受賞企業・事業レポート

エン・ジャパン株式会社 中途求人メディア事業部

2019年度 第19回ポーター賞受賞 転職サイト運営
正社員向けの転職サイト「エン転職」を運営。 収益源は求人広告の掲載料だが、事業のゴールを、入社後の定着、活躍におく。しかし、中心ユーザーである若手、未経験者をスキルでマッチングするのは容易ではない。そこで求職者がより現実に近い情報に基づいて意思決定できる事を重視し、全ての広告掲載企業を自社で取材、グループ内のクチコミサイトからは、否定的なコメント含め、情報を提供する。入社後の活躍支援のため、入社後3年間、3種類の無料サポートプログラムを提供する。
※本稿は、受賞企業の応募資料、受賞企業へのインタビュー、公表資料に基づいて、一橋ビジネススクール教授 大薗恵美が執筆した。受賞企業の応諾を得て公開している。

業界背景

img_2019_02_p1.jpg 人材の供給に関わる人材サービス業には大きく分けて、求人広告業、職業紹介業、派遣事業、請負業がある(*1)。大まかに、求人広告業は情報提供による求職者と求人企業のマッチング機能、職業紹介業は求職者へのキャリアカウンセリングや能力測定、企業への紹介を通じた就職支援機能、派遣事業は派遣会社が有期あるいは無期で雇用した労働者を顧客企業の管理の下に派遣し労働力を提供する機能、請負業者は自社の社員による特定の作業の管理と実行を提供する機能を果たす。これらのうち、新たな職を得る場合に求人広告業を経る人の割合が最も高い。

紙媒体、ウエブ、SNSなどを使用する求人広告市場の規模は、8570億円(2017年度)で、前年比7.2%増加した(*2)。隣接する市場である、アグリゲーター、ソーシャルリクルーティング、クラウドソーシングなどの市場規模は、1055億円で前年比76.1%の成長であった。

転職サイトには、様々な職種を扱う総合型サイトと、ある業界や職種などに特化した特化型サイトがある。特化型サイトには、ITエンジニア特化、メーカー系エンジニア特化、クリエイティブ業界特化、IT・WEB業界特化、ベンチャー企業特化などの例がある。

低価格帯は一回の広告掲載料が10万円前後から。高価格帯は、入社が決定した場合に成功報酬型で支払い、一人の入社につき60万円以上である場合が多い。その中間に位置する中間価格帯、かつ幅広い職種と業界を網羅するグループの市場規模が最も大きく、広告掲載料で収入を得ている事が多い。

(*1) 一般社団法人人材サービス産業協議会の定義による。http://j-hr.or.jp/aboutmarket/market/
アクセス2019年11月25日
(*2) 公益社団法人全国求人情報協会、2019年1月7日、全求協ニュース・リリース 求人情報提供サービスの 2017 年度の市場規模
アクセス2019年11月25日

ユニークな価値提供

エン・ジャパン株式会社 中途求人メディア事業部は求人広告を中心とした採用支援サービスを提供している。その価値提供の最大の特徴は、ゴールを、応募や採用でなく、入社後の定着と活躍においた点にある。転職を繰り返す人が多ければ、求職広告メディアにとっては事業機会の拡大になるが、エン・ジャパンは、求職者の側に立ち、この事業機会を選ばなかった。

ターゲット顧客は、20代を中心とする若手層で未経験職種への転職を希望する個人と、人材を採用しようとしている中堅中小企業である。これらのターゲット市場を選択した理由は、自社のサービスによって付加価値を生み出せるからだ。新卒入社した人材の3割が3年で退社すると言われる中、ある程度の市場規模は見込まれるが、若手は、次にどのような仕事につきたいのか、仕事選びの基準が曖昧な事が多い。したがって、詳細で、仕事の難しさを含めた正直な情報を提供するエン・ジャパンのサービスが求められる。中堅中小企業には、専任の採用担当者がいないケースも多く、採用ノウハウの不足や受け入れ環境が整っていない場合も多い。エン・ジャパンは長年の採用支援事業で培ったノウハウを提供し、中堅中小企業の採用活動を支援する。また、中堅中小企業は社員数が少ないため、一人の入社や活躍が企業業績に与えるインパクトが大きい。その分、採用者の入社後活躍が重要になる。

