受賞企業・事業レポート

マニー株式会社

2008年度 第08回ポーター賞受賞 小型医療用器具製造業

ステンレス線材を素材とする小物医療用消耗品に特化

業界背景・企業概況

小物医療機器(手の平サイズ以下の医療機器)市場は多数の小さなセグメントから構成されており、さらに、個々のセグメントは多数の製品からなっている。たとえば、手術用針は、使用される人体の細胞の性質、用法、使用する医師の好みなどにより、多様な長さ、直径、先端の形状、針の湾曲、強度が存在する。たとえば、マニーが製造している手術用針は10,000種類、歯科治療用機器は3,000種類に及ぶ。その結果、規模の経済を得にくいため、小物医療用機器市場で活動する企業も小規模な企業が多い。例外は、手術用針におけるジョンソン・アンド・ジョンソンの存在である。同社は、低価格セグメントから高価格セグメントまで幅広くカバーし、世界シェアの7割を抑えている。

マニーは、1956年創業、片手で握れるような医療用消耗品、特に刃物や切削器具に特化した医療用機器のメーカーである。主な製品は、手術用針、眼科手術用ナイフ、歯科治療用ドリルなどで、その製品の約7割が独自に開発した特殊なステンレス線材を使用している。2007年度の売上高は81億円、120カ国以上に販売し、海外販売比率は68%である。マニーの製品の中には、世界市場シェア49%に達するものもある。

 

ユニークな価値提供

マニーのターゲット顧客は、手先の感覚へのこだわり、機器へのこだわりが必要とされるような手術や治療に携わる医師や歯科医師である。

マニーが提供している価値の第一は、世界一の品質である。マニーは品質を、安全性と、医師のこだわりに応える機械的特性の二つと定義している。安全性は、錆びないことや、体内で分離破断しないこと。機械的特性は、切れ味、腰の強さ、しなやかさ、などだ。一般的に、硬い金属を使用すれば切れ味を得られるが、同時に、破断も起きやすくなる。マニーは、独自開発したステンレス線材を独自技術で加工することにより、これら二つの相反する品質を世界一のレベルで実現している。特に、眼科手術や心臓血管手術に使用される微細針の分野で、圧倒的な差別化を実現している。直径140ミクロン以下の針を大量生産できるのは、世界でマニーだけであり、ビル・クリントン元アメリカ大統領の心臓手術にはマニーの針が使用された。このことに象徴されるように、マニー製品は、世界の医師から高い信頼を得ている。マニーは、この価値提供を貫き、低価格品の市場が中心となっている発展途上国や地域にも、同一品質の製品を世界標準価格で提供している。多くの競合は対照的に、そのような市場では、品質を落とした低価格品を提供している。

第二は、用途、用法、医師の好みにあった最適な製品を提供することだ。そのために、マニーは多様な品揃えをしている。手術用針の分野では、世界市場シェア7割を握るジョンソン・アンド・ジョンソンに次ぐ品揃えの豊富さである。多くの競合は対照的に、コスト削減のために製品種類を極力少なく抑えようとしている。
50年の歴史を持ち、品質による差別化が確立している手術用針の分野では、マニー製品の価格は歴史的に、競合の製品よりも、50%から100%高かった。その後、人件費の高騰や近年の金属材料の価格高騰により、競合が製品を値上げしたため、価格差は20%程度まで縮小した。マニーが1976年に参入し、後発である歯科治療用ドリルの分野では、マニーは競合と同程度あるいは若干下回る価格をつけている。この分野では、マニーの市場シェア拡大に対抗して、市場リーダーが価格を引き下げたが、マニーは価格を据え置いている。

独自のバリューチェーン

研究開発
マニーの研究開発の目標は世界一の品質の実現にあるが、その特徴は、素材、加工機械、試験・計測機器などを、自前で開発する点にある。同社は、1967年、1988年と独自技術でステンレス線材を開発したが、同様に硬くかつ粘り気のあるニッケル・チタン線材を開発している。独自の材料技術、微細加工技術、レーザードリリング技術などは、特許で守られている。

