受賞企業・事業レポート

フェニックス電機株式会社

2004年度 第04回ポーター賞受賞 ランプ製造業

電源安定器など他の部品との調整が必要なプロジェクタ/大型リアプロジェクションTV用超高圧水銀灯を製品としながらも、顧客、製造パートナーとユニークな分業体制を確立し、顧客に製品設計の柔軟性と品質保証を低コストで提供

フェニックス電機はプロジェクタ用ランプに特化したランプメーカー。2004年3月期の売上高は65億7千万円で、会社の規模としては競合ランプメーカーの十分の一以下だが、圧倒的な高収益を誇る。

 

ユニークな価値提供

 フェニックス電機は、プロジェクタ/大型リアプロジェクションTV用超高圧水銀灯を主たる製品とし、この売上高が全体の80%を占める。プロジェクタも大型リアプロジェクションTVも急速な技術進化と価格低下が同時に起こっている市場であり、ランプはこれらの製品の機能を左右する部品であることから、同様に機能の向上と価格低下が求められている(もう一つの主たる部品は映像素子で、これら二つの部品が最終製品の性能を大きく決定する)。
 同社は、機能による差別化をしようとしている顧客をターゲット顧客とし、顧客が同社の優れたランプを利用して特徴あるセットを開発することを可能にしている。そのために、開発、生産、アフターセールスサービスを含め、徹底した個別対応を柔軟かつスピーディに行ない、同社の提供する商品の括り方を柔軟にして顧客の選択肢を増やし、セット開発に技術協力することで顧客の設計の自由度を高めている。
 しかも、同社の価格政策は、標準品を販売し個別対応をしない業界リーダーよりも低価格である。同社は低コスト構造を持ち、高利益率を維持しつつ、比較的低価格でこの便益を提供することができる。

独自のバリューチェーン

商品開発
 独自技術によって高性能な製品を開発している。リアプロジェクションTV用ランプも他社がプロジェクタ用ランプの技術を転用したのに対して、リアプロジェクション専用ランプの技術開発を先駆けて行い、完全密閉防爆(他社にはない)、低電圧起動(他社50,000Vに対して2,500V)、周りの明るさに応じて可変出力(100-150W)、瞬間再起動など、大幅な技術差別化を達成している。

マーケティング・セールス
 客先のセットメーカーの開発の初期段階から参加して、自社のランプがその性能を、顧客のセットの中で最大限に発揮できるよう、顧客の完成セットでのランプの使用状況を同社がテスト評価し、技術協力を行う。(高性能な特殊ランプなため使用条件が厳しく、空冷条件、電圧安定器とのマッチング、光学系との相性などによって性能を発揮できない、ランプの破裂、短寿命などの問題を引き起こしやすい)。このように、密着型の販売活動を行うため、第三者を介さず、直接販売を行う。
 同社の顧客密着が評価され、また、価格交渉力がそれほど強くないセットメーカーを選別して顧客とする。常にそのような顧客を探索しており、同社の取引先顧客は最も幅広い。

製造
 独自の製造方法(特許取得済み)により、高性能、高品質、高い歩留まり(他社50-60%に対して65-70%)を実現。
 製造設備は全て自社開発し、セル生産方式とコンベア方式の組み合わせで一個流し混合生産が可能な、多品種少量生産を実現にしている。少数量のロットで生産できるため80個からの少量で受注可能。かつ、材料投入から完成品まで10日の短納期(他社は1から3ヶ月)。
 また、中国の提携先が自社工場と並行してアッセンブリー作業を担当し、自社は発光管のみを提供する分業体制を構築している。提携先の求める利益率が同社ほどは高くないため、全てを同社が製造する場合と比較して、低価格が可能になっている。一方で自ら中国で生産する競合は、労務費の削減効果だけではあまり多くの費用削減を達成することができない。

購買
 積極的に海外から新しい調達先を探索する。供給業者にとって、フェニックス社が日本で最初の取引先となることが多い。

品質保証
 超高圧水銀灯は製品の特徴として求められる使用条件が厳しいため、ユーザー側で、あるいは顧客側でランプに問題が生じる場合も少なくない。このような場合、同社は、セット側の問題あるいは顧客の使用状況の問題とするのでなく、セットメーカーと協力して問題解決に取り組み、セットメーカーだけで問題解決ができない場合には、ランプの設計変更を行う。また、セットメーカーが、自らさかのぼって製造工程上の品質データを検証できるよう、各工程の品質データ、完成品一つずつの性能データなど全ての情報を顧客であるセットメーカーに開示している。