エン・ジャパンの求人広告の掲載単価は同業他社と比較して高い。価格が高いが、採用決定率も最も高い水準にある(*3)。

(*3) エン・ジャパン調べ

独自のバリューチェーン

エン・ジャパン株式会社 中途求人メディア事業部のバリューチェーンの最大の特徴は、求人広告サイトの企画・開発、広告獲得、取材・求人広告の作成・掲載、入社後のフォローアップ・サービスにある。

求人広告サイトの企画・開発
サイトの設計思想は、広告費を支払ってくれる求人企業ではなく、求職者に最適化する事だ。求職者に支援されるサイトは応募をされやすく、企業にとっても価値がある。求職者に最適化する具体的な方法は、「徹底した求職者目線での情報提供」だ。企業の良い面だけでなく、採用活動に不利になりうる情報、たとえば、仕事の厳しさや、向いていない人、などの情報を提供する。また、グループ内のクチコミサイト「カイシャの評判」と連携し、社員や元社員からのクチコミ情報も、肯定的、否定的を問わず開示する。このサイトには、企業もコメントを書き込むことができ、改善状況や今後の予定を記載できる。働き始めてから感じる期待とのギャップが離職に結びつくことが多い事から、現実を理解したうえで覚悟を持って応募することを勧めている。

広いスペース、多い情報量に高い広告料を設定することもできるが、採用に積極投資する企業が求職者の求めている企業と合致するとは限らない。正確な情報に基づいて応募の判断を促すため、エン・ジャパンでは、全プラン一律、同じ情報量で、掲載は新着順。新着順だと、求職者が新たな企業と出会いやすい。また、「働きがい検索」を設け、誰に対して何で役に立つのかという観点で仕事探しができ、求職者が想起する職種以外の仕事も発見することができる。

求職者獲得
求職者の獲得のため、テレビ、交通広告、など多様なチャネルで積極的に広告している。メッセージは、2001年に展開した「仕事を大切に、転職は慎重に」から一貫して同じ。

広告出稿企業獲得
独自コンテンツによるセミナーを開催し、求人企業を獲得する。内容は、面接メソッド、採用力アップ、成長志向の組織をつくる人事戦略など。また、中小企業の人事担当者向けの情報提供サイト「人事のミカタ」を運営。会員には、毎週セミナーの開催情報や、実務での困りごとに関するQ&Aを配信し、求人の際の想起を促す。

商談・受注
採用(employment)、教育(education)、評価(evaluation)の連動が重要という「3Eメソッド」の考えに基づき、営業担当者は、エン転職のみならず、教育や評価の商品も提案し、ソリューション営業を行う。たとえば、求職者の性格適性を把握したり、入社後の配置や性格に基づいたフォローに役立つ適性検査の提供。教育については、定額制の研修サービス「エンカレッジ」の提案など。

取材
自社社員で全ての取材を対応している。取材者は取材を行うだけでなく、求人のターゲット設定や選考プロセスの改善、受け入れ時のアドバイスなどのソリューションも提供する。また、取材者が15秒程度の企業紹介の動画を作成し、求職者がより現実に近い情報に基づいて判断できるようにしている。

求人広告の作成・掲載
自社内でコピーライターを育成し、そのコピーライターが求人広告を作成する。

掲載後フォロー
広告掲載後は、営業担当が、企業へのフォローを行い、応募状況や選考の進捗状況を把握し、入社決定までに必要なアドバイスを行う。

入社後フォロー
HR On Boardはウエブツールで、月一回の入社者へのアンケートを行い、入社者の満足度を把握、離職予兆を可視化することができる。企業には離職リスクが高い社員への推奨アクションを提示し、企業からの適切なフォローを促す。2019年2月から無料提供を開始し、入社者のアンケート回答率は約8割であった。

人的資源管理
エン・ジャパンでは、入社後活躍という理念や目指すビジョンに共感できる人材を採用する。採用コンサルという社内資格を創設。能力向上のため350種類以上のカフェテリア講座を展開し、身につけた能力の可視化を行っている。報酬は、インセンティブ中心ではなく、能力向上が基本給の向上に反映される仕組み。

活動間のフィット

エン・ジャパン株式会社 中途求人メディア事業部の活動は、「入社後活躍がゴール」「質の高いサービスを顧客に提供」「求職者目線での商品開発」という主たる選択を支えるために、全案件自社取材、正直・詳細な求人情報、コピーライター育成、クチコミとの連携、新着順の掲載順位、入社後フォローサービス、直販メインの営業など、ユニークな活動が選択されている。(本セクション最後に掲載した「エン・ジャパン株式会社 中途求人メディア事業部の活動システム・マップ」を参照ください。)