また、同社は、その製品が世界一かどうか判断するために、独自の客観データを作成し実証している。同社の製品は、年に二度の「世界一か否か会議」にて競合他社の製品と特性ごとに徹底して比較され、世界一を逃した特性に対して、アクションプログラムが動き始める。また、部門ごとに毎月一度行なわれる「開発朝礼」では、開発部隊、営業、生産、トップが参加し、方針決定、課題解決に取り組む。同社は売上高の6%から8%を一貫して研究開発に投資している。

インバウンド物流
マニー製品の7割は共通のステンレス線材を使用しているので、調達の手間とコストは非常に低い。また、売上に対する原材料費の割合が平均7.8%と低いため、輸送コスト、保管コストも非常に低い。

製造
マニーの製造工程は、海外、日本、海外と移動する。ステンレス線材の前処理はベトナム(1996年より稼動、第二工場が2003年より稼動)、ミャンマー(1999年より稼動)などの海外工場で、微細加工やレーザードリリングなど、独自技術が必要とされる工程は国内工場で、最終加工および最終品質検査を海外工場で行なっている。海外工場における製造工程は標準化されており、どの工場でも同じ品質が実現可能である。製造品質確保のための検査は、工程途中での光学的、機械的な品質検査に加えて、人間が目視により、全品品質検査を行なっている(同社の手術用針の特定種類だけでも年間生産量は1億本に上る)。一見効率の悪い生産配置のように思われるが、製品が軽く小さいので、海外と日本の工場を往復することのコストよりも、独自技術の日本集中や海外工場での目視による全品品質検査のもたらす利益の方が大きい。ラオス工場が、2009年12月に稼動開始の予定である。

製造技術に関しては、マニー製品は製品寿命が長く、長年同じ素材を使用しているので、長い年月をかけて継続的に改善が行なわれている。

インバウンド物流
マニー製品は軽く小さいので、航空機やトラックなどで機動的に輸送することができ、納期の短縮や、細かい注文への対応を可能にしている。

マーケティング・販売
マニーは、海外は概ね一国一代理店、国内は医療商社を通じて販売している。マニーは、自社製品の品質による差別化を客観データによって実証し、代理店や商社が顧客に伝えられるようにしている。

マニーは、日本の医師の技術レベルは世界でも抜きん出ており、日本で認められた製品は世界中どこでも通用すると考え、国内においては、医師への直接のデータ提供、論文作成支援、試作品の提供、新製品の共同開発などを行なっている。また、マニーは、歯科医師との接点を増やすため、歯科治療における新しい術式で使用する実体顕微鏡やレーザー治療器の開発・製造・マーケティングを行なっている。顧客への訪問活動の内容は、例外なく詳細なレポート作成が義務付けられており、階層別に作成されたグループリストに対して、電子メールで共有される。

また、マニーは、同社の手術用針の顧客である糸メーカーが糸を針にかしめる工程を援助するため、自社開発したかしめ機を提供している。これによってマニーは、糸メーカーとの関係を強化し、また、最終製品の品質を高いレベルに維持している。

人事管理
マニーの人事管理の特徴の第一は、世界一品質を支える仕組みにある。マニーは、品質を支え続ける人材を、顔が見える手作りの方法で育成するために、国内の従業員数を300人程度に維持している。業績評価には、品質の維持、向上への貢献が重要項目として含まれ、昇進審査でも、製品・品質についての考えが問われ、社員に対するプレゼンテーションが求められる。品質改良や新製品提案は、表彰制度、報奨金制度によって支援されている。また、開発マインドの醸成のため、新しい術式の普及に尽力中の医師・歯科医師を招いて勉強会を開催している。最新の術式を収めたビデオ・ライブラリーの拡充も行なっている。

第二は、社員の自主性と積極性を促す仕組みだ。マニーでは、課長職、部長職、社長を公募し、その中から選定している。業績は、経常利益の過去最高の伸びと比較することによって、積極性を強調している。

第三は、海外人材の獲得と維持の仕組みにある。海外の生産拠点は、人材の引き抜きが起こりやすい工業団地にせず、主要都市から50から60キロ離れた田舎に立地する。そうすることによって、利便性が損なわれたり、追加費用が発生したりすることが多いが、地域の人材を一社で吸収することにより他社の参入を防ぎ、人材の流動性を低められる結果、微細な特殊医療機器を生産するための技術教育や日本語教育を十分に行なった従業員を維持することができる。また、年間を通じて、海外拠点からの研修生が日本に招かれ、日本人従業員との公私にわたる交流が行なわれ、人間関係の構築が進んでいる。
 

