受賞企業・事業レポート

三菱商事・ユービーエス・リアルティ株式会社 インダストリアル本部(産業ファンド投資法人)

2013年度 第13回ポーター賞受賞 産業ファンド投資法人の運用

日本経済の活性化を視野に、日本企業の産業用不動産資産の流動化を支援。

企業概況

MCUBSR.jpg

 三菱商事・ユービーエス・リアルティ株式会社のインダストリアル本部が運用する産業ファンド投資法人(以下、IIF)は、日本で初めて、かつ、現在でも唯一、物流施設、工場・研究開発施設、データ・センターなどの企業所有の産業用不動産および、地方公共団体などが所有し、その産業活動を支える基盤となるインフラ施設などの産業用不動産への投資に特化したREITである。2007年に設立、東京証券取引所に上場。
 一般的に、J-REITは、賃貸マンション棟やオフィスビルに投資することが多い。他のREITに物流センターに投資する例があるが、IIFのように、研究開発施設や、データ・センター、空港のメンテナンスセンターなど、産業用不動産に投資する例は極めて少ない。
 IIFが産業用不動産を購入すると、元の持ち主はリースバックで従来どおりの継続利用を実現することが可能である。IIFは、所有者として、これら施設に対するメンテナンス・サービスも提供する。IIFは、不動産の所有権を証券化したREITの仕組みをとっており、公募増資を通じて投資家に販売される。
 運用会社の三菱商事・ユービーエス・リアルティ株式会社は、三菱商事(51%)と、世界最大級の不動産運用業者であるUBS AG(49%)の合弁会社として、2000年に設立された。
 

ユニークな価値提供

 IIFは、「日本経済の力を産み出す源泉としての社会基盤に投資し、日本の産業活動を不動産面から支えていく」という理念の下、創設された。REITの創設目的に社会的価値が含まれるのは、珍しい。
 不動産をIIFに売却した企業は、その不動産を賃貸料を支払って使用し続けながら、売却資金を得、それを用いて本業へ積極投資をすることが可能になる。売却価格の方が取得価格よりも高い場合には売却益を実現することが可能であるし、固定資産が流動資産になることによって貸借対照表を改善することもできる。賃貸料は長期の賃料固定型賃貸借契約が多いために安定している(テナント企業との平均の賃貸借期間は13年を超えている)。企業が所有不動産を売却するにあたって、私募ファンドなど期限の定めのある主体に売却した場合は、所有者の転売による不動産使用の制限や停止のリスクが発生するが、IIFは満期がなく償還もできないクローズドエンド型の上場J-REITであるため、長期にわたる保有が見込まれ、安定した利用を続けることができる。また、上場J-REITであるため、取得物件の情報、入居率、賃料収入の推移など、運用成績の情報開示が徹底しており、テナント企業は、資産保有者であるIIFの収益面における安定性も常に確認することができる。さらに、メンテナンス・サービスも提供されるため、非コア業務の外注化も可能になる。
 IIFは、グローバル・オファリングも行っており、日本の投資家に加えて、海外の投資家も顧客としている。IIFを購入した投資家は、継続的な分配金、ならびに、値上がり益(これまでの実績)を享受している。IIFの総合的な投資利益率は、J-REITの中でも最高に位置づけられる。物件の入居率は非常に高く、また、安定した賃貸料収入をもたらしている。IIFの2013年3月の入居率は100%であった。一方で、賃貸マンション棟の入居率は業界平均96.6%、物流センターは業界平均97.2%、オフィス物件は業界平均95.1%であった。賃貸収入は、2008年7月を100とした場合、IIFでは2013年6月時点で97.9であったが、 賃貸マンション棟の平均は96.4、物流センターの平均は93.8、オフィスビルの平均は71.6であった。
 

独自のバリューチェーン

 オフィスビル、住宅、商業施設など、市場が確立され流通量が多い物件に投資するREITと比較して、未開拓市場での物件発掘、購入、運用などを行うIIFはユニークなバリューチェーンを持つ。
物件の調達

三菱商事・ユービーエス・リアルティは、「継続性」と「汎用性」を、物件取得基準として設定している。不動産投資の収益は、入居率と賃貸料などに左右されるため、取得する不動産は、それまで所有していた企業による、中長期にわたる安定的な使用が見込まれることが望ましい。また、使用していた企業が、何らかの理由で当該不動産の使用を止めることになった場合にも、他の企業に、賃貸条件を悪化させることなく賃貸できる(バーサティリティ)ことが望ましい。同社は、徹底した事前審査を行い、所有企業の業界構造が当該事業の当該施設への長期的なコミットメントを示唆するものであること、当該企業の収益性が安定しており、また、当該施設が当該企業の活動にとって重要であることなどを確認する。「継続性」と「汎用性」については、社内で審査するだけでなく、第三者機関による評価を受け、その結果を、一つ一つの取得物件について、投資家に情報を開示している。
 三菱商事・ユービーエス・リアルティがIIFを創設した2007年当時、日本に産業不動産の市場はなかったため、同社は、潜在的顧客企業を探索し、彼らに対して不動産証券化の経営面における便益を説明し、また、個々の売り主企業の持つニーズを掘り起こさなければならなかった。その結果、売り主にも付加価値が生まれるウイン・ウインの関係を成立させ、競争入札ではなく、相対取引によって物件を取得する。今や、不動産の証券化やREITという仕組みが日本において広く知られる状態となり、また、IIFの知名度が高まるにつれて、潜在的な顧客からのアプローチも増えている。
資金調達