戦略を可能にしたイノベーション

  • 事業のゴールを、転職数ではなく、入社後活躍に設定
  • 求人情報に正直さを加えた
  • 採用支援ツール「engage」を顧客企業に無料提供
  • 社員の離職リスク可視化ツール「HR On Board」を顧客企業に無料提供

トレードオフ

  • 売上第一主義をとらない。入社後の活躍・定着をゴールとする。
  • 安易な転職を勧めない。
  • 採用予算のある大企業だけに応募を集めることはしない。
  • 広告料金の大小によって求人広告の情報量に差をつけない。
  • 正直な情報開示に同意しない企業の広告は受注しない。
  • 自社に取材させてくれない企業の広告は受注しない。
  • キャンペーン以外では個別の値引きをしない。
  • 企業理念や「入社後活躍」という考えに共感できない人は採用しない。
  • 報酬制度においてインセンティブ比率を高く設定しない。

戦略の一貫性

エン・ジャパン株式会社 中途求人メディア事業部に提供する求人情報サイト「エン転職」の原型は、エン・ジャパンの前身である日本ブレーンセンターのデジタルメディア事業部が1995年に日本で初めて立ち上げたインターネット求人広告サイト「縁 Employment Net」である。当時の求人広告の主流は紙媒体で、紙幅の制約から、多くの広告料を出した企業ほど大きな広告スペースを得ていた。一方で、小さな広告スペースしか得られない企業はA4版の16分の1程度で、雇用形態、職種、待遇などの必要最低限の情報しか掲載できなかった。応募者は情報不足のため応募をしないか、事前の理解が不十分なまま応募して就職まで至らない事も多く見られた。「縁 Employment Net」はインテ―ネット・ベースであったことから紙幅の制限を受けない。サービス開始当初から、全求人案件について取材を行い、一律に詳細情報の提供を行うこととした。そのため、社内でコピーライターを育成、代理店経由の広告販売でなく直販など、業界の慣行とは異なる選択をした。

2000年にエン・ジャパンとして分社独立。この時から、転職者に真にフィットした職場を見つけて活躍して欲しいという想いを込めて、「仕事を大切に、転職は慎重に」というメッセージでプロモーションを展開するようになった。これが現在の「入社後活躍」という思想につながる。

2002年、ミスマッチのない採用のためには、入社後の現実と事前情報のギャップを解消する必要があると考え、それまでの詳細な情報提供に加えて、ありのままの情報、正直な情報を加えた。具体的には、やりがいだけでなく、仕事の厳しさを伝える項目、取材者の客観的なコメント、職場の雰囲気を伝える動画などを追加。これらは業界で初であった。

2008年以降の景気低迷で求人広告市場が急激、かつ大幅に落ち込んだ際に、エン・ジャパンは、戦略変更をした。経験者にターゲットを変更し、成功報酬型の課金制度を採り入れるなど、採用企業側にたった仕組みに変えていった。その後市場が回復し始めて競合他社が業績を伸ばす中、エン・ジャパンの業績はなかなか戻らなかった。

エン・ジャパンは、求職者を中心におくという原点に戻ることを決め、2014年のサイトリニューアルを機に戦略の見直しを行った。ターゲット顧客を若手の職種転換希望者と中堅中小企業と定め、入社後活躍のために本当に必要な事を基準にサービスを開発した。例えば、採用の基準作り、選考、入社後の活躍・定着化支援などのサービスを加えていった。また、活動のコアである取材については、すべて自社社員で対応し集中的に育成を行った。景気後退期に一度異なる戦略に振れたものの、創業当初からの自社取材による詳細情報の提供に始まる、求職者の立場に立った質の高いサービス開発は同社の核となっている。これに、入社後の様々な支援を伴う「入社後活躍」が加わり、ターゲット市場として若手の職種転換希望者と中堅中小企業という選択が加わったことで、現在のエン・ジャパンの戦略が形成された。

収益性

エン・ジャパン株式会社 中途求人メディア事業部の投下資本利益率と営業利益率は、5年間の業界平均を大きく上回っている。(業界平均との収益性比較は、PwC Japanグループの協力を得ている。)
収益性

エン・ジャパン株式会社 中途求人メディア事業部の活動システム・マップ

活動システム・マップ

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第21回 ポーター賞 応募期間

2021年5月 6日(木)〜 5月31日(月)
上記応募期間中に応募用紙をお送りください。
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