活動間のフィット

同社の活動は「世界一品質」を実現することを中心に構築されている。具体的には、明確な製品開発基準に導かれた製品開発活動、「世界一か否か会議」での他社比較と実証データの蓄積、情報共有の様々な仕組みや、人材評価の仕組みなどだ。

また、同社では、製品寿命の長い小物消耗品を製品分野として選択したことによって、活動のフィットが一層強化されている。製品寿命が長いから、素材や加工機械、計測・試験機器の自社開発が回収可能であるばかりでなく、長期的な差別化要因となる。自社開発した特殊な材料を使用するから、製造機械を自社開発しなければならない。製造機械を自社開発するから、多品種生産を効率的に行なう工夫ができる。小さく原材料費が非常に低いから、多品種の製造工程でも在庫費用が低く抑えられる。小さく原材料比率が非常に低いから、より良い品質を実現するための新しい製造工程の開発を、それに伴う不良率の増加よりも重視することができる。小さく軽量だから、日本と海外の工場を往復する製造工程が可能で、独自技術の保護と、手間隙かけた生産が両立する。(活動システム・マップを参照ください。)

戦略を可能にしたイノベーション

  • 錆びにくいが加工しにくかったステンレス材を手術針に加工する技術(1961年、世界初)
  • 折れにくく切れ味の良いステンレス線材の開発(1967年、1988年)
  • 世界で最も良い切れ味が要求される眼科縫合針と眼科ナイフに使われるナノサイズの刃先加工技術
  • 直径140ミクロンの針を可能にするレーザードリリング技術
  • 独自の品質評価基準の開発と評価データの公開
  • 社長を含む管理職の公募制度

戦略の一貫性

マニーは1961年、世界で始めてステンレス素材の手術用針の製造に成功し、針から錆が体に入る危険性を解決して以来、一貫した戦略をとっている。それは、小物で消耗品で製品寿命が長い医療機器を、ステンレス線材をコアとする独創技術で世界一の品質にして、世界のニッチ市場で販売することである。

同社がこの戦略にコミットするまでには、失敗もあった。1970年代に外科用メスを開発したが、品質で劣り、失敗した。原因は、ステンレス線材ではなく、板材を使用したことにあった。線材と板材では材料技術も加工技術も全く異なっていたのだ。現在、同社が販売しているメスやナイフは、ステンレス線材をプレスして作っている。

トレードオフ

  • 医療機器以外はやらない
  • 独創技術のない製品はやらない
  • 製品寿命が短い製品はやらない(20年を目安とする)
  • ニッチ市場(世界市場の規模が2000億円以下)以外のものはやらない
  • 世界中に販売できない製品はやらない
  • 発売4期目で1000万円以上の年間売上が見込めない製品、売上総利益率35%以上、または営業利益率10%以上を見込めない製品の設計・開発はやらない
  • 発売10年以内に営業利益率30%以上が見込めない製品は、大きなメリットがない限り、設計・開発はやらない
  • 将来(15年から20年程度)、世界一、二位の市場シェアと品質(医師の使用感と安全性)になれる見込みがない製品の設計・開発はやらない
  • 同社の所有する技術の占める割合が50%未満の製品の設計・開発はやらない
  • 同社製品または同社の所有する技術に関連しない装置やサイズの大きい製品の設計・開発はやらない。ただし、既存製品との相乗効果が期待でき、かつ、同社の所有する技術の占める割合が50%以上の製品は、設計・開発を行なう
  • 新たな手術方式を提案する機器の開発は行なわない
  • 発展途上国向けに低価格化するために低品質の製品を販売しない
  • 生産拠点の海外進出先を人件費の安さで選ばない。微細なものにこだわれる国民性、根気強い性格を重視する
  • 生産拠点の海外進出先として工業団地を選ばない
  • 国内拠点の従業員数は300人を超えない
  • 日本以外では、自社によるマーケティングを行なわない
  • 本業に必要でない財テクは行なわない

収益性

投下資本利益率と営業利益率ともに、業界平均を一貫して大幅に上回り、その差は拡大傾向にある。

活動システム・マップ

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第24回 ポーター賞 応募期間

2023年5月 8日(月)〜 6月 5日(月)
上記応募期間中に応募用紙をお送りください。
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