IIFは、増資、借入、資産入れ替え、手元資金などの手法で資金調達を行う。増資時に取得する物件を短期的にプールしておくために設定するブリッジファンドに、三菱商事が資金拠出することもある。IIFはその優れた財務内容により、株式会社日本格付研究所(JCR)より長期優先債務格付けにおいて、AA(安定的、2013年8月6日付)を得ている。
運用管理

IIFのテナントとの平均賃貸借期間は13年を超え、空室率は上場以来常に0.1%以下に安定しており、安定したキャッシュ・インフローをもたらしている。キャッシュ・アウトフローは、保有物件の修繕費が該当するが、安定したテナントと修繕計画を長期的に設定しているので、安定している。テナントとのきめ細かいコミュニケーションを行っており、これは、長期的に安定した賃借に貢献している。
マーケティング・販売

IIFは、他のREITと比較して不動産市況に影響されにくいユニークなリスク特性を持つが、これを投資家に周知するため、きめ細やかなIR活動を行っている。J-REITとしては例外的に、グローバル・オファリングを行ない、海外から資金を呼び込んでいる。
人的資源管理

多くの社員が親会社から出向している他の多くのJ-REITと対照的に、三菱商事・ユービーエス・リアルティは、CRE提案活動に必要な多様な専門知識を持った人材を独自に採用している。
 

活動間のフィット

 三菱商事・ユービーエス・リアルティ インダストリアル本部の活動システムは、「産業用不動産への特化」というコアとなる戦略上の選択を中心に、「物件取得のためのCRE提案活動」「資金調達およびIR活動」と「運用管理」がコアの活動となっており、「プロフェッショナル人材」がそれらを支えている(活動システム・マップを参照ください。)
 

戦略を可能にしたイノベーション

  • ユニークな投資対象不動産を選択。産業用不動産に投資することを目的とする投資法人は、2007年の創設当時も今も、他にない。
  • CRE戦略として、単に取得・賃借するのでなく、取得不動産を証券化することで、運営会社のリスクを軽減した。加えて、自身で保有し続ける場合に比較して、資金調達を容易にし、事業の拡大可能性を高めた。
  • PRE(Public Real Estate)への展開。公的機関が、保有する不動産を売却し、財政健全化を助ける手法を生み出した。(具体的には、2013年1月に、神戸市から、神戸港にある物流施設の土地部分を取得、IIF神戸ロジスティクセンターへ。)

トレードオフ

  • オフィスビル、賃貸マンション、流通施設などに投資しない。
  • 市場から調達しない。競売に参加しない。
  • 私募を行わない。公募増資に伴う透明性を重視する。
  • 特定のパイプライン(スポンサー)に依存した物件取得をしない。

戦略の一貫性

 三菱商事・ユービーエス・リアルティ株式会社 インダストリアル本部が一貫して守っている戦略のコアは、3つある。
 一つ目は、産業用不動産投資への特化である。同本部が産業ファンド投資法人を上場した2007年10月は、物流施設8物件とインフラ施設1物件、総額660億円であった。しかし、産業ファンド投資法人設立の趣旨であった、企業が継続使用とオフバランス化を同時に可能にする産業不動産の証券化と呼べるような物件の取得が可能になったのは、2010年であった。CRE(Corporate Real Estate)活用戦略の一環として、産業用不動産を売却後賃貸、物件は証券化するという事例が過去になかったことから、売り主企業になかなか受け入れられなかったことが、2010年まで待たねばならなかった理由である。2010年に大成建設の研究所施設(IIF戸塚テクノロジーセンターに改名)を購入し、長期固定賃料で賃貸借契約を結ぶセールス・アンド・リースバックの取引を行い、これによって、産業界における認知が一気に進んだ。この事例以降、開発型物件や公的機関が保有する物件の取得など、産業用不動産投資に特化しつつ、その対象や手法は発展してきている。
 二つ目は、CRE提案活動による物件の取得である。個々の売り主に直接アプローチし、保有不動産の有効活用を提案する活動の中から、売り主との直接交渉を通じた相対取引での物件取得を行うことに集中しており、競争入札による取得価格の上昇を避けている。
 三つ目は、継続性と汎用性を重視した独自の物件選定基準の順守である。全ての物件に対して、継続性と汎用性に関して社内で分析するだけでなく第三者評価を得、投資家に対しても説明を行っている。
 

収益性

投下資本利益率と営業利益率ともに、業界平均を上回っている。

活動システム・マップ

受賞企業・事業部 PDF

第24回 ポーター賞 応募期間

2024年5月 7日(火)〜 6月 3日(月)
上記応募期間中に応募用紙をお送りください。
PAGETOP