく寄与している。1年分を集中して生産することは、製造コストの低減と同時に、販社での1,2か月分の在庫とあいまって、安定供給への不安を解消している。
 安定供給に貢献する販社での在庫保有は、販社に在庫費用を負担させないことによって可能になっているのだが、これは同時に、大洋薬品による在庫管理を可能にし、販社との間の受発注業務をなくし、低コスト化にも貢献している。
情報提供に関しては、インターネットサイトによる徹底した情報提供などによって、大人数のMRを抱えることなく、低コストで行っている。また、販社がどこの病院や薬局に販売したかについて在庫管理システムの一部として情報を得ているため、副作用情報の提供が可能である。
 最後に、品質については、注射剤など製造が難しい剤型の製造技術を有していると同時に、世界水準に基づいた製造設備への積極的な投資を行うことによって、品質を強化すると同時に、これらの特徴が、社外からの製造委託をもたらし、製造設備の稼働率を改善することによって、製造費用の低減に貢献している。
 飲みやすい剤型や扱いやすい剤型への研究開発投資は、後発品への移行を促す、価格以外のポジティブな特徴をもたらすことになり、未だ萌芽期にある後発品市場において、顧客ニーズと一致している。 (次ページ「大洋薬品工業の活動システム・マップ」を参照ください。)

戦略を可能にしたイノベーション

  • 財務基盤が弱い中小卸を販社にするため、「富山の置き薬」のように卸から病院や薬局に売れるまで、卸に代金を請求しない方式を採用(「在庫保障制度」)
  • 1年分の見込み販売量をまとめて製造し、また、類似の剤型を持つ薬を連続して製造する

戦略の一貫性

1949年の創業時は、薬局向け製剤を生産、発売していたが、61年の国民皆保険制度発足により薬局から医療機関へ市場が移ってしまった。同社は、新薬開発を試み、いくつか成功したが、流通網の弱さから販売規模が拡大せず、製品回収期間が長くなりすぎると判断し、後発品に特化する戦略を採用した。新薬メーカーになるという戦略は失敗したのであるが、新薬開発へのチャレンジによって研究員を増強しており(全社員の40%)、また、製剤技術、臨床試験のノウハウを蓄積することができた。
同社が後発品に特化する戦略を明確に打ち出したのは1993年のことであったが、新薬開発に挑戦した時期に蓄積されたこれらの能力は、後発品の承認取得においても非常に重要であり、同社が後発品の承認数において96年から2005年半ばまでの10年近くにわたって連続トップになることを可能にしている。
 後発品特化後は、低コストで効率的な製造、販売体制の構築、情報提供を重視し、様々な体制を整えてきた。たとえば情報提供活動については、後発品メーカーとして初めて91年にMRに携帯PCを配布し、直行直帰の営業システムを採用した。93年からは更に踏み込んで、全国7営業所を売却して閉鎖し、自宅を主なオフィスとするSOHOを勤務体制とした。現在は全国を40名で担当している。

トレードオフ

  • 多数のMRを要する情報提供活動、営業活動を行わない
  • 新薬の開発を行わない。開発は飲みやすさ、扱いやすさを改善する剤型に限定する
  • 2002年、郊外の研究所をやめ、名古屋都心に移動。通勤を容易にすることで、在宅であった女性技術者を派遣社員として採用。

収益性

 投下資本利益率、営業利益率ともに、ジェネリック医薬品業界の平均(中央値)を一貫して大幅に上回っている。

活動システム・マップ

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第24回 ポーター賞 応募期間

2024年5月 7日(火)〜 6月 3日(月)
上記応募期間中に応募用紙をお送りください。
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