人事・労務管理
 全社員を対象としたストックオプション。これは更正計画中に導入され、そのような状況での導入は国内初であった。年2回の賞与と別に、営業利益の6.6%を4月始めに決算賞与として支給。

活動間のフィット

 フェニックス社が注力している超高圧水銀灯は、空冷条件、電源安定器や光学系とのマッチングなど、セットとの相性によって明るさを始めとする性能が発揮できなかったり、破裂、短寿命などの問題につながることもある。つまり、セットとの統合が求められるアーキテクチャを持った部品である。フェニックス社はこの要求に対して、自社が自ら扱う製品分野は高付加価値なものに限定しつつ、セットとして性能と品質が確保されるような支援を、顧客と製造提携先に対して行っている。
 また、ターゲット顧客が製品差別化を図ろうとしているセットメーカーであることは、同社の柔軟でありつつセットとしての統合性を実現する活動のしくみを不可欠なものにしている。
 ターゲット顧客、製品アーキテクチャと活動が、他社にないユニークな方法でフィットしている。
(「活動システム・マップ」を参照ください。)

戦略を可能にしたイノベーション

  • 従来にない製品範囲の定義。競合他社が品質保証のためにランプアッセンブリーと電源安定器のセットでしか販売しない中、ランプアッセンブリー単体で販売。電源安定器と組み合わせた時の品質保証をするために、自社ランプの性能を確保できる電源安定器の仕様を公開、顧客が自ら製造することや指定電源安定器メーカーからの調達を可能にした。
  • ユニークな分業体制。中国の提携先がランプのアッセンブリーを担当。同社は、最も利益率が高く技術が必要な発光管を提供。中国の提携先には自社開発した製造装置を提供し、製造技術の指導を行うことによって製造効率と品質を改善すると同時に、フェニックス社との相互依存関係を強化。アッセンブリーの最終品質検査はフェニックス社が行い、顧客に対してアッセンブリーの品質保証を提供している。顧客にとっては製品価格の低下、同社にとっては高利益率の維持が可能。
  • 独自の製造方法である二重シール構造(特許取得済み)を開発。高ワット化、高耐久性、製造歩留まり改善が可能で、つまり、高性能低コストが可能な技術。
  • 多品種少量生産でも品質保証を可能にする品質管理システム(トレースバックシステム)を自社開発。

戦略の一貫性

 1995年11月に更生手続き開始を申し立て、事実上倒産。倒産以前は、一般照明用ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、自動車用ハロゲンランプ主体に、少品種大量生産する事業であったが、その商品の多くが薄利多売であった。更生手続き開始申請を機に、大幅な戦略転換を行った。
 競合に比較して小規模で小回りが効くことが差別化要因になる市場としてプロジェクタランプ市場を選択し、1996年3月に低圧メタルハライドによって参入。以来、一貫して、顧客密着による顧客の利便性向上、柔軟かつスピーディ、多品種少量生産、高付加価値活動への集中を続けている。

トレードオフ

  • 商品はプロジェクタ/大型リアプロジェクションTV用ランプに集中し、商品分野を拡大しない。
  • 価格競争をしない。
  • 標準品を大量に提供することはしない。
  • フィリップス、ウシオ電機、松下電器、岩崎電機など業界大手と同じ顧客を取り合わない。
  • 大手プロジェクタメーカーへの納入のための価格競争を行わない。
  • 顧客密着型の販売を行うため、商社など第三者経由の販売を行わない。
  • 電源安定器など、自社が付加価値を付与できない部品を抱き合わせ販売しない。
  • 顧客あるいは他社でも製造できる部品は、自社で製造しない方針。すでに、提携先あるいは顧客による製造へ移行し始めている。
  • 売上高、利益額の増大のみを求めない。一人あたりの売上高、利益率をより重要な目標として追求する。

収益性

 フェニックス電機の、投下資本利益率、営業利益率ともに一貫してランプ製造業界の平均を上回っており、その差は拡大傾向にある。

活動システム・マップ

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第24回 ポーター賞 応募期間

2024年5月 7日(火)〜 6月 3日(月)
上記応募期間中に応募用紙をお送りください。
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